脳脊髄液減少症との因果関係を認めた判決

平成22年7月1日岡山地裁

主 文

1 被告は、原告に対し、746万541円及びこれに対する平成13年11月20日以降支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
2 原告のその余の請求を棄却する。
3 訴訟費用は、これを4分し、その3を原告の、その1を被告の各負担とする。
4 この判決の第1項は仮に執行することができる。

事実及び理由

第一 請求
1 被告は、原告に対し、3,300万円及びこれに対する2001(平成13) 年11月20日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
2 訴訟費用は被告の負担とする。
3 仮執行宣言

第二 事案の概要
本件は、原告が、交通事故により被った人身損害につき、被告に対し、民法709条及び自動車損害賠償保障法3条に基づく損害賠償金並びにこれに対する遅延損害金として、上記第1記載の支払を求める事案である。
1 前提となる事実
次の事実は、当事者間に争いがなく、もしくは、証拠または弁論の全趣旨により認めることができる。
(1) 本件事故
次の交通事故(以下「本件事故」という。)が発生した。
ア 発生日時 平成13年11月20日午後1時40分ころ
イ 発生場所 京都府相楽郡<地番略>(現在の表示は「京都市<地番略>」)
ウ 事故態様 町道を直進していた被告運転の普通貨物自動車(以下「被告車」という。)と側道から町道に合流して進行していた原告運転の原動機付自転車(以下「原告車」という。)とが接触し原告が転倒した。

(2) 原告の負傷及び治療経過など
原告は、本件事故後、下記アないしオのとおり入通院して治療を受けた。
原告は、下記の他、平成17年5月19日から同年7月後半まで約2ヶ月間、A病院に入院して加療したが、これは平成17年5月19日に、原告が側溝に転落する事故に遭い、脛骨骨折の傷害を負っており、この治療のためのものであって、本件事故による受傷とは関係がない。また、原告は、同年10月17日に同病院リハビリテーション科に通院しているが、この通院は上記脛骨骨折に関連する治療の可能性が高く、本件事故による負傷に関連するものとは証拠上確認できない。

ア B病院(整形外科)
平成13年11月20日から平成14年2月28日まで入院(主治医丙川三郎)
入院日数101日
診断病名:骨盤骨折(左仙骨、右恥骨、坐骨骨折)、第5腰椎横突起骨折
イ A病院
平成13年11月20日入院し同日上記B病院へ転送
平成14年2月28日から同年4月27日までリハビリテーション科に入院(主治医丁山四郎)
入院日数合計60日
同年5月2日から平成17年2月14日までリハビリテーション科に通院
実通院日数 73日
診断病名:骨盤骨折(両坐骨、右臼蓋部)ないし骨盤骨折(仙骨、右恥骨、坐骨)、腰部打撲、左第5腰椎横突起骨折等
ウ C外科
平成14年12月21日から平成22年5月ころまで通院(主治医戊田五郎)
診断傷病名:骨盤骨折後両下肢筋萎縮、両膝関節炎、両股関節拘縮、変形性腰椎症、変形性頸椎症、右肩関節周囲炎、両変形性膝関節症等
エ D病院
上記A病院における主治医丁山四郎が上記医院を開設したことに伴い、原告は、平成20年9月29日、同年10月18日に通院した。
診断病名:骨盤骨折(左仙骨、右恥骨、坐骨)、左第5腰椎横突起骨折、合併症として線維筋痛症
オ E病院
平成16年8月3日から平成20年8月21日まで通院(心療内科、主治医己川六郎)
実通院日数 38日
その間に、平成16年8月16日から同年9月27日まで心療内科に精査加療目的で入院(主治医は上記と同じ)
診断病名:骨盤骨折後筋挫傷(骨盤周囲筋挫滅)、L第4第5椎間板変形症、廃用性筋萎縮(骨盤周囲筋挫滅)、線維筋痛症等

(3)症状固定診断を受けた日及び自賠責保険後遺障害の等級認定など
原告は、平成20年8月25日に、E病院心療内科(担当医師己川六郎)において、骨盤骨折後筋挫傷、線維筋痛症について、症状固定と診断され、同年10月18日に、D病院整形外科(担当医丁山四郎)において、骨盤骨折(左仙骨、右恥骨、坐骨)、左第5腰椎横突起骨折につき、症状固定と診断された。

