交通事故被害者受領保険金を不法行為として返還を認めた判決

平成29年2月28日広島地裁判決

主   文


(1)被告は,原告に対し,8万6691円及びこれに対する平成26年11月2日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
(2)原告のその余の本訴請求を棄却する。
2 原告は,被告に対し,70万5320円及びこれに対する平成28年4月29日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
3 訴訟費用は,本訴反訴ともこれを20分し,その19を原告の負担とし,その余を被告の負担とする。
4 この判決は,第1項(1),第2項に限り,仮に執行することができる。

事実及び理由

第1 請求
1 本訴
被告は,原告に対し,143万5694円及びこれに対する平成26年11月2日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

2 反訴
主文2項と同旨

第2 事案の概要
本件の本訴は,原告が,被告に対し,被告運転の自動車によって交通事故に遭ったとの理由で,不法行為による損害賠償請求権に基づき,143万5694円及びこれに対する事故日である平成26年11月2日から支払済みまで民法所定年5分の割合による遅延損害金の支払を求めた事案である。

本件の反訴は,被告が,原告に対し,同事故から2週間程度後(平成26年11月15日ごろ)以降に原告が負ったとする治療費,施術費は,不要な支出であり,原告が損害拡大防止義務に違反して被告に損害賠償させたものであって,不法行為又は不当利得に当たるとの理由で,不法行為による損害賠償請求権又は不当利得返還請求権に基づき(選択的請求),既払額の一部である70万5320円及びこれに対する反訴状送達日の翌日である平成28年4月29日から支払済みまで民法所定年5分の割合による遅延損害金の支払を求めた事案である。

1 前提事実
(1)交通事故の発生
原告と被告の間では,次のような交通事故が発生した(以下「本件事故」という。争いがない)。
日時 平成26年11月2日午後5時15分頃
場所 広島市○○区β△番△△号○○先路上
車両 被告運転 普通乗用自動車(広島○○○あ○○○○。以下「被告車」という。)
原告運転 自転車(以下「原告車」という。)
態様 被告車が直進して,信号機による交通整理の行われていない交差点にさしかかったとき,被告車の前方の交差点手前の自転車横断帯を被告から見て右方から左方に向けて横断中の原告車に衝突。衝突部位は,原告車の左後部及び被告車の前部(争いがない)

(2)被告の不法行為責任
本件事故は,被告が,本件事故現場の道路を走行するに際し,前方左右を注視して,横断歩道及び自転車横断帯上を通行する歩行者等の有無に留意し,安全を確認して進行すべき注意義務があるのに,これを怠り,見通しがよいにもかかわらず,左方しか確認せず,原告車への注意を怠るという前方不注視をしたことが原因で生じた。よって,被告は不法行為責任を負う(争いがない)。

(3)傷害
原告は,本件事故により,腰椎捻挫,左膝打撲,左足関節捻挫,左殿部打撲の傷害を負った(争いがない)。

(4)本件事故後の原告の治療経過
原告は,本件事故による傷害の治療との理由で,次のとおり通院した(通院した事実は争いがない)。
ア A病院
〔1〕平成26年11月5日(甲4),〔2〕平成27年4月8日(甲5)及び〔3〕同月14日(甲6)の3日。
イ B整骨院
平成26年11月4日から平成27年5月7日まで(実通院日数125日。甲7の1ないし7)。
なお,B整骨院は,原告の勤務先である。

(5)被告側から原告への既払額
被告側から原告へ,本件事故後の原告の平松病院における平成26年11月5日受診分の治療費として3万0175円,B整骨院における施術費(平成26年11月分から平成27年3月分まで)として80万4480円の,各支払がされている(甲5,7の1ないし5,弁論の全趣旨)。

2 争点及び争点に対する当事者の主張
(1)本件事故の過失割合(本訴関係)
ア 被告の主張
本件事故は,被告車が,薄暮の中を直進中,信号機による交通整理の行われていない交差点の横断歩道上において,被告車の直前で横断してきた原告車に衝突したものであるから,過失割合は,原告30%,被告70%が相当である。

