最判平成6年2月8日家月46巻9号59頁

離婚コラム【目次】
離婚に関する主要な最高裁判例【目次】

最判平成6年2月8日家月46巻9号59頁

未成熟子がいる有責配偶者からの離婚請求を認容

       主   文

本件上告を棄却する。
上告費用は上告人の負担とする。

       理   由

上告代理人岡崎守延の上告理由について
原審の適法に確定した事実関係の概要は,次のとおりである。
(1) 上告人(昭和一三年九月生)と被上告人(昭和一一年九月生)は,昭和三九年二月婚姻の届出をし,同四〇年八月に長女甲を,同四二年八月に長男乙を,同四五年七月に二男丙を,同五〇年一二月に三男丁をもうけた。
(2) 被上告人は,会社の経営に行き詰まり,昭和五四年二月八日に家出して行方をくらました。上告人は,四人の子を育て,被上告人の帰りを待っていたが,子らが幼いため仕事も思うようすることができず,自宅も競売に付され,ついに生活保護を受けるに至った。一方,被上告人は,昭和五六年ころ二児を抱えるX子と知り合い,同五八年に同女と同せいを始め,現在勤務している会社には同女を妻として届け出ている。
(3) 上告人は,昭和六〇年六月ころ,被上告人がX子及び同女の子らと同居している事実を知り,被上告人に対して再三にわたり手紙や電話で積年の恨みの気持ちをぶつけ,自分のもとに戻ってくるよう強く求めたが,被上告人は,かえって上告人への嫌悪感を募らせ,離婚してX子と正式な婚姻生活に入りたいとする意思を一層固めるようになった。
(4) 昭和六三年九月に被上告人に対し婚姻費用として毎月一七万円(ただし,毎年七月は五三万円,一二月は六五万円)の支払を命ずる家庭裁判所の審判がされた。その後,被上告人は,上告人に対し,毎月一五万円(毎年七月と一二月は各四〇万円)を送金している。
(5) 被上告人は,いまや上告人との同居生活を回復する意思を全く持っておらず,強く離婚を望み,離婚に伴う給付として七〇〇万円を支払うとの提案をしている。上告人は,三男丁を養育していく上では父親の存在が欠かせないとの理由で離婚に反対している。長女甲は平成元年三月一九日に婚姻し,長男乙及び二男丙も既に成人して独立している。
ところで,民法七七〇条一項五号所定の事由による離婚請求がその事由につき専ら又は主として責任のある一方の当事者(以下「有責配偶者」という。)からされた場合において,右請求が信義誠実の原則に照らしてもなお容認されるかどうかを判断するには,有責配偶者の責任の態様・程度,相手方配偶者の婚姻継続についての意思及び請求者に対する感情,離婚を認めた場合における相手方配偶者の精神的・社会的・経済的状態及び夫婦間の子,殊に未成熟の子の監護・教育・福祉の状況,別居後に形成された生活関係,たとえば夫婦の一方又は双方が既に内縁関係を形成している場合にはその相手方や子らの状況等が斟酌されなければならず,更には,時の経過がこれらの諸事情に与える影響も考慮されなければならないものというべきである(最高裁昭和六一年(オ)第二六〇号同六二年九月二日大法廷判決民集四一巻六号一四二三頁参照)。従って,有責配偶者からされた離婚請求で,その間に未成熟の子がいる場合でも,ただその一事をもって右請求を排斥すべきものではなく,前記の事情を総合的に考慮して右請求が信義誠実の原則に反するとはいえないときには,右請求を認容することができると解するのが相当である。
これを本件についてみるのに,前記事実関係の下においては,上告人と被告人との婚姻関係は既に全く破綻しており民法七七〇条一項五号所定の事由があるといわざるを得ず,かつ,また被上告人が有責配偶者であることは明らかであるが,上告人が被上告人と別居してから原審の口頭弁論終結時(平成五年一月二〇日)までには既に一三年一一月余が経過し,双方の年齢や同居期間を考慮すると相当の長期間に及んでおり,被上告人の新たな生活関係の形成及び上告人の現在の行動等からは,もはや婚姻関係の回復を期待することは困難であるといわざるを得ず,それらのことからすると,婚姻関係を破綻せしめるに至った被上告人の責任及びこれによって上告人が被った前記婚姻後の諸事情を考慮しても,なお,今日においては,もはや,上告人の婚姻継続の意思及び離婚による上告人の精神的・社会的状態を殊更に重視して,被上告人の離婚請求を排斥するのは相当でない。
上告人が今日までに受けた精神的苦痛,子らの養育に尽くした労力と負担,今後離婚により被る精神的苦痛及び経済的不利益の大きいことは想像に難くないが,これらの補償は別途解決されるべきものであって,それがゆえに,本件離婚請求を容認し得ないものということはできない。
そして,現在では,上告人と被上告人間の四人の子のうち三人は成人して独立しており,残る三男丁は親の扶養を受ける高校二年生であって未成熟の子というべきであるが,同人は三歳の幼少時から一貫して上告人の監護の下で育てられてまもなく高校を卒業する年齢に達しており,被上告人は上告人に毎月一五万円の送金をしてきた実績に照らして丁の養育にも無関心であったものではなく,被上告人の上告人に対する離婚に伴う経済的給付もその実現を期待できるものとみられることからすると,未成熟子である丁の存在が本件請求の妨げになるということもできない。
以上と同旨に帰する原審の判断は,正当として是認できる。原判決に所論の違法はなく,論旨は,右と異なる見解に立って原判決の違法をいうものであって,採用できない。
よって,民訴法四〇一条,九五条,八九条に従い,裁判官全員一致の意見で,主文のとおり判決する。
最高裁裁判長裁判官園部逸夫 裁判官佐藤庄市郎,同可部恒雄,同大野正男,同千種秀夫

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