原告は、自賠責保険後遺障害等級認定手続において、平成21年5月11日ころに通知を受けた認定において、右骨盤、臀部、大腿部の痛み等について、「局部に頑固な神経症状を残すもの」(12級12号)と、腰部の激痛、背部にかけて広がるこわばり等について、「局部に神経症状を残すもの」(14級10号)と認定されて、併合12級とされ、胸腰椎部の運動障害(可動域制限)については、骨折の状況から高度の可動域制限が生じると捉え難いことから、また、荷重機能障害(硬性補装具の常時装着の必要)については、裏付ける画像所見が認められないことから、また、骨盤骨の変形障害については、裸体となったとき変形が明らかに分かる程度のものと捉え難いことから、また、両股関節機能障害については、股関節部の骨折、脱臼は認められず、高度な拘縮を来す明らかな所見は認められず、可動域制限を裏付ける客観的な医学的所見に乏しいことなどから、また、1人での行動ができない(不安、恐怖あり)ため他者の介助を必要とする症状等については、本件事故による受傷から心療内科の受診までの約2年9ヶ月以上の間、精神症状に関する訴えは認められないことから、本件事故の受傷を契機に発生した心因反応と捉えることは困難であることから、また、頭部、頸から肩にかけてのひきつり、めまい、ふらつき、いたみ等の症状については、初診病院であるA病院の診断書では、頭部、頸部、肩部に係る傷病名及び症状所見の記載はなく、本件事故から約6年9ヶ月経過した時点である平成20年8月25日にE病院が作成した後遺障害診断書に初めて上記症状が所見されていることから、本件事故の受傷との相当因果関係は認めがたいとして、それぞれ、自賠責保険における後遺障害には該当しないとされた。

原告は、他方、平成21年6月2日に身体障害者手根を京都府から交付されており、身体障害者等級表による級別は2級、障害名は、右膝関節の機能全廃(4級)及び体幹機能障害(3級)(歩行が困難)とされている。

(4) 損害のてん補 651万6,923円
原告は、本件事故により被った人的損害のてん補として、自賠責保険金224万円、被告からの治療費等の直接支払及び賠償金内払として、427万6,923円(内訳:治療費270万9,975円、義肢費用2万3,278円、交通費4万3,670円、その他の賠償金の内払150万円)の合計651万6,923円の支払を受けた。

2 争点及び争点に関する当事者の主張の概要
本件の争点は、(1)責任原因(被告の過失)及び過失相殺、(2)原告の損害であり、争点に関する当事者の主張の概要は下記のとおりである。
(1) 責任原因(被告の過失)及び過失相殺
(原告)
原告は、原告車を運転して、側道から町道に入り直進していたところ、後方から進行してきて直前の交差点を左折するために左に進路を変更しながら進行してきた被告運転の被告車が後方から原告車に追突し、原告は原告車もろとも転倒した。
本件事故は、被告の前方注意安全確認義務違反、左折に伴う安全確認義務違反によるものである。
被告の過失相殺の主張は争う。

(被告)
被告に過失があるとする点は争い、仮に被告に過失があるとしても、原告側に大きな過失があり、大幅な過失相殺がされるべきである。
本件事故における原告車と被告車との衝突地点は、証拠(略)によると、側道が町道に合流する交差点内もしくはその直後であり、被告は、その際、直進していたのであり、衝突の原因は、原告が安全確認を怠って交差点に進入したこと、もしくは、その直後にふらついたことにあることは明白である。原告は、交差点に進入する前に停止して安全確認を行ったと供述するが、普通近づいてくるトラックが通り過ぎてから町道に入るはずであり、原告が一時停止をしたか甚だ疑問である。

優先道路に接続する道路がある丁字路交差点における四輪車同士の衝突事故については、非優先道路進行車両の基本的過失割合は9割とされており、非優先道路の進行車両が一時停止をしても修正はない。原告車が二輪車であることから、上記の四輪車同士の場合と比べ10%原告に有利に修正して、過失割合を原告80%とするのが相当である。

