最判平成8年11月12日民集50巻10号2591頁

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最判平成8年11月12日民集50巻10号2591頁

他主占有者の相続人が独自占有に基づく取得時効成立を主張する場合の所有の意思の立証責任

       主   文

原判決を破棄する。
被上告人らの控訴をいずれも棄却する。ただし,第一審判決主文第一項を次のとおり更正する。
「一 被告らは原告らに対し,別紙目録記載の不動産につき,原告A持分三分の一,同B持分三分の二とする所有権移転登記手続をせよ。」
控訴費用及び上告費用は被上告人らの負担とする。

       理   由

上告代理人山口定男の上告理由第二点について
一 原審の適法に確定した事実関係等の概要は,次のとおりである。
1 旧門司市所在の本件土地建物,すなわち子町の土地,東門司の土地並びに花月園の土地及び建物は,いずれも,昭和二九年当時,丙の所有であり,このうち東門司の土地及び花月園の建物は第三者に賃貸されていた。丙の五男であった丁は,当時福岡県門司市に居住していたところ,同年五月ころから丙の所有不動産のうち同市に所在していた本件土地建物につき占有管理を開始し,本件土地建物のうち東門司の土地及び花月園の建物については,貸借人との間で,賃料の支払,賃貸家屋の修繕等についての交渉の相手方となり,賃料を取り立ててこれを生活費として費消していた。
2 丁が昭和三二年七月二四日に死亡したことから,その相続人である妻の上告人甲(相続分三分の一)及び長男の上告人乙(相続分三分の二。昭和三〇年七月一三日生)が本件土地建物の占有を承継したところ,上告人甲は,丁の死亡後,本件土地建物の管理を専行し,東門司の土地及び花月園の建物については,賃借人との間で,賃料額の改定,賃貸借契約の更新,賃貸家屋の修繕等を専決して,保守管理を行い,賃料を取り立ててこれを生活費の一部として費消している。
3 上告人甲は,本件土地建物の登記済証を所持し,昭和三三年以降現在に至るまで継続して本件土地建物の固定資産税を納付している。
4 丙は,昭和三六年二月二七日に死亡し,その相続人は,妻である被上告人戊,長男である己,二男である被上告人庚,四男である辛,長女である被上告人壬及び孫である上告人乙(代襲相続人)であった。丙は,生前,その所有する多数の土地建物につきその評価額,賃料収入額等を記載したノートを作成していたところ,右ノートには本件土地建物について「丁ニ分与スルモノ」との記載がされている。己は,昭和三八年ないし三九年ころ,丙の経営に係る福井商店の債務整理のため本件土地建物を売却しようとしたが,上告人甲は,丁が本件土地建物を丙から贈与された旨を丁からその生前に聞いていたので,当時所持していた右ノートを己に示して本件土地建物の売却に反対し,結局,本件土地建物は売却されなかった。
5 本件土地建物の登記簿上の所有名義人は,丙の死亡後も依然として同人のままであったことから,上告人甲は,昭和四七年六月,本件土地建物につき上告人ら名義に所有権移転登記をしようと考えて,被上告人戊に協力を求めたところ,同被上告人は,上告人甲の求めに応じて,本件土地建物につき「亡丙名義でありますが生前五男丁夫婦に贈与せしことを認めます」との記載のある「承認書」に署名押印した。被上告人戊の助言もあったことから,上告人甲は,これに引き続いて,被上告人庚及び被上告人壬を訪れて,本件土地建物につき上告人ら名義に所有権移転登記をすることの同意を求めたが,被上告人庚は己の意向次第であると答え,被上告人壬は経緯を知らなかったことから同意せず,結局,本件土地建物について上告人ら名義への所有権移転登記はされなかった。
二 本件請求は,丙の相続人又はその順次の相続人である被上告人らに対して,上告人らが本件土地建物につき所有権移転登記手続を求めるものであるところ,上告人らの主張は,(1) 丁は昭和三〇年七月に丙から本件土地建物の贈与を受けた,(2) 丁が昭和三〇年七月に本件土地建物の占有を開始した後(同三二年七月二四日に同人の死亡により上告人らが占有を承継),一〇年又は二〇年が経過したことにより取得時効が成立した,(3) 上告人らが昭和三二年七月二四日に本件土地建物の占有を開始した後,一〇年又は二〇年が経過したことにより取得時効が成立した,というものである。
原審は,次のとおり判断して,上告人らの請求を棄却した。
1 丙から丁に対する本件土地建物の贈与については,これを推認させる間接事実ないし証拠があるが,贈与の事実の心証までは得られず,丙は本件土地建物を丁に贈与する心積もりはあったがこれを履行しないうちに丁が死亡したという限度で事実を認定し得るにとどまる。
2 丁は昭和二九年五月ころに有償の委任契約に基づく受任者として本件土地建物の占有を開始したものであり,上告人らの主張する昭和三〇年七月の贈与が認められないのであるから,丁はその後も依然として受任者としての占有を継続していたものというべきであり,同人の占有は占有権原の性質上他主占有である。
3 上告人らは丁の死亡に伴う相続により本件土地建物の占有を開始したものであるが,(1) 丙の死亡に伴い提出された昭和三八年一二月三日付け相続税の修正申告書には本件土地建物のほか東門司の土地の賃料及び花月園の建物の賃料が相続財産として記載されているところ,上告人甲はそのころ右修正申告書の写しを受け取りながら,その記載内容について格別の対応をしなかったこと,(2) 上告人らが昭和四七年になって初めて本件土地建物につき自己名義への所有権移転登記手続を求めたことなどに照らせば,丁の他主占有が相続を境にして上告人らの自主占有に変更されたとは認められない。
三 しかし,原審の右判断中3の部分は是認できない。その理由は,次のとおりである。
1 被相続人の占有していた不動産につき,相続人が,被相続人の死亡により同人の占有を相続により承継しただけでなく,新たに当該不動産を事実上支配することによって占有を開始した場合において,その占有が所有の意思に基づくものであるときは,被相続人の占有が所有の意思のないものであったとしても,相続人は,独自の占有に基づく取得時効の成立を主張することができるものというべきである(最高裁昭和四四年(オ)第一二七〇号同四六年一一月三〇日判決・民集二五巻八号一四三七頁参照)。

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