最判昭和50年2月20日民集29巻2号99頁

賃貸不動産トラブル【目次】
借地借家の最高裁判例【目次】

最判昭和50年2月20日民集29巻2号99頁

付随的な特約違反が信頼関係を破壊する場合

       主   文

本件上告を棄却する。
上告費用は上告人の負担とする。

       理   由

上告代理人高橋敬の上告理由について。
一 原審の適法に確定した事実は次のとおりである。
1 被上告人は,その所有の本件建物を区分して青物,果物等の店舗に賃貸し,魚神ショッピングセンターとしていたが,昭和四四年一二月,その一区画である本件建物部分を上告人に同人の青物商営業のため賃貸した。右賃貸借契約にはその締結にあたり,次のような特約が付された。
すなわち,上告人に次の(1)ないし(3)のいずれかにあたる行為があるときは,被上告人は無催告で賃貸借契約を解除することができる。
(1) 粗暴な言動を用い,又は濫りに他人と抗争したとき。
(2) 策略を用い,または他人を煽動して,本ショッピングセンターの秩序を紊し,あるいは運営を阻害しようとする等不穏の言動をしたと認められたとき。
(3) 多数共謀して賃貸人に対して強談威迫をしたとき。
2 上告人は,昭和四五年二月一〇日頃から本件建物部分で青物商を営んでいたが,同人には次の(1)ないし(4)の行為があった。
(1) 右ショッピングセンター内で当初ショッピングセンターの奥の場所に店舗を構えていた青物商を営む山田青物店が上告人の店舗と並ぶ表側に場所を変えたので,上告人は,被上告人代表者甲に対し,山田青物店を奥の場所に移すことを求め,その要求が容れられないとなると,甲に対し,「若い者を来させる。どんな目にあうかわからん。」等と述べ,また,上告人が山田青物店の前にはみ出して自己の商品を並べたため,同店より甲に苦情があったので同人において上告人に注意をしたが,改めなかった。
(2) 上告人の店は青物商であり,その販売品目もおのずから限定されているのに,同人は隣の池田果物店と同じく果物の販売を始めたため,池田果物店から前記甲に苦情があり,同人が上告人に果物の販売をやめるよう申し入れたが,これに応じなかった。
(3) 昭和四五年七月二七日上告人が山田青物店の前にはみ出して自己の商品を並べたので甲が上告人にこれを注意したところ,上告人はその従業員らとともに,甲に殴るなどの暴行を加え,頭部顔面項部挫傷,左腰部左膝関節部打撲傷,歯破損,口内裂傷,眼球結膜下出血等約三週間の治療を要する傷害を被らせ,上告人は罰金刑に処せられた。
(4) 上告人は,ごみ処理が悪かったり,ショッピングセンターの定休日にルールを無視して自己の店舗だけ営業したりしてショッピングセンターの正常な運営を阻害していた。
二1 ところで,前述の特約は,賃借人の前記一,1,(1)ないし(3)の行為を禁止することを趣旨とするものであると解されるところ,本件賃貸借は,ショッピングセンターを構成する商店の一つを営業するため,同センター用の一棟の建物の一区分についてされるものであるから,その賃貸借契約に関して,賃貸人が賃借人の右のような行為を禁止することは,多数の店舗賃借人によって共同してショッピングセンターを運営,維持して行くために必要不可欠なことであり,その禁止事項も通常の賃借人であれば容易にこれを遵守できるものであって,賃借人に不当に重い負担を課したり,その賃借権の行使を制限するものでもない。従って,右のような賃貸借契約の締結にあたって,賃貸人と賃借人との間の特約によって賃借人に前記のような行為を禁止することには合理的な理由があり,これを借家法六条により無効とすることはできない。
2 ただ,賃借人の右特約違反が解除理由となるのは,それが賃料債務のような賃借人固有の債務の債務不履行となるからではなく,特約に違反することによって賃貸借契約の基礎となる賃貸人,賃借人間の信頼関係が破壊されるからであると考えられる。そうすると,賃貸人が右特約違反を理由に賃貸借契約を解除できるのは,貸借人が特約に違反し,そのため,右信頼関係が破壊されるにいたったときに限ると解すべきであり,その解除にあたってはすでに信頼関係が破壊されているので,催告を要しないというべきである(当法廷昭和三九年(オ)第一四五〇号,同四一年四月二一日判決・民集二〇巻四号七二〇頁,同四五年(オ)第九四二号,同四七年一一月一六日判決民集二六巻九号一六〇三頁参照)。
3 これを本件についてみるに,前述のとおり,上告人はショッピングセンター内で,他の賃借人に迷惑をかける商売方法をとって他の賃借人と争い,そのため,賃貸人である被上告人が他の賃借人から苦情を言われて困却し,被上告人代表者がそのことにつき上告人に注意しても,上告人はかえって右代表者に対して,暴言を吐き,あるいは他の者とともに暴行を加える有様であって,それは,共同店舗賃借人に要請される最少限度のルールや商業道徳を無視するものであり,ショッピングセンターの正常な運営を阻害し,賃貸人に著しい損害を加えるにいたるものである。従って,上告人の右のような行為は単に前記特約に違反するのみではなく,そのため本件賃貸借契約についての被上告人と上告人との間の信頼関係は破壊されるにいたったといわなければならない。
4 そうすると,上告人の前記のような行為を理由に本件賃貸借契約の無催告解除を認めた原審の認定判断は正当として是認すべきであり,論旨は採用できない。
よって,民訴法四〇一条,九五条,八九条に従い,裁判官全員一致の意見で,主文のとおり判決する。
最高裁裁判長裁判官藤林益三,裁判官下田武三,同岸盛一,同岸上康夫,同団藤重光

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