(2) 原告の損害
(原告の主張)
ア 原告の本件事故による負傷、治療、後遺障害
原告は、本件事故により、第5腰椎横突起骨折、骨盤骨折(左仙骨、右恥骨、坐骨)等の傷害を負い、B病院(2001年11月20日から2002年2月28日まで)、A病院(2002年2月28日から同年4月27日まで)に入院し、その後、A病院(週1回)、C外科(週2回)に通院したが、右臀部から大腿部の痛みが頑固に継続し、2004年8月3日からはE病院にも通院し、その間同年8月16日から9月27日までは同病院に入院し、D病院にも通院した。

その結果、骨盤骨折後筋挫傷、線維筋痛症の後遺障害を残し、2008年8月25日(心療内科己川六郎医師)及び同年10月18日(整形外科丁山四郎医師)にそれぞれ症状固定の診断書の交付を受けたが、現在及び今後も継続治療が必要である(内服・リハビリ等のコントロールを要する状態で精神的な支持、痛みの閾値上昇のため)。
後遺障害による自覚症状の概要は、右骨盤、臀部における針で刺したような痛み、腰部、背部にかけて広がるこわばり、引っ張られたような感覚、頭部、頸から肩にかけての引きつけ、めまい、ふらつき、痛みなどである。なお、後遺障害の結果、歩行困難で、介助や松葉杖の使用が必要となっている。また、症状がなかなか改善されない中でのいらだち、悲しさ、怒り、不安など精神面での症状も続いており、不安恐怖のため1人で行動できない。脊柱の障害により常時硬性コルセットが必要である。股関節に運動機能障害がある。

後遺障害については、自賠責保険の事前認定は極めて不当であり、身体障害者障害等級認定を参照すべきであり、自賠責保険後遺障害等級上は、「神経系統の機能又は精神に著しい障害を残し、特に軽易な労務以外の労務に服することができないもの」(5級2号)及び「1下肢の3大関節中の1関節(右膝関節)の用を廃したもの」(8級7号)にそれぞれ該当する後遺障害があり、併合4級に相当するものとして扱うべきである。
線維筋痛症は、一連の全身痛を呈する疾患として認められるものであり、医学的な機序としては、事故による炎症、組織の挫滅による痛みが消えずに残存し、その質が機能的(筋肉系統)なものに変化して、慢性疼痛になるに至ったものである。線維筋痛症は交通事故の後に生じることがしばしばあること、事故後相当期間を経てから発症することはむしろ一般的であることが知られている。

イ 原告が本件事故による被った損害
(ア) 治療費等 406万0,253円
治療費(文書料を含む)270万9,975円、義肢費用2万3,278円の合計273万3,253円は被告から支払済みであるが、残りの132万7,000円が未払である。
(イ) 入院雑費 38万2,500円
1,500円×255日(8.5ヶ月)
(ウ) 通院費 25万7,190円
被告支払済みの交通費 4万3,670円
立替ケアタクシー代 21万3,520円
合計 25万7,190円
(エ) 休業損害 2,100万円
事故時60歳、主婦として平均賃金(女子学歴計で概算年収350万円)、6年間分
(オ) 逸失利益 2,486万4,840円
基礎収入350万円、症状固定時67歳で労働能力喪失年数10年(ライプニッツ係数7.722)、労働能力喪失率92%(4級)
350万円×7.722×0.92=2,486万4,840円
(カ) 入通院慰謝料 500万円
入院8.5ヶ月、通院6年と2.5ヶ月
(キ) 後遺障害慰謝料 1,889万円
(ク) 一部請求及び弁護士費用
一部請求3,000万円、請求額に対する弁護士費用 300万円

