最判昭和56年11月13日民集35巻8号1251頁

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最判昭和56年11月13日民集35巻8号1251頁

終生扶養を前提とする養子縁組に関し不動産の大半を養子に遺贈したが,その後養子に対する不信から協議離縁をした場合と遺言の取消し

      主   文

本件上告を棄却する。
上告費用は上告人らの負担とする。

      理   由

上告代理人花岡敬明の上告理由について
一 本件について原審が認定した事実関係は,およそ次のとおりである。
1 甲(明治二七年三月生)は,大正八年二月乙(明治三三年七月生)と婚姻したが,乙との間には実子はなく,丙との間に出生した被上告人丁がただ一人の実子であったが,同被上告人とは同居していなかった。
2 甲夫婦は,昭和七年九月甲の実弟戊と養子縁組したが,同人の妻と乙との折合いが悪く十数年後に別居し,また,昭和三五年六月戊の子の被上告人Xと養子縁組したが,やはり同人の妻と乙との折合いが悪く数年後に別居した。その後甲夫婦は,昭和四八年三月ころ実子である被上告人丁と同居したが,同人の妻と乙との折合いが悪く同年一〇月ころ別居した。
3 ところで,その後乙が脳溢血で入院するということもあったので,甲夫婦は,終生老後の世話を託すべく,今度は妻乙の実家筋の乙家から上告人らを養子として迎えることを希望した。これに対し,上告人らは当初難色を示したが,甲から「実子の被上告人丁には居住する家屋敷だけやれば十分であるから,もし上告人らが養子となり甲夫婦を今後扶養してくれるならば,他の不動産を全部遺贈してもよい」との趣旨の申出を受けたので,これを承諾し,昭和四八年一二月二二日甲夫婦と養子縁組したうえ,同夫婦と同居し共同生活を営みつつその扶養をしていた。
4 そして,甲は,前記の約旨にしたがい,同月二八日公正証書により,その所有する現金,預貯金全部を妻の乙に遺贈し,不動産のうち市川市の宅地三六・一三㎡を被上告人丁に遺贈するが,その余の不動産全部を上告人両名に持分各二分の一として遺贈する旨の本件遺言をした。
5 ところが,昭和四九年一〇月,上告人Y及び実兄の訴外Zが経営していた株式会社が倒産したが,そのことにより上告人Y及び訴外Zが甲に無断で甲所有の不動産について右会社の永代信用金庫に対する四億円の債務担保のため根抵当権設定等の登記をしていることが発覚した。そして,甲がこのことを知って激怒したため,上告人Y及び訴外Zは,六か月以内に右根抵当権設定登記等を抹消し,かつ,甲から右会社が借用していた一五〇〇万円を返還することを約し,その旨の念書を甲に差し入れたが,右約束を履行するに至らなかった。
6 そこで,甲夫婦は,上告人らに対し不信の念を深くして,上告人らに対し養子縁組を解消したい旨申し入れたところ,上告人らもこれを承諾したので,昭和五〇年八月二六日甲夫婦と上告人らとの間で協議離縁が成立し,上告人らは甲夫婦と別居した。
7 上告人らは,別居後甲夫婦を扶養せず,被上告人丁夫婦が甲夫婦の身の廻りの世話をしていたが,甲は,昭和五二年一月八日死亡し,乙も同年二月一日死亡した。
以上の認定は,原判決挙示の証拠関係に照らし,すべて正当として是認することができ,その過程に所論の違法はない。
二 ところで,民法一〇二三条一項は,前の遺言と後の遺言と抵触するときは,その抵触する部分については,後の遺言で前の遺言を取り消したものとみなす旨定め,同条二項は,遺言と遺言後の生前処分その他の法律行為と抵触する場合にこれを準用する旨定めているが,その法意は,遺言者がした生前処分に表示された遺言者の最終意思を重んずるにあることはいうまでもないから,同条二項にいう抵触とは,単に,後の生前処分を実現しようとするときには前の遺言の執行が客観的に不能となるような場合にのみにとどまらず,諸般の事情より観察して後の生前処分が前の遺言と両立せしめない趣旨のもとにされたことが明らかである場合をも包含するものと解するのが相当である。そして,原審の適法に確定した前記一の事実関係によれば,甲は,上告人らから終生扶養を受けることを前提として上告人らと養子縁組したうえその所有する不動産の大半を上告人らに遺贈する旨の本件遺言をしたが,その後上告人らに対し不信の念を深くして上告人らとの間で協議離縁し,法律上も事実上も上告人らから扶養を受けないことにしたというのであるから,右協議離縁は前に本件遺言によりされた遺贈と両立せしめない趣旨のもとにされたものというべきであり,従って,本件遺贈は後の協議離縁と抵触するものとして前示民法の規定により取り消されたものとみなさざるをえない筋合いである。右と同旨の原審の判断は,正当として是認することができ,原判決に所論の違法はない。論旨は,畢竟,原審の専権に属する証拠の取捨判断,事実の認定を非難するか,又は独自の見解に基づいて原判決を論難するものにすぎず,いずれも採用できない。
よって,民訴法四〇一条,九五条,八九条,九三条に従い,裁判官全員一致の意見で,主文のとおり判決する。
最高裁裁判長裁判官鹽野宜慶 裁判官栗本一夫,同木下忠良,同宮崎梧一

 


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