不貞行為慰謝料2000万円不動産財産分与支払約束書を無効とした判例

平成22年7月28日千葉地裁佐倉支部判決(判タ1334号97頁)

【事案の概要】
 Yは昭和36年A女と結婚し三子儲けたが、Aは昭和46年Xと男女関係になりYに判明。・Y・Aは昭和61年離婚、YはXから不貞行為慰謝料として60万円受領。その後、YはXに対し不貞行為慰謝料3000万円を支払約束書面の作成を要求し続け、平成20年7月、3年後までに2940万円を支払う旨の公正証書作成し、X所有不動産に抵当権設定登記。Xは、Yの強迫による取消、信義則違反及び錯誤無効を主張し、公正証書無効・抵当権設定登記抹消等の訴え提起。


主   文


1 原告と被告間において,千葉地方法務局所属公証人千葉春彦作成平成20年第327号損害賠償契約公正証書が無効であることを確認する。
2 被告から原告に対する前項記載の公正証書に基づく強制執行はこれを許さない。
3 被告は,原告に対し,別紙物件目録記載の土地及び建物につき千葉地方法務局成田出張所平成20年7月18日受付第20504号抵当権設定登記の抹消登記手続をせよ。
4 訴訟費用は,被告の負担とする。

事実及び理由 

第1 請求
主文1から4項までと同旨

第2 事案の概要
本件は,原告が,被告に対し,公正証書による不貞の慰謝料3000万円の損害賠償債務に関する執行受諾及び抵当権設定につき,被告の強迫による取消,信義則違反及び錯誤による無効を主張して公正証書の無効,強制執行の不許,抵当権設定登記の抹消手続を求め,被告は,これを争う事案である。
1 争いのない事実等
(1)被告を債権者,原告を債務者とする平成20年7月18日付け千葉地方法務局所属公証人千葉春彦作成平成20年第327号損害賠償契約公正証書(以下「本件公正証書」という。)が存在し,本件公正証書において,原告が被告に対し,原告と被告の妻との間の不貞行為を原因とする不法行為による損害賠償として3000万円の支払義務(うち金60万円は支払済み,以下「本件損害賠償債務」という。)があることを確認するとともに,これを平成21年7月末日限り1000万円を,平成22年7月末日限り1000万円を,平成23年7月末日限り940万円を分割して支払う旨約束し,同債務について強制執行を受諾する旨の陳述をした。

(2)原告は,被告に対し,平成20年7月18日本件損害賠償債務を担保するために別紙物件目録記載の土地及び建物(以下「本件土地建物」という。)について抵当権を設定し,これに基づき本件土地建物につき千葉地方法務局成田出張所平成20年7月18日受付第20504号抵当権設定登記をなした。

2 争点
(1)強迫による取消

ア 原告は,平成20年3月24日被告に拉致され人通りのない河川敷において竹刀で肩,太もも,尻等を何度も殴られ,同年6月29日被告の自宅に呼び出されテーブルを叩いたり,ライターで原告の頭を叩いたりしながら「警察なんて怖くない。出てきたらお前を殺してやる。」等と原告を脅して16時間も監禁され,言われるままに3000万円の慰謝料を払う旨の書面案を渡され,同年7月18日に呼出されて本件公正証書における本件損害賠償債務の承認をしたものであるから,本件公正証書における本件損害賠償債務の承認は被告の強迫による意思表示であるとして,本件訴状をもってその取消をしたと主張する。

イ 被告は,原告と幼なじみであって,当事者双方が結婚してからも家族ぐるみで交際していた親しい関係であったが,原告は被告の元妻花子と昭和46年春ころ風呂に一緒に入ったり,昭和48年夏双方の家族が雑魚寝していたときに花子と関係を持ち,昭和51年秋双方の家族旅行をした際にも花子と関係をしたものであり,被告は原告に対し事あるごとに抗議していたが花子との関係を続けていたもので,昭和61年に被告は花子との関係修復不可能として離婚したが,その原因は原告と花子の関係に起因するものであった。被告は,このような原告の不貞行為の継続により長年の苦しみを受けていたことから,平成20年になって原告と会った際に慰謝料5000万円を請求したところ,原告は「3000万円は払う。3000万円で勘弁してくれ」というので,3000万円支払う旨の書面案を原告に渡し,その後,本件公正証書を作成することになったものであって,被告が原告と対峙した際に人生を目茶目茶にされたとの思いから高揚して大声を出したり小突いたりしたことはあるが,強迫というにはあたらないし,平成20年4月1日には警察官の面前で書面での解決が図られており,また,当事者が公証人役場に出頭して公証人に作成を嘱託する公正証書では,作成経過からも強迫による合意はあり得ないと反論する。

(2)信義則違反による無効(予備的)
ア 原告は,原告と被告の元妻との不貞行為が昭和46年春ころ1回で,しかも被告から交渉を任された丙川に対し平成元年ころ既に1200万円を支払っており,被告と元妻は昭和61年7月に離婚していること等からすると,本件公正証書は,信義則に違反し無効である。

イ 被告は,前記(1)イのとおり原告と被告の元妻花子との関係は長期間であったし,原告と丙川との交渉は知らず,花子との離婚が20余年になるとしても,原告が公証人の前で債務を承認した本件公正証書は,信義則に違反し無効となるものではないと反論する。

