最判平成17年7月22日家月58巻1号83頁

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最判平成17年7月22日家月58巻1号83頁

遺言書の記載のみに依拠して遺言書の条項の文言を形式的に解釈するのは誤りであるとされた事例

      主   文

原判決中上告人敗訴部分を破棄する。
前項の部分につき、本件を大阪高等裁判所に差し戻す。

      理   由

上告代理人平山芳明ほかの上告受理申立て理由(ただし、排除されたものを除く。)について
1 原審が確定した事実関係の概要等は,次のとおりである。
(1)甲は,兄である丙とその妻丁(以下,この夫婦を「丙夫婦」という。)の間に出生した上告人について,甲とその妻乙(以下,この夫婦を「甲夫婦」という。)の嫡出子として出生の届出をし,甲を筆頭者とする戸籍には,上告人は甲の長男として記載されている。
(2)乙は,昭和37年9月13日に死亡し,甲は,昭和62年12月26日に死亡した。甲の相続人は,甲の兄弟である丙,戊及び被上告人X1の3人であった。その後,戊が死亡し,被上告人X2,同X3,同X4,同X5,同X6及び同X7が戊の遺産を相続し,次いで,丙が死亡し,その配偶者及び子(上告人を含む。)が丙の遺産を相続した。
(3)甲は,昭和57年5月11日付けの自筆の遺言書(以下「本件遺言書」という。)を作成していた。本件遺言書は4項目から成るものであり,1項から3項までには,特定の財産について特定人を指定して贈与等する旨記載されており,4項には,「遺言者は法的に定められたる相續人を以って相續を与へる。」と記載されている。
2 本件は,① 被上告人X8を除く被上告人ら(以下「個人被上告人ら」という。)が,被上告人X1については甲の死亡に伴う相続により,同被上告人を除く個人被上告人らについては甲及び戊の各死亡に伴う順次の相続により,第1審判決別紙相続財産目録記載の甲の遺産(以下「本件遺産」という。)をそれぞれの法定相続分に応じて取得したと主張して,上告人に対し,個人被上告人らが本件遺産について各法定相続分の割合による持分を有することの確認等を求め,② 上告人が,本件遺言書による甲の遺言に基づき本件遺産を遺贈されたなどと主張して,被上告人らに対し,上告人が本件遺産のうちの不動産について所有権を有することの確認等を求めた事案である。
3 原判決は,次のとおり判断して,個人被上告人らの上記①の請求についてはその全部を,上告人の上記②の請求については,上告人が本件遺産のうちの不動産について甲の相続人である丙の相続人として有する相続分に相当する持分36分の1を有することの確認を求める限度で,それぞれ認容すべきものとした。
本件遺言書は,1項から3項までには,特定人を指定して遺贈等をする旨の記載がされているが,4項には「法的に定められたる相續人」とのみ記載されている。仮に甲が本件遺言書1項から3項までに記載された遺産を除く同人の遺産を上告人に遺贈する意思を有していたのであれば,同4項においても,同1項から3項までと同様に,上告人を具体的に指定すれば足りるのにこれをしていない。以上のことからすると,同4項の「法的に定められたる相續人」は,上告人を指すものでも上告人を積極的に排斥するものでもなく,単に法定相続人を指すものと解するのが相当である。また,同1項及び3項では「贈与」の文言が用いられているが,同4項では同文言が用いられていないことからすると,同項の「相續を与へる」を遺贈の趣旨であると解することはできない。以上のような本件遺言書の記載に照らすと,本件遺言書4項は,同1項から3項までに記載された遺産を除く甲の遺産を同人の法定相続人に相続させる趣旨のものであることが明らかである。
4 しかし,原審の上記判断は是認できない。その理由は,次のとおりである。
遺言を解釈するに当たっては,遺言書の文言を形式的に判断するだけでなく,遺言者の真意を探究すべきであり,遺言書が複数の条項から成る場合に,そのうちの特定の条項を解釈するに当たっても,単に遺言書の中から当該条項のみを他から切り離して抽出し,その文言を形式的に解釈するだけでは十分でなく,遺言書の全記載との関連,遺言書作成当時の事情及び遺言者の置かれていた状況などを考慮して,遺言者の真意を探究し,当該条項の趣旨を確定すべきである(最高裁昭和55年(オ)第973号同58年3月18日判決・裁判集民事138号277頁参照)。
原審は,本件遺言書の記載のみに依拠して,本件遺言書4項の趣旨を上記のとおり解釈しているが,記録によれば,甲は,乙との間に子がなかったため,丙夫婦の間に出生した上告人を甲夫婦の実子として養育する意図で,上告人につき甲夫婦の嫡出子として出生の届出をしたこと,上告人は,昭和18年1月20日に出生してから学齢期に達するまで,九州在住の丙夫婦の下で養育され,その後,神戸市在住の甲夫婦に引き取られたが,上告人が上記の間丙夫婦の下で養育されたのは,戦中戦後の食糧難の時期であったためであり,上告人は,甲夫婦に引き取られた後甲が死亡するまでの約39年間,甲夫婦とは実の親子と同様の生活をしていたことがうかがわれる。そして,甲が死亡するまで,本件遺言書が作成されたころも含め,甲と上告人との間の上記生活状態に変化が生じたことはうかがわれない。以上の諸点に加えて,本件遺言書が作成された当時,上告人は,戸籍上,甲の唯一の相続人であったことに鑑みると,法律の専門家でなかった甲としては,同人の相続人は上告人のみであるとの認識で,甲の遺産のうち本件遺言書1項から3項までに記載のもの以外はすべて上告人に取得させるとの意図の下に本件遺言書を作成したものであり,同4項の「法的に定められたる相續人」は上告人を指し,「相續を与へる」は客観的には遺贈の趣旨と解する余地が十分にあるというべきである。原審としては,本件遺言書の記載だけでなく,上記の点等をも考慮して,同項の趣旨を明らかにすべきであったといわなければならない。ところが,原審は,上記の点等についての審理を尽くすことなく,同項の文言を形式的に解釈したものであって,原審の判断には,審理不尽の結果,判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反があるというべきである。論旨は理由があり,原判決中上告人敗訴部分は破棄を免れない。そして,更に審理を尽くさせるため,同部分につき本件を原審に差し戻すこととする。
よって,裁判官全員一致の意見で,主文のとおり判決する。
最高裁裁判長裁判官  滝井繁男 裁判官福田 博,同津野 修,同中川了滋


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