議決権行使禁止仮処分

会社関係訴訟

被保全権利

被保全権利とは、仮処分によって保全すべき権利関係のことです。

仮処分は、あくまで、本案訴訟(通常の訴訟手続のことです。)を提起することを前提とした手続ですから、まずは、本案訴訟でどのような請求ができるのか、を念頭に置かなければなりません。その本案訴訟において審理の対象とされる権利が、被保全権利となります。冒頭の例でいえば、本案訴訟である株主権確認の訴えにおいて審理の対象とされるXが真実の株主であること、そのため株主Xが非株主Yに対して議決権行使を阻止することのできる権利(これを、「株主権に基づく妨害排除請求権」と言います。)を持っていることが被保全権利となります。

以下、議決権行使禁止の仮処分の類型ごとに説明します。

株式の帰属について争いがある場合

被保全権利は、債権者の株主権(議決権)に基づく妨害排除請求権であり、本案訴訟は、株主権確認の訴え(自己に株主権が帰属していることを確認する訴え)です。

議決権行使禁止の仮処分は、会社に対し株主たる資格を主張できるはずの株主名簿上の株主を相手方として、その株主権の行使を阻止しようとするものです(会社法124条)。そのため、仮処分の債権者(申立人)は、その株式の実質的権利者であることに加え、株主名簿の記載がなくても株主資格を会社に対して主張できる立場にあること、すなわち、被保全権利は、会社に対抗できる株主権であることを要します。例えば、株式を取得した者の名義書換請求が、会社によって不当に拒否されている場合(最判昭和42年9月28日)、会社が正当な理由なく名義書替を怠っている場合(最判昭和41年7月28日)、株券の盗難や株式譲渡が解除される等の理由で株式が有効に移転していないのに株主名簿上の自己名義が他人名義に変更されたときに自己の実質的権利の帰属を証明した場合等に、株主は、株主名義の記載なく自己の株主権を会社に対抗することができます。

 

株式の存否について争いがある場合

新株発行に法律的瑕疵があるため効力に争いがある場合の被保全権利は、新株発行等無効請求権又は新株発行不存在確認請求権であり、本案訴訟は、新株発行無効の訴え(会社法828条1項2・3号)又は新株発行不存在確認の訴え(会社法829条1・2号)です。

新株発行無効の訴えを本案とする場合には、新株発行の無効原因が制約されていることから、仮処分命令が発令される場合も同様に限定されます。例えば、授権株式数を超過する発行、定款に定めのない種類株式の発行、新株発行差止仮処分に違反してされた発行、通知・公告を欠いた発行等の場合は新株発行の無効原因と解されています。他方、新株発行に際し、有効な取締役決議がない場合(最判昭和36年3月31日)、株主総会の特別決議を経ないで、新株が株主以外の第三者に有利な価格で発行された場合(最判昭和40年10月8日)等は、取引安全、法的安定性の見地から、新株発行の無効原因とはならないと解されています。

新株引受人が発行価額の払込みをしたかどうかに争いがある場合の被保全権利は、株主権(持株割合)不存在確認請求権であり、本案訴訟は、新株主と扱われている者等に対する株主権不存在確認の訴えです。

保全の必要性

議決権行使禁止の仮処分において、保全の必要性の審査は厳格になされます。株主権確認訴訟等の本案訴訟の判決を待っていては、その間に株主総会において非株主が議決権を行使することにより、債権者に回復しがたい損害が生じることの疎明が必要です

例えば、当該株主総会における決議事項が、①取締役の選解任等、会社の経営権の所在が変わるおそれのある場合、②事業譲渡、解散、合併等、会社の経営にとって特に重要なものである場合に、保全の必要性が肯定されることが多いようです。

もっとも、申立てが株主総会の直前にされて、債務者審尋(債務者に反論の機会を与えるための手続です。)を経る余裕がない場合、疎明が不十分として却下される可能性こともあります。

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