最判平成10年3月13日家月50巻10号103頁

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最判平成10年3月13日家月50巻10号103頁

1 公正証書遺言と遺言者の署名押印への証人立会の要否
2 同押印の際2人のうち1人の証人立会いなく作成された遺言公正証書の効力

      主   文

本件上告を棄却する。
上告費用は上告人らの負担とする。

      理   由

上告人代理人藏大介の上告理由第七の二及び三について
民法九六九条に従い公正証書による遺言がされる場合において,証人は,遺言者が同条四号所定の署名及び押印をするに際しても,これに立ち会うことを要するものと解すべきである。何故なら,同条一号が公正証書による遺言につき二人以上の証人の立会いを必要とした趣旨は,遺言者の真意を確保し,遺言をめぐる後日の紛争を未然に防止しようとすることにあるところ,同条四号所定の遺言者による署名及び押印は,遺言者がその口授に基づき公証人が筆記したところを読み聞かされて,遺言の趣旨に照らし右筆記が正確なことを承認した旨を明らかにし,当該筆記をもって自らの遺言の内容とすることを確定する行為であり,右遺言者による署名及び押印について,これが前記立会いの対象から除外されると解すべき根拠は存在しないからである。
原審の適法に確定した事実関係によれば,(1)Xは,平成三年七月一八日,仙台法務局所属公証人壱に対し,本件遺言公正証書の作成を嘱託し,壱公証人は,同日午後六時から六時三〇分ころまでの間に,Xの入院先の病室において甲及び乙を証人として立ち会わせた上,Xから遺言の趣旨の口授を受けて本件遺言公正証書の原案を作成し,これをXに読み聞かせたところ,Xは,筆記の正確なことを承認して遺言者としての署名をしたが,同人が印章を所持していなかったことから,手続はいったん中断された,(2)壱公証人は,被上告人がXの印章をその自宅から持ってきた後の同日午後七時三〇分ころ,前記病室において,乙の立会いの下,再度筆記したところを読み聞かせ,Xは,その内容を確認した上,これに押印した,(3)右Xの押印の際,甲は,これに立ち会わず,病院の待合室で待機していたが,待合室に戻ってきた壱公証人から,Xの押印を得て完成した本件遺言公正証書を示されたというのである。
右のとおり,証人のうちの一人である甲は,Xが本件遺言公正証書に押印する際に立ち会っていなかったのであるから,本件遺言公正証書の作成の方式には瑕疵があったというべきである。しかし,Xは,いったん証人二人の立会いの下に筆記を読み聞かされた上で署名をし,比較的短時間の後に乙立会いの下に再度筆記を読み聞かされて押印を行い,甲はその直後ころ右押印の事実を確認したものであって,この間にXが従前の考えを翻し,又は本件遺言公正証書がXの意思に反して完成されたなどの事情は全くうかがわれない本件においては,本件遺言公正証書につき,あえて,その効力を否定するほかはないとまで解することは相当でない。してみると,上告人らの本件遺言無効確認等請求を棄却すべきもとのとした原審の判断は,結論において是認できる。論旨は,結局,原判決の結論に影響しない事項についての違法をいうものに帰し,採用できない。
その余の上告理由について
所論の点に関する原審の事実認定は,原判決挙示の証拠関係に照らして首肯するに足り,右事実関係の下においては,上告人らの本件請求を棄却すべきものとした原審の判断は,是認できないではない。論旨は採用できない。
よって,裁判官全員一致の意見で,主文のとおり判決する。

最高裁裁判長裁判官根岸重治 裁判官大西勝也,同河合伸一,同福田 博


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