(被告の主張)
ア 本件事故による原告の受傷、治療、後遺障害
原告が本件事故により、骨盤骨折、腰椎横突起骨折の傷害を負ったことは争わないが、線維筋痛症に罹患したとする点は争う。
線維筋痛症は、確立された病名とは認められない、線維筋痛症の一般的な診断基準に適合した診断がされておらず、原告がこれに罹患しているとは認められない。仮に原告がこれに罹患しているとしても、この病気の原因は解明されていないこと、本件事故から同病名の診断を受けるまで2年以上経過していることなどから、この病名診断においてその症状とされたものは、本件事故との間で相当因果関係が認められない。
本件事故による原告の負傷は、遅くとも平成16年12月31日までには症状固定しており、その際に本件事故と相当因果関係が認められる後遺症は、自賠責保険における認定が適切であって12級相当である。
イ 損害の各項目について
(ア) 治療費等
既払い分は認める。
その余は、本件事故と相当因果関係が認められない。
(イ) 入院雑費
不知若しくは否認する。
(ウ) 通院費
被告がその名目で支払済みの額の範囲内に限り認める。
(エ) 休業損害
争う。
休業期間が長きに失する。
原告は遅くとも平成16年12月31日に症状固定している。
(オ) 逸失利益
争う。
労働能力喪失率は、自賠責後遺障害12級に相応するものとすべきである。
(カ) 入通院慰謝料
争う。
平成16年12月31日には症状固定しており、入通院期間については、それを前提として、慰謝料を定めるべきである。
(キ) 後遺障害慰謝料
争う。
12級相当の額とすべきである。
(ク) 弁護士費用
争う。

第三 当裁判所の判断
1 争点(1)責任原因(被告の過失)及び過失相殺について
(1) 関係証拠及び弁論の全趣旨によれば、次の事実が認められる。
ア 事故現場の状況等
本件事故現場は、京都府相楽郡<地番略>(現在の表示は「京都市<地番略>」)先の東西に走る町道に南から脇道が合流する丁字路交差点(以下「本件交差点」という。)若しくはその付近の町道上である。町道は、片側1車線ずつ(幅員はいずれも3㍍)で、中央線があり、北側には幅1.1㍍の路側帯が、南側には幅員2.4㍍の歩道と幅0.6㍍の路側帯がある。合流する脇道は、合流地点で大きくなだらかな曲線で角取りをされた形となっているが、町道よりやや低く、町道との間には植え込みもあり、見通しはかなり悪い。脇道からの交差点手前に一時停止の標識及び停止線がある。この脇道は町道に合流する方向への一方通行である。

町道には、最高速度時速30㌔、駐車禁止の規制がある。町道の上記合流地点から前方30㍍ないし40㍍程度に、信号機により交通整理がされる四つ角交差点がある(合流地点から前方の交差点までの距離は、証拠(略)その他の証拠において実測値が見当たらないが、証拠(略)の交通事故現場見取図において、①から③までが36.3㍍とされていること、③から交差点入口までの上記見取図上の長さが①から③までとほぼ等しいこと及び証拠(略)の写真①、②から、30㍍ないし40㍍程度と推定した。)。

被告車(トラック)は、長さ6.29㍍、幅2.20㍍、高さ3.01㍍であり、原告車は、スクータータイプの原付バイクで、前輪の上方に荷かごが付けられている。

イ 事故発生状況
被告は、被告車を運転し、町道を直進して本件交差点に差し掛かり、本件交差点出口付近で原告車との接触に気付き、急停止し、転倒している原告及び原告車を発見した。接触時の被告車の走行速度については、これを直接示す証拠は見当たらないが、証拠(略)において、接触時の被告車の位置を示す③から被告車の停止地点を示す⑤までの間が11.7㍍、被告がバイクと接触したことに気付いた地点を示す④から停止地点(⑤)までの距離が、5.1㍍とされていることから推計すると、接触時の速度は時速20ないし30㌔程度と推定され、少なくとも制限速度である時速30㌔を大幅に超えていた可能性は乏しい。接触部位は、原告運転の右ハンドルミラーが破損し、被告運転のトラックの左助手席ドアに擦過痕があり、この両者の高さが一致することから、これらがそれぞれの車両の衝突箇所であると認められる。