イ 原告の主張
原告は,本件事故現場の自転車横断帯を走行する前,一時停止した上,時速わずか1kmで横断していた。他方,被告は,右方の見通しがよいにもかかわらず,左方しか確認せず原告車を見落としたのであり,著しい前方不注視がある。以上によれば,過失割合は,原告0%,被告100%が相当である。

(2)本件事故と相当因果関係のある原告の損害(本訴関係)
ア 原告の主張
本件事故により,原告は次のとおり損害を被った。
(ア)治療費・施術費等(原告が自己負担したもののみ。)
a A病院 4万4134円(甲8ないし10)
平成27年4月8日分    3521円
平成27年4月14日分 3万8657円
平成27年7月6日分    1956円
b B整骨院 10万1560円(甲7の6・7)
平成27年4月,同年5月分の施術料である。
(イ)通院慰謝料 116万円(通院期間6か月)
(ウ)弁護士費用 13万円
(エ)請求額合計 143万5694円

イ 被告の主張
(ア)治療費等
平成26年11月5日に原告がA病院に受診したところ,本件事故による原告の受傷の程度は,鎮痛剤・湿布での安静加療の処置をすれば足りるものであったから,加療期間は長くとも本件事故から2週間程度(同月15日頃まで)にとどまるというべきである。よって,同月16日以降に支払がされた治療費・施術費は,本件事故と相当因果関係を有する損害には当たらない。
(イ)傷害慰謝料,弁護士費用は,争う。
(ウ)損害の填補に関し,被告は,原告に対し,B整骨院の施術費として支払ったもののうち,平成26年11月15日までの施術分9万9160円(甲7の1記載の18万9900円から,反訴に係る次の(4)ア(ア)の9万0740円,すなわち同月16日以降の施術費を控除した額)は,本件事故と相当因果関係を有する損害のうち過失相殺をした後の損害額(傷害慰謝料を含む。)に充当する。

(3)原告の損害拡大防止義務違反の存否(反訴関係)
ア 被告の主張
(ア)原告は,平成26年11月16日以降,本件事故による受傷につき治療を受ける必要がなく,そのことを認識しながら,施術を受け,B整骨院をして,被告を被保険者とする加入保険会社である東京海上日動火災保険株式会社(以下「東京海上日動」という。)に施術費を請求させ,被告に対し,賠償義務のない自動車保険金による賠償をさせた。
このような原告の行為は,交通事故当事者として原告が負うべき損害拡大防止義務に違反し,被告をして,義務のない自動車保険金による賠償金の支払をさせたものであり,不法行為に当たる。

(イ)上記のように原告が損害拡大防止義務に違反して,B整骨院をして,被告に対して施術費を請求させ続け,被告にその支払をさせるのは,法律上の原因のないものである。被告は,これらの支払金額相当の損失を被り,原告は,B整骨院に対して自らの負担で支払うべき費用を免れる利得を得た。

(ウ)なお,上記の支払は,本件事故における被告の原告に対する賠償義務の範囲を外れているから,本来的には被告が損害保険会社である東京海上日動から受ける賠償保険金の支払対象でないものへの支払である。被告は,東京海上日動からの賠償保険金を保持する理由がなく,自動車保険契約に基づき賠償保険金として支払われる必要のなかった金員については,東京海上日動に対して当然に返還する義務を負っている。
そのため、不法行為による損害賠償請求でも,不当利得返還請求でも,債権者は原告である。

イ 原告の主張
(ア)被告の主張は争う。平成26年11月16日以降の治療費・施術費も,本件事故と相当因果関係を有するから,これを被告に支払わせても不法行為に当たらないし,法律上の原因のない利得にも当たらない。
(イ)被告と東京海上日動との間の保険契約に基づいて東京海上日動が支払をしたのであれば,被告には何ら損害又は損失はないのであり,反訴の当事者適格を有するのは東京海上日動であって,被告ではない。

(4)被告が受けた損害又は損失(原告の利得)の額(反訴関係)
ア 被告の主張
平成26年11月16日以降,被告が保険金により原告に支払ったB整骨院の施術費は,次のとおり,合計70万5320円である。同額が被告の損害又は損失額であり,原告の利得額である。
(ア)平成26年11月分 9万0740円(甲7の1)
初検料,再検料及び施術証明書・施術費明細書料については,平成26年11月15日までに生じたものと考え,その他の施術費及び指導管理料については,22日分のうち平成26年11月16日以降の11日分を積算したもの。
(イ)平成26年12月分から平成27年3月分まで 合計61万4580円(甲7の2ないし5)

