取締役の任務懈怠責任

会社関係訴訟

当事者

1 訴えを提起する者

取締役等の任務懈怠によって、「第三者」が何らかの損害を被った場合、その「第三者」に、任務懈怠のある取締役等に対する損害賠償請求権が発生します。こうして損害賠償請求権が帰属することになった者(正確にはその見込みのある者)であれば誰でも訴えを提起できます。但し、上記損害賠償請求権は、発生時から10年が経過すると消滅してしまいますので、この点に注意が必要です(民法167条1項)。

ここにいう「第三者」とは、任務懈怠に関与す取締役等と株式会社以外の世の中全ての人のことを言います。したがって、株式会社と関係のない者だけでなく、債権者や株主も「第三者」に含まれると解されています。

2 訴えを提起される者

損害賠償責任を負うとして訴えを提起される者は、「役員等」です。具体的には、取締役、会計参与、監査役、執行役、会計監査人のことを言います(会社法423条1項参照)。このコラムでは、説明の便宜上「取締役等」という表現をしますが、範囲は同じです。

認容要件

1 第三者責任の要件

(1) 職務執行に関する第三者責任(会社法429条1項)
取締役等が、①「職務を行うについて」、②「悪意又は重大な過失」があり、③これによって損害が発生したと認められた場合(損害の発生及び因果関係)に、損害賠償請求が認められます(会社法429条1項)。以下、各要件について詳述します。

①「職務を行うについて」
上記のとおり、第三者責任というのは、取締役等が会社法又は定款で負っている義務に違反する行為(任務懈怠行為)を行ったことに対する損害賠償責任だと解されています。したがって、第三者責任を認めるためには、まず取締役等(「役員等」)にあたる者による任務懈怠行為の存在が必要となります。「職務を行うについて」の文言はこのことを意味していると解されています。

②「悪意又は重大な過失」
ここにいう「悪意」とは、取締役等が、自分の行っていることが任務懈怠行為であることについて認識していることを言います。「重大な過失」とは、著しい不注意(結果回避義務違反)によって任務懈怠行為を行った場合のことを言います。

③ 損害の発生及び因果関係
損害には、①取締役等の任務懈怠によって、直接「第三者」が被った損害(直接損害)だけでなく、②取締役等の任務懈怠によって会社が損害を被った結果、「第三者」である債権者が債権の回収を図ることができなくなったなどの損害(間接損害)も含まれるとされています。

(2) 虚偽の情報開示に基づく第三者責任(会社法429条2項)
ところで現実社会において「第三者」というのは、計算書類や登記など開示されている会社の情報をもとにして、取引を行うかなどの決定を行うのが一般的です。仮に開示されている情報が虚偽のものであるとすると、「第三者」は取引を行うかの判断を誤り、結果的に損害を被る危険性が高くなります。そこで会社法は、第三者責任の一類型として、会社に関する虚偽の情報を記載し開示した取締役等は、それだけで「第三者」に発生した損害を賠償する責任を負うことにしました(会社法429条2項)。

虚偽の情報開示に基づく第三者責任は、会社に関する情報を正確に開示することの重要性に鑑み、職務執行に関する第三者責任の場合と比べて、取締役等に厳しい責任になっています。具体的には、悪意・重過失の場合だけでなく、軽過失の場合にも第三者責任が発生します。また、悪意ないし過失の存否については、責任を否定する取締役等の側が「注意を怠らなかったこと」を基礎付ける事実を主張し立証しなければなりません。

第三者責任が否定される場合

第三者責任が認められる取締役等というのは、登記がなされているかを問わず、株主総会の決議等によって取締役等としての地位に就いた者を想定しています。もっとも世の中には、この取締役等としての地位に就いていないにもかかわらず、取締役等である旨の登記がなされていたり(いわゆる「登記簿上の取締役等」)、取締役等であるかのように振る舞ったり(いわゆる「事実上の取締役」)している者がいます。また取締役等としての地位を取得しているけれども、会社の業務にはノータッチの者(いわゆる名目上の取締役等)もいます。では、このような“イレギュラー”な者に対しても第三者責任は認められるのでしょうか。以下、それぞれの類型にしたがって説明します。

(1) 登記簿上の取締役等
このような者は登記によって取締役等という外観が存在するだけで、会社法上取締役等としての地位はありません。そうすると、会社法上は会社に対する義務や冒頭で説明した第三者に対する“責任感”を持つべき地位にあるとはいえません。したがって、何を行ったとしても任務懈怠行為があるとは言えませんから、第三者責任は認められないのが原則です。

もっとも、会社情報の開示の重要性に鑑みれば、「第三者」が登記簿上の取締役等を真実取締役等の地位にあると誤信した場合には、保護する必要があるでしょう。そこで実務では、取締役等の地位にあるという虚偽の外観を自ら作出したと評価できる場合には、取締役等であると信じた「第三者」との関係では、自分は取締役等の地位にないことを主張することができず(会社法908条1項類推適用)、第三者責任を負うとされています。例えば、取締役等に就いたという虚偽の登記をすることについて明示的に承認した場合(最判昭和47年6月15日)や、取締役退任後も積極的に取締役として職務に携わった場合(最判昭和62年4月16日)などが挙げられます。

(2) 事実上の取締役等
たとえ取締役等の地位に就いておらず、かつ登記もなされていないとしても、「第三者」が真実取締役等であると誤信した場合には、その「第三者」を保護すべきだという点は変わりありません。そこで判例実務は、実質的な経営者になって活動している者についても会社法429条を類推適用して第三者責任を認める傾向にあります。

(3) 名目上の取締役等
いわゆる名目上の取締役等というのは、会社法上、現に取締役等の地位に就任している点で、上記2つの類型とは異なります。そして、会社法上取締役等としての地位が認められる以上、会社法上の義務を免れることはできません。したがって、名目上の取締役等であることを理由として、第三者責任を免れることはできないのが原則です。

もっとも現実社会では、代表取締役が専権を握り、他の取締役等は口出しすることができないケースも少なくありません。このようなケースは、特に会社法成立以前の古い中小企業に多いと言われています。このような場合にまで、代表取締役の行為についての監視義務(会社法362条2項2号参照)など会社法上の義務を負わせるのは酷です。そこで例外的に、当該取締役等が会社法上の義務を履行することが期待できないようなケースでは、第三者責任が否定されると解されています。裁判実務でも数は少ないですが、ワンマン社長の行為を予見することが到底期待できなかったとして重大な過失の存在を否定したり、監視義務を果たしたとしても結果は変わらなかったとして因果関係を否定したりしています。

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