衝突地点は、証拠(略)により、本件交差点の西側端付近と認める。証拠(略)の実況見分調書は、事故直後に行われた実況見分に基づいて作成されており、衝突地点そのものを直接示す客観的痕跡こそ記載されていないものの、原告及び原告のバイクが転倒していた地点(ア及びイ)については、現に転倒していた状況を基に記されていると認められ、それから推計した衝突地点(×)についても概ね正確であると考えられる。これに対して、原告は、衝突地点はより西よりであるとして、上記の×地点より若干西より、あるいは、大分西よりで交差点のすぐ手前とする図を証拠として提出するが、原告は本人尋問において、衝突地点について明確な供述をしておらず、証拠(略)における衝突地点に特に有力な裏付け根拠は見いだせず、したがって、証拠(略)の衝突地点についての記載の正確性に合理的な疑いは生じない。
(2) 損害額の算定
(原告)
本件事故による原告の損害は、次のとおりである。
ア 治療費 金1,003万9,864円
別紙治療費等一覧に記載のとおりである。
イ 通院交通費 金22万5,000円
原告は、○○整形外科に107日間、倉敷中央病院に99日間、倉敷リバーサイド病院に18日間、国立福山病院に1日間、合計225日間通院しており、通院交通費を1日金1,000円とすると、上記金額となる。
ウ 入院雑費 金113万4,000円
原告は、別紙治療費等一覧に記載のとおり、国立福山病院、玉島協同病院、水島協同病院及び平松医院に合計756日間入院しており、入院雑費を1日1,500円とすると、上記金額となる。
エ 休業損害 金1,312万1,856円
原告は、本件事故の日の翌日から少なくとも平成20年9月8日まで合計1744日間就労できなかったから、これに原告の平均賃金である1日金7,524円を乗じると、上記金額となる。
オ 入通院慰謝料 金1,000万円
原告の上記のとおりの入通院期間に照らすと、平成20年9月8日までの慰謝料は、上記金額が相当である。
カ 後遺障害逸失利益 金8,586万4,413円
原告は、現在、頭痛、腰痛及び四肢のしびれがひどく、ほぼ寝たきりの状態にある。食事は自助具を用いれば、臥床したまま自力で摂取できるが、介護が必要なときもある。入浴は困難な状況にあり、ほぼ清拭で済ます状態である。また、筆記は困難であり、その他身の回りの処理についても困難を伴うことが多い。このように、原告は、介護なしではほとんど生活できない状況にあり、自賠責後遺障害等級1級1号(神経系統の機能又は精神に著しい障害を残し、常に介護を要するもの)に該当する。
原告は、本件事故当時、大学卒の満36歳の健康な女子であり、賃金センサス(平成18年)によれば、金550万6,600円の年収を得ることができた。また、原告の病状からすると、労働能力喪失率は100%、労働能力喪失期間は67歳までの31年(ライプニッツ係数15.593)であるから、原告の後遺障害逸失利益は、次の計算により、上記金額となる。
5,506,600×1×15.593=85,864,413
キ 後遺障害慰謝料 金2,800万円
上記1級相当の上記金額が相当である。
ク 弁護士費用 金1,000万円
ケ 合計 金1億5,838万5,133円
コ よって、原告は、被告らに対し、自賠法3条に基づき、連帯して、上記金1億5,838万5,133円の一部である金8,715万9,491円及びこれに対する本件事故の日である平成15年11月28日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金を支払うよう求める。

(被告ら)
全部争う。

第三 当裁判所の判断
1 争点(1)(原告の脳脊髄液減少症罹患の有無)について
(1) まず、前提事実(4)(6丁以下)において確定したところによれば、脳脊髄液減少症の診断基準に関しては、ガイドラインと診断基準とがそれぞれ公表されているところ、その内容はそれぞれ別紙のとおりであり、そのいずれについても、「今後も1年ごとに改訂作業を続ける予定であり」(ガイドライン)、「引き続き作業部会において一層の検討を重ねる予定である」(診断基準)ことが明記されているというのであるから、未だ暫定的、試行的な性格を有するにとどまっているが、両基準とも、頭部外傷による又はこれに伴う脳脊髄液減少症が存在することは認めているから、その診断基準ないしこれから必然的に生じる脳脊髄液減少症の定義についてはかなりの相違があるとはいえ、頭部外傷により又はこれに伴って脳脊髄液の漏出、減少を生じ、これが頭痛を始めとする種々の症状をもたらすことがあるとの限度においては、医学、医療の世界においても、概ね共通の了解事項となっているものと認められる。