イ 原告の主張
平成26年11月16日以降の治療,施術は原告の本件事故における受傷に対して有効かつ相当なものであった。
事故翌日11月3日には軟式野球試合に出場し、「投手,4番打者(上衣が紺色のユニフォームの背番号11番の選手。以下同じ。)としてフル出場し,打者としては3回打席に立ち,うち1回はセーフティバントでダッシュして出塁し,左足で1塁ベースを踏んで駆け抜け,他の1回では会心のヒットを放ち,守備では右投げ投手(投球の際に左足や左殿部に強い負荷がかかると推認される。)として6回を投げ抜き(被安打2,四球3,自責点1),ピッチャーゴロの処理も問題なくこなす活躍をし」、

・11月16日の試合では「三塁手,3番打者としてフル出場し,4安打(うち1本は本塁打)の活躍をし」、平成27年2月15日の軟式野球の試合では,「投手,5番打者としてフル出場し,投手としては5回を完投し,2安打した。同年2月22日の軟式野球の試合では,投手,5番打者としてフル出場し,7イニングを完投し」たことが判明しました。

○これらの事実がどうして判明したかは、「乙6ないし12(枝番を含む。)」と証拠を挙げていますが、目撃者の陳述書でも提出されたのかも知れません。また、「原告はフェイスブック(乙8の2・3)に投稿していたところ,平成27年2月5日にランニングをしていることを載せている。」なんて記載もあり、原告自身が、得意げに自分のフェイスブックに掲載したのかも知れません。

○いずれにしても、腰椎捻挫,左膝打撲,左足関節捻挫,左殿部打撲の傷害があったとしても、翌日に野球の試合で「セーフティバントでダッシュして出塁し,左足で1塁ベースを踏んで駆け抜け,他の1回では会心のヒットを放ち,守備では右投げ投手(投球の際に左足や左殿部に強い負荷がかかると推認される。)として6回を投げ抜」く大活躍をするようでは、傷害の程度は大したことはないと認定されて当然でしょう。この判決は、被害者側として大変厳しい判決ですが、事実関係を見る限り、やむを得ないと評価できます。

第3 当裁判所の判断
1 本件事故の過失割合
(1)甲1,11の1・2,乙2,原告本人並びに弁論の全趣旨によれば,本件事故現場は被告車の進行車線の突き当たりの丁字路交差点であるところ,被告車進行車線の交差点手前には一時停止線があり,交差道路が優先道路となっていること,原告車は自転車横断帯を通行していたこと,被告車から見て,原告車が来る方向(右方)の見通しが良好であったことが認められる。
以上の事実によれば,本件事故の過失割合は,原告が5%,被告が95%であると認められる。

(2)この点,被告は,本件事故現場が信号機による交通整理の行われていない横断歩道であること,原告車が被告車の直前を横断したことを挙げ,原告の過失割合は30%であると主張する。しかし,上記で掲出した証拠によれば,本件事故現場では信号機による交通整理が行われていないことは認められるものの,被告車進行車線よりも交差道路(原告車が進行していた方向の車線)の方が優先道路になっているのであるから,被告車はより慎重に横断歩道を通過すべき注意義務を負っていたといえるのであり,信号機による交通整理が行われていないことをもって原告の過失割合が5%を超えるとは認められない。また,原告車が被告車の直前で横断を開始したとの事実を認めるに足る証拠はない。よって,被告の上記主張はいずれも当裁判所の判断を左右しない。

他方,原告は,被告に右方の安全確認義務違反が著しい過失にあたると主張するが,上記認定事実をもって直ちに被告に著しい過失があるとまでは認められないから,原告の上記主張は採用できない。

