最判平成20年1月24日民集62巻1号63頁

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最判平成20年1月24日民集62巻1号63頁

価額弁償の意思表示を受けて遺留分権利者が価額弁償請求する場合に当該遺留分権利者が遺贈目的物につき価額弁償請求権を確定的に取得する時期

      主   文

1 原判決のうち,遺留分減殺請求に係る部分を次のとおり変更する。
(1)被上告人乙子は,上告人甲子に対し,1762万3727円及びこれに対する平成16年7月17日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
(2)被上告人丙子は,上告人甲子に対し,334万7145円及びこれに対する平成16年7月17日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
(3)被上告人乙子は,上告人丁に対し,1732万6915円及びこれに対する平成16年7月17日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
(4)被上告人丙子は,上告人丁に対し,329万0774円及びこれに対する平成16年7月17日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
(5)上告人らのその余の請求を棄却する。
2 前項の請求に関する訴訟の総費用は,これを2分し,その1を上告人らの負担とし,その余を被上告人らの負担とする。

      理   由

上告代理人前川弘美の上告受理申立て理由について
1 本件は,Xの相続について,遺留分権利者である上告人らが,Xからその遺産を遺贈された被上告人らに対し,民法1041条1項に基づく価額弁償として,弁償金及びこれに対する相続開始の日から支払済みまでの遅延損害金の支払を求める事案であり,その遅延損害金の起算日はいつであるのかが争われている。
2 原審が適法に確定した事実関係の概要等は次のとおりである。
(1)X(大正13年9月*日生)は,平成8年2月9日に死亡した。その法定相続人は,妻であるY,実子である上告人甲子,被上告人乙子及び被上告人丙子並びに養子である上告人丁及び戊である。
(2)Xの相続について,上告人丁及び上告人甲子の遺留分は各20分の1である。
(3)Xは,名古屋法務局所属公証人作成に係る平成7年第732号公正証書により,第1審判決別紙遺産目録ⅠないしⅢ記載のとおり,Xの遺産を被上告人ら及びYにそれぞれ相続させる旨の遺言をした。
(4)上告人らは,平成8年8月18日,被上告人ら及びYに対して遺留分減殺請求権を行使し,被上告人ら及びYがXから前記公正証書遺言により取得した遺産につき,それぞれその20分の1に相当する部分を返還するように求めた。
(5)上告人らは,平成9年11月19日に本訴を提起し,遺留分減殺を原因とする不動産の持分移転登記手続等を求めたところ,被上告人丙子は平成15年8月5日,被上告人乙子は平成16年2月27日,それぞれ第1審の弁論準備手続期日において上告人らに対し価額弁償をする旨の意思表示をした。これに対し,上告人らは,平成16年7月16日の第1審の口頭弁論期日において,訴えを交換的に変更して価額弁償請求権に基づく金員の支払を求めるとともに,その附帯請求として,相続開始の日である平成8年2月9日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求めた。
3(1)第1審は,上告人らの価額弁償請求を一部認容したが,その附帯請求については,上告人らが被上告人らに対して遺留分減殺請求をした日の翌日である平成8年8月19日から支払済みまでの遅延損害金の支払を求める限度で認容した。
(2)原審は,次のとおり判示して,第1審判決を変更し,上告人らによる価額弁償請求に係る附帯請求について,判決確定の日の翌日から支払済みまでの遅延損害金の支払を求める限度で認容すべきものとした。