他方、本件事故の態様とその後の原告の入院状況等は、既に前提事実(1)(2丁)、(3)(3丁以下)において確定したとおりであり、本件事故は、被告車両が原告車両に追突し、同車両を0.7㍍前方に押し出したというにとどまる。また、甲2ないし4、29、乙25、28によっても、本件事故により、原告車両や被告車両はほとんど破損しておらず、原告車両のリアフロア、リアサイドメンバー等の損傷修理のため、金15万6,880円を要したにすぎないことが認められる。ところが、上記前提事実(3)によれば、原告の入通院(主訴は頚部痛、後頭部痛等である。)は、本件事故の翌日である平成15年11月29日から再度の国立福山病院退院時である平成18年8月2日までだけでも2年9か月以上続いており、しかも、同病院入院時にはほぼ終日臥床状態が続いていたというのであるから、本件事故の態様から予想される衝撃ないしこれによる受傷の程度に比して、原告の現症状が非常に長期化し、重篤化していることは否定できない。

以上を総合して考えると、本件の実質的な争点は、それ自体として未だ暫定的、試行的な性格を有するガイドラインや診断基準の合理性ないし正当性といった点にではなく、また、原告の症状がこれらの基準に当てはまるか否かといった点にでもなく、原告のこのように長期化、重篤化している現症状が上記了解事項である脳脊髄液の漏出、減少によってもたらされたものと認めることができるか否かの点にあるということができる。

なお、本件においては、本件事故以外に原告に上記症状の原因となる出来事があったことを認めるに足りる証拠はないから、脳脊髄液の漏出、減少があれば、これが本件事故に起因すると認めることができる。

(2) よって検討するに、前提事実に加え、乙川医師の証言と弁論の全趣旨(尋問事項回答)によれば、原告は、平成17年12月27日から28日にかけて1回目のRICを受け、同月29日にEBPを受けたこと、平成18年2月23日から24日にかけて2回目のRICを受け、同年3月2日に2回目のEBPを受けたこと、この2度にわたるEBPによっても、原告の症状の改善をみなかったこと、次いで、原告は、同年6月7日から8日にかけてRICを受けたが、同月19日に予定されていた3回目のEBPを受けるのを拒絶したこと、1回目のRICでは、2回にわたってRI(ラジオアイソトープ)の誤注入があり、脳脊髄液の漏出を確認することはできなかったが、乙川医師は、RIの注入時、あらかじめ針先から脳脊髄液が逆流したのを認めていたことから、この逆流した脳脊髄液は漏出した脳脊髄液であろうと想定し、また、当時、予約待ちが3か月程度あり、次のRICを試みるにはあまりに原告を待たせすぎることもあって、上記12月29日のEBPを施行したこと、2回目のRICでは、直接の漏出所見や膀胱内への早期のRIの集積所見は認められなかったが、RIクリアランス(別紙ガイドライン参照)の軽度の亢進を認めて上記3月2日のEBPを施行したこと、3回目のRICでは、脳脊髄液の漏出を認めなかったものの、なおEBPを施行しようとしたが(乙川医師も、尋問事項回答書(平成21年5月作成)において、結果的に不要であったとする。)、上記のとおり、原告に拒絶されたため、これを施行できなかったこと、そして、以上のRIC及びEBP施行の経緯から、乙川医師は、原告には、1回目のRICの時点で脳脊髄液の漏出があり、12月29日の1回目のEBPによりその漏出が減少し、3月2日の2回目のEBPにより漏出が停止したものと判断したこと(ただし、乙川医師も、その判断をすべての医師が是認するわけではないと証言している。)が認められる。

他方、乙川医師の証言と弁論の全趣旨によれば、原告は、乙川医師のいう脳脊髄液減少症(別紙ガイドライン参照)に加え、胸郭出口症候群(上肢や肩甲帯の運動、感覚を支配する腕神経叢と鎖骨下動脈が絞扼されたり、圧迫されたりすることにより、神経障害と血流障害に基づく上肢痛、上肢のしびれ、頚肩腕痛を生じる疾患、日本整形外科学会のホームページによる。)を合併しており、さらに、心因的要素が相当に影響し、また、長期の臥床による廃用性の四肢筋力低下ないし萎縮が進行した結果、原告の症状の長期化、重篤化が生じたものであり、乙川医師は、原告の意図的な詐病により、このような原告の症状の長期化、重篤化が生じているものではないと判断していることが認められる。

