最決平成17年12月6日刑事判例集59巻10号1901頁

離婚コラム【目次】
離婚に関する主要な最高裁判例【目次】

最決平成17年12月6日刑事判例集59巻10号1901頁

母の監護下にある2歳の子を別居中の共同親権者である父が有形力を用いて連れ去った略取行為につき違法性が阻却されない

       主   文

本件上告を棄却する。

       理   由

弁護人山谷澄雄の上告趣意は,違憲をいう点を含め,実質は単なる法令違反,事実誤認の主張であって,刑訴法405条の上告理由に当たらない。
なお,所論にかんがみ,未成年者略取罪の成否について,職権をもって検討する。
1 原判決及びその是認する第1審判決並びに記録によれば,本件の事実関係は以下のとおりであると認められる。
(1)被告人は,別居中の妻である乙が養育している長男丙(当時2歳)を連れ去ることを企て,平成14年11月22日午後3時45分ころ,Y市内の保育園の南側歩道上において,乙の母である丁に連れられて帰宅しようとしていた丙を抱きかかえて,同所付近に駐車中の普通乗用自動車に丙を同乗させた上,同車を発進させて丙を連れ去り,丙を自分の支配下に置いた。
(2)上記連れ去り行為の態様は,丙が通う保育園へ乙に代わって迎えに来た丁が,自分の自動車に丙を乗せる準備をしているすきをついて,被告人が,丙に向かって駆け寄り,背後から自らの両手を両わきに入れて丙を持ち上げ,抱きかかえて,あらかじめドアロックをせず,エンジンも作動させたまま停車させていた被告人の自動車まで全力で疾走し,丙を抱えたまま運転席に乗り込み,ドアをロックしてから,丙を助手席に座らせ,丁が,同車の運転席の外側に立ち,運転席のドアノブをつかんで開けようとしたり,窓ガラスを手でたたいて制止するのも意に介さず,自車を発進させて走り去ったというものである。
被告人は,同日午後10時20分ころ,青森県東津軽郡平内町内の付近に民家等のない林道上において,丙と共に車内にいるところを警察官に発見され,通常逮捕された。
(3)被告人が上記行為に及んだ経緯は次のとおりである。
被告人は,乙との間に丙が生まれたことから婚姻し,東京都内で3人で生活していたが,平成13年9月15日,乙と口論した際,被告人が暴力を振るうなどしたことから,乙は,丙を連れて青森県八戸市内の乙の実家に身を寄せ,これ以降,被告人と別居し,自分の両親及び丙と共に実家で暮らすようになった。被告人は,丙と会うこともままならないことから,丙を乙の下から奪い,自分の支配下に置いて監護養育しようと企て,自宅のある東京から丙らの生活する八戸に出向き,本件行為に及んだ。
なお,被告人は,平成14年8月にも,知人の女性に丙の身内を装わせて上記保育園から丙を連れ出させ,ホテルを転々とするなどした末,9日後にX県下において未成年者略取の被疑者として逮捕されるまでの間,丙を自分の支配下に置いたことがある。
(4)乙は,被告人を相手方として,夫婦関係調整の調停や離婚訴訟を提起し,係争中であったが,本件当時,丙に対する被告人の親権ないし監護権について,これを制約するような法的処分は行われていなかった。
2 以上の事実関係によれば,被告人は,丙の共同親権者の1人である乙の実家において乙及びその両親に監護養育されて平穏に生活していた丙を,祖母の丁に伴われて保育園から帰宅する途中に前記のような態様で有形力を用いて連れ去り,保護されている環境から引き離して自分の事実的支配下に置いたのであるから,その行為が未成年者略取罪の構成要件に該当することは明らかであり,被告人が親権者の1人であることは,その行為の違法性が例外的に阻却されるかどうかの判断において考慮されるべき事情であると解される(最高裁平成14年(あ)第805号同15年3月18日決定・刑集57巻3号371頁参照)。
本件において,被告人は,離婚係争中の他方親権者である乙の下から丙を奪取して自分の手元に置こうとしたものであって,そのような行動に出ることにつき,丙の監護養育上それが現に必要とされるような特段の事情は認められないから,その行為は,親権者によるものであるとしても,正当なものということはできない。また,本件の行為態様が粗暴で強引なものであること,丙が自分の生活環境についての判断・選択の能力が備わっていない2歳の幼児であること,その年齢上,常時監護養育が必要とされるのに,略取後の監護養育について確たる見通しがあったとも認め難いことなどに徴すると,家族間における行為として社会通念上許容され得る枠内にとどまるものと評することもできない。以上によれば,本件行為につき,違法性が阻却されるべき事情は認められないのであり,未成年者略取罪の成立を認めた原判断は,正当である。
よって,刑訴法414条,386条1項3号により,主文のとおり決定する。
この決定は,裁判官今井功の補足意見,裁判官滝井繁男の反対意見(略)があるほか,裁判官全員一致の意見によるものである。
最高裁裁判長裁判官滝井繁男,裁判官津野 修,同今井 功,同中川了滋,同古田佑紀


TOP

個人のお客様

法人のお客様

弁護士費用

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です

CAPTCHA