2 本件事故と相当因果関係のある原告の損害
(1)治療費等 13万1186円
ア 原告は,本件事故により,被告側から填補済みの治療費・施術費部分に加え,平成26年11月4日から平成27年5月7日までの間,A病院での治療等で4万4134円,B整骨院での施術で10万1560円を要したと主張する。これらの費用が本件事故と相当因果関係を有することの根拠として,原告は,〔1〕原告が平成27年4月14日にA病院を受診した際,同病院医師P1(以下「P1医師」という。)は,もう1か月程度の加療が望ましいとの治療計画を立てており,同年5月中旬まで原告が治療を続けるのを了解していたこと,〔2〕P1医師が,B整骨院への通院を容認するとともに,B整骨院での施術により,相当程度以上の症状が軽減,回復しており,その施術は医学的に有効かつ相当であったこと,以上の点を挙げて,平成26年11月16日以降の治療・施術費も,本件事故と相当困果関係を有する損害に当たると主張する。また,〔3〕被告の付保する東京海上日動及び被告代理人は,平成27年3月末まで原告が施術を続けることを認めていながら,後になって態度を翻すのは信義則に反するとも主張する。
上記〔1〕の主張については,甲3,4,7の6・7,17,乙1中に,上記〔2〕の主張については,甲12,13,17,証人P2,証人P3及び原告本人中に,上記〔3〕の主張については,甲14ないし16中に,それぞれ沿う部分がある。

イ しかし,以下の理由で,A病院での治療費及びB整骨院での施術費のうち,平成26年11月15日までの治療・施術分に関する費用,すなわち,A病院の治療費等のうち,同年11月5日分の3万0175円(甲5),及び,コピー代等(甲10)の中で同年11月15日までの治療に関する部分(情報開示手数料540円,診療録コピー代(甲4の16枚のうち11枚分)×21円,画像CD-R作成1枚1080円)の1851円,並びに,B整骨院の施術費のうち9万9160円の,合計13万1186円は,本件事故との相当因果関係が認められるものの,同年11月16日以降については,本件事故との相当因果関係が認められない。

(ア)上記〔1〕の点について
a 原告がA病院に通院したのは,本件事故の3日後である平成26年11月5日,平成27年4月8日及び同月14日の3回であるが,甲4ないし6,8ないし10によれば,これらの通院のうち,治療を受けたのは平成26年11月5日の1回だけで,同日の治療内容も,湿布及びロキソニン(7日分)を処方されるにとどまっており,その後,原告は,A病院では,問診,検査を受けるのみであったことが認められる。原告は,2回目及び3回目の受診で左膝の不安定感や痛み等を訴えていたが,それらの自覚症状を裏付ける他覚的・神経学的所見は見当たらない。

b かえって,乙6ないし12(枝番を含む。)によれば,本件事故の翌日である平成26年11月3日以降,原告が軟式野球に積極的に打ち込んでいることが認められる。すなわち,同日の軟式野球の試合では,原告は,投手,4番打者(上衣が紺色のユニフォームの背番号11番の選手。以下同じ。)としてフル出場し,打者としては3回打席に立ち,うち1回はセーフティバントでダッシュして出塁し,左足で1塁ベースを踏んで駆け抜け,他の1回では会心のヒットを放ち,守備では右投げ投手(投球の際に左足や左殿部に強い負荷がかかると推認される。)として6回を投げ抜き(被安打2,四球3,自責点1),ピッチャーゴロの処理も問題なくこなす活躍をした。同年11月16日の軟式野球の試合では,三塁手,3番打者としてフル出場し,4安打(うち1本は本塁打)の活躍をした。平成27年2月15日の軟式野球の試合では,投手,5番打者としてフル出場し,投手としては5回を完投し,2安打した。同年2月22日の軟式野球の試合では,投手,5番打者としてフル出場し,7イニングを完投した。また,原告はフェイスブック(乙8の2・3)に投稿していたところ,平成27年2月5日にランニングをしていることを載せている。

c 以上のような病院外での原告の活動状況に照らせば,原告には,被告が認める平成26年11月15日までの期間を超えて,本件事故での傷害による痛み等の症状が持続していたとは認められない。