上記事実によれば、原告に脳脊髄液の漏出があることは、RICによる客観的な所見等によってすべての医師が是認する程度にまで確認することはできず、その点は乙川医師自身が認めるところであるが、前提事実(3)(3丁以下)において確定したとおりの原告の主訴や入通院状況に加え、上記認定のとおりのRICの所見とこれについての乙川医師の判断や同医師による原告の症状の長期化、重篤化に関する説明を参酌すると、原告の症状が原告の単なる心因的要素によってもたらされていると考え、あるいはそれによって説明し尽くすことは困難であり、むしろ、原告には客観的に脳脊髄液の漏出、減少があり、この脳脊髄液の漏出、減少による(乙川医師のいう意味での)脳脊髄液減少症を基本疾患として、胸郭出口症候群を合併し、これに原告の偏った性格に由来する心因的要素(被告ら指摘の各証拠のほか、これを示唆する証拠は多数ある。)が影響し、さらに、長期の臥床による廃用性の四肢筋力低下ないし萎縮が加わったがために、原告の症状の長期化、重篤化を生じたものと認めるのが相当というべきである。

(3) この点、被告らは、乙川医師の見解ないし判断を批判する甲18、39の1・2の各意見書を提出する。
しかしながら、甲18は、脳脊髄液減少症をまったく考慮に入れていないし、同号証が指摘する丙川医師が平成15年12月5日と同月9日に原告の就労を許可したとの点についても、○○整形外科の診療録(甲20の2)の各同日欄には「仕事に出てもよい」との記載があるものの、当時の原告の握力が右9.5㌔㌘、左5.5㌔㌘であることも記載されていることにかんがみると、乙川医師の証言するとおり、このような状態で原告が就労可能であったか甚だ疑問というべきであるから、甲18の意見をたやすく採用することはできない。

次に、甲39の1・2は、医学的見地からガイドラインの診断基準や乙川医師の見解等を批判するものであるが、専らこれに終始するものであって、原告の症状が脳脊髄液の漏出、減少によってもたらされたものと認められるか否かを具体的に検討するものとはなっていない。そして、甲39の1・2によれば、結局のところ、原告の症状をすべて心因的要素に帰する結果となっており、その説明としては甚だ不十分なものとなっているため、これもまたたやすく採用することはできない。

さらに、被告らは、甲29を援用し、本件事故の際、原告車両に作用した加速度は1.13ないし2.26Gであり、加速度が3G未満の場合、いわゆるむち打ち症状が1か月を超える例はないとして、原告の症状の長期化、重篤化を疑問とするが、乙33、114によれば、軽微な外傷によっても、少なくともガイドラインないし乙川医師のいう脳脊髄液減少症を引き起こすことが認められるし、そもそも甲29自体、脳脊髄液減少症に係る一般的知見を踏まえたものとなっていないことに照らすと、これもまたたやすく採用することはできない。

なお、乙川医師らが玉島協同病院に宛てた平成18年8月2日付け診療情報提供書(甲23の200頁)には、傷病名として「脳脊髄液減少症」との記載があり、その下欄に「正直なところ現在の症状が、脳脊髄液減少症によるものか否か確信はありません」との記載があるが、乙川医師の証言によれば、この記載は、当時、原告が神経因性膀胱にかかっており、尿閉気味であったことから、この神経因性膀胱が脳脊髄液減少症によるものか否か確信がないとの趣旨で記載されたものと認められるから、前記認定、判断を覆すものではない。

