入社時の書面交付のポイント

交付が必要な書面

入社時に必ず交付すべき書面は3つあります。①労働条件通知書②事前確認書③身元保証書の、3つです。以下、順に説明していきたいと思います。

労働条件通知書

必ず明示すべき事項

採用時には、以下の事項の労働条件について明示が求められています(労働基準法15条1項、労働基準法施行規則5条1項)。

① 労働契約の期間に関する事項

② 就業の場所及び従事すべき業務に関する事項

③ 始業及び終業の時刻、休憩時間、休日・休暇等、所定労働時間を超える労働の有無

④ 賃金の決定、計算及び支払いの方法等

⑤ 退職、解雇関係

①~⑤の事項に関しては、書面の交付が必要となります(労働基準法施行規則5条2項・3項)ので、労働条件通知書には少なくともa~eの記載が必要です。

ただし、いわゆる契約社員などの有期雇用契約(期間の定めがある契約)の場合、更新の有無の記載には、注意が必要です。有期雇用契約の場合には、更新する場合があれば、「期間の定めのある労働契約を更新する場合の基準に関する事項」(労働基準法施行規則5条1項1号の2)の記載が必要とされます。更新しない可能性が高いのにかかわらず、「更新をすることがありうる」とか更新基準などを記載すると、労働者に更新についての無用な期待を抱かせることになります。もし、更新をしない可能性が高いのであれば、更新の欄にはとりあえず「契約の更新はしない」という記載をしておいた方がよいでしょう。

明示が必要となる場合がある事項

以下の事項についても原則として明示が必要ですが、会社でこれらに関する定めがない場合には、明示が不要です。

⑥ 退職手当に関する事項

⑦ 臨時の賃金に関する事項

⑧ 食費等に関する事項

⑨ 安全衛生関係

⑩ 職業訓練関係

⑪ 労災、私傷病扶助に関する事項

⑫ 表彰、制裁に関する事項

⑬ 休職に関する事項

事前確認書

従業員を採用するにあたり、応募者に事前確認書を記入してもらうことをおすすめします。

その中で、転居を伴う配置転換(転勤)がありうること、職種の変更がありうることについて説明し、できればこれらについての意思確認書を書いてもらっておいてください。

また、家族を介護する必要性の有無や、本人が現在通院中かどうかについても確認した方がよいと思われます。なぜならば、介護の必要があったり、従業員が通院中であったりすると、いざ配転命令を出した際に、労働者に過度な不利益を与えるものとして、配転命令が無効となるおそれがあるためです。

身元保証書

従業員が会社に損害を与えた場合に備え、身元保証書を提出してもらうことも必要です。

ただし、身元保証は、「身元保証ニ法スル法律」により、期間を定めていなかった場合は3年、期間を定めた場合でも5年が最長期間となります。自動更新も認められませんので(札幌高裁昭和52年8月24日判決)、5年後もさらに継続したいときは、あらためて契約を結び直す必要があります。

また、従業員の軽過失による損害の場合等、会社の損害全額の賠償が認められないケースもありますし(神戸地裁昭和61年9月29日判決)、従業員が出向先で起こした問題についても、身元保証人は責任を負わないとされている(浦和地裁昭和58年4月26日判決)など、身元保証人がいるからといって保証人に対し必ずしも会社の損害すべてを請求できるわけではありません。

とはいえ、身元保証書を取っておくことは従業員の責任感と自覚を促すという意味がありますし、万一の不祥事が起きた場合でも会社の損害を最小限に食いとどめられるかもしれないので、身元保証書は出来れば取得した方が良いでしょう。

交付してもよい書面

前述した3つの書面のように必須ではないですが、入社時に交付してもよいと思われる書面が2つあります。①秘密保持の誓約書、②競業秘止の誓約書の2つです。

秘密保持の誓約書

会社の企業秘密を守るため、秘密保持についての誓約書を書いてもらってもかまいません。しかし、秘密保持義務は、そもそも何をもって秘密とするかの定義付けが難しく、また、秘密をいつ誰が漏洩したかの立証も非常に困難です。このような理由から、秘密保持の誓約書に署名をしてもらっても実効性が高いとはいえないのです。

ただし、研究職やシステム開発者など、高度に専門的な知識を扱う従業員の場合には、秘密を保護すべき度合いが非常に高まりますので、きちんと誓約書に署名をしてもらうべきでしょう(とはいえ、いざ裁判で従業員の責任を追及する際には、その社員が秘密を漏らしたことを会社側が立証しなければなりません。そこで、社内のセキュリティ体制を強化して、誰がいつどの情報にアクセスしたかを追跡できるようにしておく必要があります。 )

競業避止の誓約書

会社の利益を守るため、従業員が会社を辞めた後一定期間競合他社への就職を禁ずること等を内容とした、競業避止の誓約書に署名をしてもらうことも考えられます。
たとえば、以下のようなものが一般的でしょう。

「在職中及び退職後1年間、貴社からの許諾がない限り、貴社での職務を通じて得た経験や知見を、貴社の競合他社において活用しません。また、貴社で従事した職務を、貴社の競合他社から契約の形態を問わず、受注ないし請け負うことはいたしません。」

しかし、競業避止の誓約書も、常に効力が認められるわけではありません。裁判例によると、競業避止義務を負わせる必要性、当該従業員の地位・職務、対象業務・期間・地域、代償措置の有無等の諸事情を総合考慮して競業避止規定の効力が判断されます(奈良地裁昭和45年10月23日判決-フォセコ・ジャパン・リミティッド事件)。

したがって、競業避止の誓約書に署名をしてもらったからといって、必ずしも競合他社への就職を禁ずることは出来ません。反面、会社に専門的な技術があったり、独自のノウハウを利用するような場合には、ある一定の範囲では競業避止義務を課しても有効と扱われるでしょう。

上記2つの書面は、従業員が営業秘密や独自のノウハウ・技術に触れたりする可能性があれば、交わしておくべきでしょう。そのような従業員でなければ、常にその効果が全面的に認められるものではありませんが、それでも従業員に責任感を持ってもらうという意味がありますので、交わしておいた方がよいでしょう。

交付が不要なもの

雇用契約書(就業規則が置かれている場合)

雇用契約書を交付してもよいのですが、個々の従業員と雇用契約書契約書を交わすよりも、就業規則をきちんと整備した上で労働条件通知書を交付した方が会社にとって得策です。

損害賠償に関する誓約書

よく、「会社に損害を加えた場合にはこれを支払います」などの内容の誓約書を書かせている企業がありますが、このような、損害賠償に関する誓約文はあまり実効性がありません。なぜなら、横領や器物破損など、刑事処分の対象となるような重大な非違行為で無い限り、裁判所は、雇用主から従業員への賠償を認めません。ですから、損害賠償に関する誓約文があるからといって従業員に対する損害賠償請求が認められることにはならないのです。

おわりに

採用時に一般的に交わされている書面でも、法的にあまり意味がないものはたくさんあります。書面一つ一つの持つ意味を理解するのには、広い法的な専門知識が必要です。せっかく書面のやりとりをしていても、意味のないものだったという事態にならないように、お困りのことがありましたらぜひご相談ください。

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