この点,原告は,これらの試合が草野球で本格的なものではないし,チームの人数が9名しかおらず,人数がそろわなければ棄権することになり,参加費1万7000円が無駄になるし,チーム関係者には勤務先であるB整骨院の顧客らがおり,負けてもいいから来てほしいとの依頼を断るのが困難であったため,痛みを我慢して出場したなどと主張し,甲17,原告本人中にはその主張に沿う部分があるが,乙6,7(枝番を含む。)からは,原告が痛みを我慢して出場していたとは認められず,その主張は採用できない。

(イ)上記〔2〕の点について
a 甲3,4,乙1(14,15頁)によれば,A病院のP1医師は,診療録の平成27年4月14日の欄に「B接骨院に通院している。電気とマッサージ,超音波を当てる」と記載したのに加え(正確には「B接骨院」は「B整骨院」である。),「左足関節痛が強く,もう1か月程度の加療が望ましい」と記載し,診断書(甲3)にも同趣旨の記載をしたことが認められる。

しかし,上記診療録の平成27年4月14日の欄は,平成26年11月5日の受診経過の記載があるのに続けて,「その後,B接骨院に通院している。電気とマッサージ,超音波を当てる。ジョギングをすると痛みが出る。」との記載があるにとどまることからすれば,B整骨院への通院を事実経過として記録したものにすぎず,P1医師がB整骨院への通院の必要性,相当性を認めた記述とは認められない。

また,「左足関節痛が強く,もう1か月程度の加療が望ましい」との記述は,原告がP1医師に対して,左足関節痛の痛みが強い旨申述したことを受けて記載したものと認められるところ,そもそも,上記のとおり原告が本件事故の翌日から野球に興じていることからすれば,左足関節痛の痛みが強い旨の原告からP1医師への訴え自体が信用できないのであり,ひいては,この訴えに依拠するP1医師の上記診療見込みも信用できない。この点,原告本人中には,P1医師が示した診療見込みは,P1医師が行ったレントゲン検査等も踏まえた所見である旨の部分があるが,レントゲン検査で捻挫の有無・程度が判別できるとは認められないから,上記供述部分は当裁判所の判断を左右しない。

b P1医師が作成した平成28年5月17日付意見書(甲13)には,「平成27年4月14日の診察時に左足関節捻挫及び左殿部打撲傷と診断し,その際まだ加療を続けるのが望ましい旨記載したが,原告の症状からすると,この程度の期間延長はやむを得ないし,平成26年11月4日から平成27年5月7日までの間B整骨院への通院をしているようであるが,医学的には,有効かつ相当であったと判断できる」旨の記述がある。しかし,この所見は,原告の左足関節痛が強いことを前提としているところ,その痛みの存在が認められない以上,この所見の裏付けはない。また,この所見には,「(原告の受傷に関する)施術を受けることを目的とし,かつ,効果があったということであれば」との留保が付されているのであり,B整骨院における施術に効果があったことを医学的に認めたものではなく,効果があったと仮定した場合の一般論を示したに過ぎない。
よって,甲13によっても,原告に対する平成26年11月16日以降の治療及び施術が原告の傷害に必要であったとは認められない。

c 甲12(B整骨院の診療録)には,B整骨院の施術により,症状が軽減,回復する経過が記述されている。しかし,そもそもB整骨院は原告の勤務先であり,原告の自覚症状の訴えに基づいて施術が続けられたものであるところ,証人P2,証人P3によれば,原告が本件事故の翌日から軟式野球に興じていたことをB整骨院に申告していなかったことが認められるから,この診療録をもって原告の症状の経過を認めるには足りない。
なお,証人P2,証人P3中には,本件事故後しばらくの間,原告がB整骨院で仕事を終えたときなどに痛みが出ているような様子を見せていた旨の部分があるが,仮にそのような事実が認められるとしても,少なくとも平成26年11月16日以降については,本件事故に起因するものとは認められない。

(ウ)上記〔3〕の点について
弁論の全趣旨によれば,被告において,原告が本件事故の翌日に軟式野球をするなどできる身体状態であることを知ったのは,被告が付保する東京海上日動が保険金を支払った後と認められるから,東京海上日動ないし被告訴訟代理人が,原告の施術を容認する姿勢からこれを拒否する姿勢に転じたとしても,信義則に反するとは認められない。

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