(4) 以上の次第によれば、原告は、本件事故により、脳脊髄液の漏出、減少を生じる疾患に罹患し、これによる頭痛等により、長期の入通院を要することとなったものと認められるから、被告らは、原告に対し、自賠法3条に基づき、その損害を賠償すべき責任があるというべきところ、原告の症状が長期化、重篤化したのは、前記のとおり、原告自身の心因的要素や長期の臥床による廃用性の四肢筋力低下ないし萎縮(これが原告自身のリハビリへの意欲やその実践の不足によって生じたものであることは明らかであるから、これによる損害の拡大について、原告も責めをおうべきである。)も重大な影響を与えたものであるから、民法722条2項の類推適用により、その損害額中8割を減額するのが相当である。

2 争点(2)(損害額の算定)
(1) 原告の損害額について検討する。
まず、乙川医師の証言によれば、原告は、平成18年6月7日から8日にかけて実施された前記3回目のRICにおいて、脳脊髄液の漏出が停止していることが確認されたことが認められるから、原告の症状固定日は、遅くとも原告が国立福山病院を退院した同年8月2日と認めるのが相当である。
また、原告は、前提事実(3)(5丁)において確定したとおり、ほぼ終日臥床し続けている状態にあるから、労働能力喪失率は100%と認められる。

以上を前提に具体的に損害額を算定することとする。
ア 治療費 金358万0,991円
症状固定日である平成18年8月2日までに要した治療費が損害となるところ、別紙治療費等一覧記載の証拠によれば、○○整形外科、あさひクリニック、倉敷中央病院(以上合計金83万9,701円)、国立福山病院(合計金260万9,190円)及び玉島協同病院(ただし、平成18年3月30日から同年6月6日までの分、合計金13万2,100円、乙156の1ないし4)の治療費を合計すると、上記金額となる。
イ 通院交通費 金20万7,000円
原告は、○○整形外科に107日間、倉敷中央病院に99日間及び国立福山病院に1日間、合計207日間通院している。通院交通費は1日金1,000円とするのが相当である。そうすると、通院交通費は、上記金額となる。
なお、原告の倉敷リバーサイド病院への通院(平成17年7月26日から平成19年1月31日まで)は、同病院への通院が必要であったことを認めるに足りる証拠がないから、その通院交通費を損害額に計上することはできない。
ウ 入院雑費 金33万円
原告の平成17年12月26日から平成18年8月2日までの国立福山病院及び玉島協同病院への入院日数は合計220日間である。入院雑費は1日1,500円とするのが相当である。そうすると、入院雑費は、上記金額となる。
なお、同日以降の玉島協同病院への入院と水島協同病院及び平松医院への入院は、症状固定日以後の入院となるから、入院雑費を損害額に計上することはできない。
エ 休業損害 金735万8,472円
原告は、その入通院状況等からすると、本件事故の日の翌日である平成15年11月29日から症状固定日である平成18年8月2日までの合計978日間就労できなかったから、これに原告の平均賃金である1日金7,524円を乗じると、上記金額となる。
オ 入通院慰謝料 金360万円
原告の上記のとおりの入通院状況等やその期間に照らすと、入通院慰謝料は、上記金額が相当である。
カ 後遺障害逸失利益 金4,158万1,122円
原告の基礎収入は、1日金7,524円、1年金274万6,260円である。
原告は、38歳時である平成18年8月2日に症状固定したから、67歳までの29年間(ライプニッツ係数15.141)が労働能力喪失期間となる。労働能力喪失率は、前記のとおり、100%である。
以上によると、原告の後遺障害逸失利益は、次の計算により、上記金額となる。
2,746,260×1×15.141=41,581,122
キ 後遺障害慰謝料 金2,800万円
上記1級相当の上記金額が相当である。
ク 上記アないしキの合計 金8,465万7,585円

(2) 原告の損害額については、前記のとおり、民法722条2項の類推適用によりその8割を減額するのが相当であり、上記クの金8,465万7,585円を8割減額すると、金1,693万1,517円となる。
弁護士費用は、金170万円が相当である。
そうすると、これらの合計は金1,863万1,517円である。

第四 結論
よって、原告の被告らに対する各請求は、連帯して金1,863万1,517円及びこれに対する本件事故の日である平成15年11月28日から完済まで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるから認容し、その余は理由がないから棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法61条、64条、65条を、仮執行の宣言につき同法259条をそれぞれ適用して、主文のとおり判決する。

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