最判平成2年11月8日家月43巻3号72頁

離婚コラム【目次】
離婚に関する主要な最高裁判例【目次】

最判平成2年11月8日家月43巻3号72頁

有責配偶者からの離婚請求・・・・別居期間が相当長期間に及んだとされた事例

       主   文

原判決を破棄する。
本件を東京高等裁判所に差し戻す。

       理   由

上告代理人布留川輝夫の上告理由について
一 原審が確定した事実関係は,次のとおりである。
(1) 上告人と被上告人とは,昭和三三年五月七日婚姻し,昭和三六年六月二日に長男を,昭和三九年四月三日に二男をそれぞれもうけた(原審の口頭弁論が終結した平成元年一月一八日において,上告人は五二歳,被上告人は五五歳,長男は二九歳,二男は二四歳である。)。
(2) 上告人は,婚姻後の約三年間は被上告人の父方におけるロープとシートの製造販売等の仕事を手伝っていたが,その後,被上告人と共に独立して同種の商売を始めた。しかし,商売のやり方について,上告人と被上告人との意見が異なることが多く,口論が絶えず,上告人は被上告人が商売から手を引いて専業主婦となることを望み,被上告人は昭和四四年ころから商売への関与を止めた。上告人は,昭和四七年ころ,世田谷区代沢一丁目八八番地六所在の建物の建替えを計画していたところ,被上告人から反対されたため,これを断念した。上告人は,昭和五六年夏ころ,被上告人に対して「一人になって暫く考えたい,疲れた。」と言って,被上告人と同居していた家を出て別居し,当初の二,三か月間は週に二日位は被上告人方に帰って来ていたが,その後はこれも止め,現在に至っている。
(3) 上告人は,右別居の前から訴外人と情交関係があり,右別居後に同人と同棲するようになり,間もなく同人とは別れたものの,被上告人及び子らに自己の住所を明かさず,被上告人との連絡も上告人の仕事上の事務所にさせている。
(4) 上告人は,被上告人に対する生活費として,昭和六一年二月ころまでは月額六〇万円を,その後は三五万円を交付してきたが,被上告人が上告人名義の不動産の持分二分の一に対して処分禁止の仮処分の執行をしたことに立腹して,昭和六二年一月から右金員の交付を中止した。しかし,その後,婚姻費用分担の調停が成立し,上告人は昭和六三年五月からは被上告人に対して月額二〇万円を送金しており,被上告人は,ほかに内職により月額六万円の収入を得ている。
(5) 上告人は,従来,離婚に伴う財産関係の清算として,被上告人の居住している上告人名義の土地建物を処分し,抵当権の被担保債務を弁済した残金を被上告人と折半するという提案をしていたが,原審の和解においては,処分代金から税金,手数料等の経費を控除した残金を折半し,抵当権の被担保債務は上告人の取得分の中から弁済するとの譲歩案を示している。
(6) 長男は,法政大学大学院を修了して,現在,国費留学生としてフランスに留学中であり,二男は,千葉大学工学部に在学中であり,その学費等は,本人のアルバイトのほか被上告人の収入から賄われており,両名との離婚については,被上告人の意思に任せる意向である。
二 原審は,右事実関係に基づき,次の理由により上告人の離婚請求を棄却した。
(1) 上告人と被上告人との婚姻関係は既に破綻し,回復の見込みはないが,その原因は,上告人が守操義務及び同居義務に違反して,訴外人と情交関係をもち,被上告人と別居して同訴外人と同棲するようになり,間もなく同人とは別れたものの,その後も被上告人には住所さえ知らせず別居を継続していることにあるから,本件における婚姻関係の破綻についての責任は,専ら上告人の側にある。
(2) 上告人と被上告人との間の子らは,いずれももはや未成熟子ということはできない。また,上告人から被上告人に対しては,財産関係の清算について具体的で相応の誠意があると認められる提案がされており,離婚が認容されこの提案が実行された場合には,現在の生活と比べて,被上告人が社会的・経済的により不利な状態に置かれるとは考えられない。
(3) しかし,被上告人は,現在においても,上告人との婚姻関係の継続を希望しており,本件での約八年の別居は,当事者の年齢,同居期間と対比して考えた場合,未だ有責配偶者としての上告人の責任と被上告人の婚姻関係継続の希望とを考慮の外に置くに足りる相当の長期間ということはできない。かえって,現段階において被上告人の意に反して上告人からの離婚請求を認めることは,自ら婚姻関係破綻の原因を作出した上告人がこれを理由として離婚の請求をすることを安易に承認する結果となって,相当でない。
三 しかし,原審の右判断は是認できない。その理由は,次のとおりである。
すなわち,有責配偶者からの民法七七〇条一項五号所定の事由による離婚請求の許否を判断する場合には,夫婦の別居が両当事者の年齢及び同居期間との対比において相当の長期間に及んだかどうかをも斟酌すべきものであるが,その趣旨は,別居後の時の経過とともに,当事者双方についての諸事情が変容し,これらのもつ社会的意味ないし社会的評価も変化することを免れないことから,右離婚請求が信義誠実の原則に照らして許されるものであるかどうかを判断するに当たっては,時の経過がこれらの諸事情に与える影響も考慮すべきであるとすることにある(最高裁昭和六一年(オ)第二六〇号同六二年九月二日大法廷判決・民集四一巻六号一四二三頁参照)。従って,別居期間が相当の長期間に及んだかどうかを判断するに当たっては,別居期間と両当事者の年齢及び同居期間とを数量的に対比するのみでは足りず,右の点をも考慮に入れるべきものであると解するのが相当である。
ところで,前記事実関係によれば,上告人と被上告人との別居期間は約八年ではあるが,上告人は,別居後においても被上告人及び子らに対する生活費の負担をし,別居後間もなく不貞の相手方との関係を解消し,更に,離婚を請求するについては,被上告人に対して財産関係の清算についての具体的で相応の誠意があると認められる提案をしており,他方,被上告人は,上告人との婚姻関係の継続を希望しているとしながら,別居から五年余を経たころに上告人名義の不動産に処分禁止の仮処分を執行するに至っており,また,成年に達した子らも離婚については婚姻当事者たる被上告人の意思に任せる意向であるというのである。そうすると,本件においては,格別の事情の認められない限り,別居機関の経過に伴い,当事者双方についての諸事情が変容し,これらのもつ社会的意味ないし社会的評価も変化したことが窺われるのである(当審判例(最高裁昭和六二年(オ)第八三九号平成元年三月二八日判決・裁判集民事一五六号四一七頁)は事案を異にし,本件に適切でない。)。
以上によれば,右の点について十分な審理を尽くすことなく上告人の離婚請求を棄却した原判決は,民法一条二項,同法七七〇条一項五号の解釈適用を誤り,ひいては審理不尽,理由不備の違法を犯したものといわざるを得ず,右違法が原判決に影響を及ぼすことが明らかであるから,この違法をいう論旨は理由があり,原判決は破棄を免れない。そして,本件については,更に審理を尽くさせるため,本件を原審に差し戻すこととする。
よって,民訴法四〇七条一項に従い,裁判官全員一致の意見で,主文のとおり判決する。
最高裁裁判長裁判官四ツ谷巖,裁判官角田禮次郎,同大内恒夫,同大堀誠一,同橋元四郎平

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