最判平成11年3月25日裁判集民事192号607頁

賃貸不動産トラブル【目次】
借地借家の最高裁判例【目次】

最判平成11年3月25日裁判集民事192号607頁

賃貸建物の新旧所有者が賃貸人の地位を旧所有者に留保する旨を合意した場合における賃貸人の地位の帰すう

       主   文

本件上告を棄却する。
上告費用は上告人の負担とする。

       理   由

上告代理人工藤舜達,同林太郎の上告理由第二点,同坂井芳雄の上告理由第一点,及び同原秋彦,同洞雉敏夫,同牧山嘉道,同若林昌博の上告理由第二点について
一 本件は,建物所有者から建物を賃借していた被上告人が,賃貸借契約を解除し右建物から退去したとして,右建物の信託による譲渡を受けた上告人に対し,保証金の名称で右建物所有者に交付していた敷金の返還を求めるものである。
二 自己の所有建物を他に賃貸して引き渡した者が右建物を第三者に譲渡して所有権を移転した場合には,特段の事情のない限り,賃貸人の地位もこれに伴って当然に右第三者に移転し,賃借人から交付されていた敷金に関する権利義務関係も右第三者に承継されると解すべきであり(最高裁昭和三五年(オ)第五九六号同三九年八月二八日判決・民集一八巻七号一三五四頁,最高裁昭和四三年(オ)第四八三号同四四年七月一七日判決・民集一三巻八号一六一〇頁参照),右の場合に,新旧所有者間において,従前からの賃貸借契約における賃貸人の地位を旧所有者に留保する旨を合意したとしても,これをもって直ちに前記特段の事情があるものということはできない。何故なら,右の新旧所有者間の合意に従った法律関係が生ずることを認めると,賃借人は,建物所有者との間で賃貸借契約を締結したにもかかわらず,新旧所有者間の合意のみによって,建物所有権を有しない転貸人との間の転貸借契約における転借人と同様の地位に立たされることとなり,旧所有者がその責めに帰すべき事由によって右建物を使用管理する等の権原を失い,右建物を賃借人に賃貸することができなくなった場合には,その地位を失うに至ることもあり得るなど,不測の損害を被るおそれがあるからである。もっとも,新所有者のみが敷金返還債務を履行すべきものとすると,新所有者が無資力となった場合などには,賃借人が不利益を被ることになりかねないが,右のような場合に旧所有者に対して敷金返還債務の履行を請求することができるかどうかは,右の賃貸人の地位の移転とは別に検討されるべき問題である。
三 これを本件についてみるに,原審が適法に確定したところによれば,(一)被上告人は,本件ビル(鉄骨・鉄骨鉄筋コンクリート造陸屋根地下二階付一〇階建事務所店舗)を所有していたアーバネット株式会社(以下「アーバネット」という。)から,本件ビルのうちの六階から八階部分(以下「本件建物部分」という。)を賃借し(以下,本件建物部分の賃貸借契約を「本件賃貸借契約」という。),アーバネットに対して敷金の性質を有する本件保証金を交付した,(二)本件ビルにつき,平成二年三月二七日,(1)売主をアーバネット,買主を中里三男外三八名(以下「持分権者ら」という。)とする売買契約,(2)譲渡人を持分権者ら,譲受人を上告人とする信託譲渡契約,(3)賃貸人を上告人,賃借人を芙蓉総合リース株式会社(以下「芙蓉総合」という。)とする賃貸借契約,(4)賃貸人を芙蓉総合,賃借人をアーバネットとする賃貸借契約,がそれぞれ締結されたが,右の売買契約及び信託譲渡契約の締結に際し,本件賃貸借契約における賃貸人の地位をアーバネットに留保する旨合意された,(三)被上告人は,平成三年九月一二日にアーバネットが破産宣告を受けるまで,右(二)の売買契約等が締結されたことを知らず,アーバネットに対して賃料を支払い,この間,アーバネット以外の者が被上告人に対して本件賃貸借契約における賃貸人としての権利を主張したことはなかった,(四)被上告人は,右(二)の売買契約等が締結されたことを知った後,本件賃貸借契約における賃貸人の地位が上告人に移転したと主張したが,上告人がこれを認めなかったことから,平成四年九月一六日,上告人に対し,上告人が本件賃貸借契約における賃貸人の地位を否定するので信頼関係が破壊されたとして,本件賃貸借契約を解除する旨の意思表示をし,その後,本件建物部分から退去した,というのであるが,前記説示のとおり,右(二)の合意をもって直ちに前記特段の事情があるものと解することはできない。そして,他に前記特段の事情のあることがうかがわれない本件においては,本件賃貸借契約における賃貸人の地位は,本件ビルの所有権の移転に伴ってアーバネットから持分権者らを経て上告人に移転したものと解すべきである。以上によれば,被上告人の上告人に対する本件保証金返還請求を認容すべきものとした原審の判断は,正当として是認できる。原判決に所論の違法はなく,論旨は採用できない。
その余の上告理由について
所論の点に関する原審の認定判断は,原判決挙示の証拠関係に照らして是認することができ,その過程に所論の違法はない。所論引用の各判例は,事案を異にし本件に適切でない。論旨は,違憲をいう点を含め,原審の専権に属する証拠の取捨判断,事実の認定を非難するか,又は独自の見解に基づいて原判決の法令違背をいうものにすぎず,採用できない。
よって,裁判官藤井正雄の反対意見(略)があるほか,裁判官全員一致の意見で,主文のとおり判決する。
最高裁裁判長裁判官大出峻郎,裁判官小野幹雄,同遠藤光男,同井嶋一友,同藤井正雄

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