特定物の遺贈につき履行がされた場合に,民法1041条の規定により受遺者が遺贈の目的の返還義務を免れるためには,単に価額の弁償をすべき旨の意思表示をしただけでは足りず,価額の弁償を現実に履行するか又はその履行の提供をしなければならない(最高裁昭和53年(オ)第907号同54年7月10日判決・民集33巻5号562頁)。もっとも,遺留分減殺請求をした遺留分権利者が遺贈の目的である不動産の持分移転登記手続を求める訴訟において,受遺者が,事実審口頭弁論終結前に,裁判所が定めた価額により民法1041条1項の規定による価額の弁償をする旨の意思表示をした場合には,裁判所は,同訴訟の事実審口頭弁論終結時を算定の基準時として弁償すべき額を定めた上,受遺者がその額を支払わなかったことを条件として,遺留分権利者の請求を認容すべきものである(最高裁平成6年(オ)第1746号同9年2月25日判決・民集51巻2号448頁)。そして,この理は,本件のように,受遺者が民法1041条所定の価額の弁償をする旨の意思表示をしたのに対し,遺留分権利者が訴えを変更してその弁償金の支払を求めるに至った場合においても異なるものではなく,遺留分権利者の訴えの変更によって受遺者のした意思表示の内容又は性質が変容するものとみることはできないから,遺留分権利者は,裁判所が受遺者に対し民法1041条の規定による価額を定めてその支払を命じることによって初めて受遺者に対する弁償すべき価額に相当する額の金銭の支払を求める権利を取得するものというべきである。従って,上告人らの遅延損害金の請求は,本判決確定の日の翌日以降の支払を求める限度で理由がある。
4 しかし,原審の上記判断は是認できない。その理由は,次のとおりである。
(1)受遺者が遺留分権利者から遺留分減殺に基づく目的物の現物返還請求を受け,遺贈の目的の価額について履行の提供をした場合には,当該受遺者は目的物の返還義務を免れ,他方,当該遺留分権利者は,受遺者に対し,弁償すべき価額に相当する金銭の支払を求める権利を取得すると解される(前掲最高裁昭和54年7月10日判決,前掲最高裁平成9年2月25日判決参照)。また,上記受遺者が遺贈の目的の価額について履行の提供をしていない場合であっても,遺留分権利者に対して遺贈の目的の価額を弁償する旨の意思表示をしたときには,遺留分権利者は,受遺者に対し,遺留分減殺に基づく目的物の現物返還請求権を行使することもできるし,それに代わる価額弁償請求権を行使することもできると解される(最高裁昭和50年(オ)第920号同51年8月30日判決・民集30巻7号768頁,前掲最高裁平成9年2月25日判決参照)。そして,上記遺留分権利者が受遺者に対して価額弁償を請求する権利を行使する旨の意思表示をした場合には,当該遺留分権利者は,遺留分減殺によって取得した目的物の所有権及び所有権に基づく現物返還請求権をさかのぼって失い,これに代わる価額弁償請求権を確定的に取得すると解するのが相当である。従って,受遺者は,遺留分権利者が受遺者に対して価額弁償を請求する権利を行使する旨の意思表示をした時点で,遺留分権利者に対し,適正な遺贈の目的の価額を弁償すべき義務を負うというべきであり,同価額が最終的には裁判所によって事実審口頭弁論終結時を基準として定められることになっても(前掲最高裁昭和51年8月30日判決参照),同義務の発生時点が事実審口頭弁論終結時となるものではない。そうすると,民法1041条1項に基づく価額弁償請求に係る遅延損害金の起算日は,上記のとおり遺留分権利者が価額弁償請求権を確定的に取得し,かつ,受遺者に対し弁償金の支払を請求した日の翌日ということになる。
(2)これを本件についてみると,前記事実関係等によれば,遺留分権利者である上告人らは,被上告人らがそれぞれ価額弁償をする旨の意思表示をした後である平成16年7月16日の第1審口頭弁論期日において,訴えを交換的に変更して価額弁償請求権に基づく金員の支払を求めることとしたのであり,この訴えの変更により,被上告人らに対し,価額弁償請求権を確定的に取得し,かつ,弁償金の支払を請求したものというべきである。そうすると,上告人らは,被上告人らに対し,上記価額弁償請求権について,訴えの変更をした日の翌日である同月17日から支払済みまでの遅延損害金の支払を請求することができる。
5 以上と異なる原審の判断には,判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反がある。論旨は,上記の趣旨をいうものとして理由があり,原判決のうち,価額弁償請求に係る遅延損害金について上記訴えの変更をした日の翌日から判決確定の日までの請求を棄却した部分は破棄を免れない。そして,上告人らの価額弁償請求は,被上告人らに対して各弁償金及びこれに対する訴えの変更をした日の翌日である平成16年7月17日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があり,その余は理由がないから,原判決のうち遺留分減殺請求に係る部分を主文第1項のとおり変更すべきである。
よって,裁判官全員一致の意見で,主文のとおり判決する。
最高裁裁判長裁判官泉 徳治,裁判官横尾和子,同甲斐中辰夫,同才口千晴,同涌井紀夫

 


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