(3)錯誤無効(予備的)
ア 原告は,前記(1)アのように脅されて,慰謝料の相当額として3000万円が高額過ぎることを全く知らず,3000万円の支払義務があるとの錯誤に陥り本件公正証書の債務承認をしたものであるから,要素の錯誤にあたり,高齢な原告には重過失もないので,本件公正証書の債務承認は錯誤により無効であると主張する。

イ 被告は,本件公正証書は公証人が作成したものであり,その作成にあたっては,原告にも債務承認の意思を確認していたのであるから,原告が錯誤に陥っていたとはいえないと反論する。

第3 争点に対する判断
1 事実関係について

証拠(甲1から11まで,乙1,2,3,原告本人及び被告本人)によれば,つぎの事実が認められる。
(1)被告(昭和12年*月*日生)は,昭和36年9月18日花子(昭和16年*月*日生)と婚姻し,同女との間に昭和37年*月*日長女葉子,昭和38年*月*日長男正夫,昭和44年*月*日二男明夫を儲けた。

(2)原告(昭和12年*月*日生)は,被告と幼なじみであったが,昭和46年ころ,被告の妻であった花子と男女関係を持ったところを被告にみつかった。

(3)被告は,花子から離婚することを求められたことから,昭和61年7月24日協議離婚した。

(4)原告は,被告から交渉を任された丙川に対し,被告の元妻花子との不倫関係の解決金として平成元年7月ころ600万円,同年9月に600万円を支払った(甲1,2)。

(5)被告は,70歳を終えたころ夫婦で老後の生活ができなくなったことの不満を持つようになり,原告に対する鬱憤を募らせ,平成20年3月20日原告に対し電話で慰謝料の支払を要求し,原告から3日待ってくれるように言われたが,原告からは連絡がなかった。そこで被告は,同月24日夜に原告方に押しかけ,帰宅した原告に対し,「花子との間の不倫の慰謝料を支払え」と怒鳴り,顔を殴り,利根川河川敷に連れ出し,竹刀で原告の足・肩・尻などを殴打し,包丁の箱を指し示して「おまえを殺そうと思って,包丁を持って来た」旨脅し翌日午前2時ころ原告方で解放した。原告は同月26日,被告に60万円支払ったが,被告は請求する3000万円の内金とするとしてこれを受け取った(甲4)。

(6)被告が翌27日に3000万円の支払を要求したことから,原告は印西警察署に恐喝されていると相談した。同警察は,同年4月1日被告を呼んで,原告との話合いの場を提供し,原告は謝罪し会うことも電話で話すこともしない旨の誓約書を,被告は原告に何もしない旨の誓約書を交換した(甲5,6)。

(7)被告は,原告が花子と一緒に歩いていることを見つけてまだ付き合っていると不満を持ち,同年6月29日午後7時半ころ原告を被告方に呼び出しテーブルを叩くなどしながら翌30日まで慰謝料3000万円の支払に応じる書面作成を要求し続け,3年後までに既払いの60万円を控除した2940万円を支払う旨の書面を作成させた(乙3)。

(8)被告は同年7月18日原告を呼び出し,コンビニで待ち合わせた上で成田の公証人役場に赴き,3年後までに3000万円を支払う旨の書面(乙3)を示して,本件公正証書の作成を依頼し,本件損害賠償債務を確認し分割弁済を約する公正証書が作成され,さらに同日本件土地建物につき抵当権を設定しその旨の登記もなされた。

2 争点(1)について
前記認定のとおり,被告は原告に対し,平成20年3月以降20年以上前に離婚した元妻と関係した慰謝料3000万円を一貫して要求して原告方に押しかけ深夜まで長時間怒鳴って原告の顔を殴り,深夜の利根川河川敷に連れ出し竹刀で殴打し包丁の箱を指すなどの暴行脅迫を繰り返し,このような脅迫の開始から本件公正証書作成までの期間が3か月半ほどあるとはいえ,執拗に同一内容の脅迫を続けていたものであって,一時的中断も原告が警察に相談して警察が介入した結果に過ぎず,その後も同年6月下旬から同一内容の脅迫を再開して本件損害賠償債務を承認する本件公正証書を作成させ本件土地建物に抵当権設定とその登記がなされたものであって,これを全体として見ると,上記認定のような被告による長期間にわたる一貫した強迫行為により原告を畏怖させ,原告の自由な意思形成に重大な影響を及ぼし,その結果被告にいわれるがままに慰謝料3000万円を前提とした本件損害賠償債務を承認する本件公正証書作成・本件土地建物の抵当権設定とその登記をしたものであるから,本件損害賠償債務を承認する原告の意思表示は,被告の強迫によって形成された瑕疵ある意思表示であって,公正証書作成の手続を経て原告の意思が公証人によって確認されているものの,これをもって強迫状態から脱したとはいえず,被告の強迫による瑕疵ある意思表示であるといわざるを得ない

原告により本訴状をもって,上記強迫による本件債務承認行為を取り消されたので,本件公正証書は効力を持たず,これによる強制執行は許されないし,また本件抵当権設定も効力がなくその旨の登記の抹消も免れないといわざるを得ない。

3 結論
よって,原告の請求には,いずれも理由があるのでこれを認容し,主文のとおり判決する。

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