第三債務者の差押債権者への弁済を否認対象にならないとした判例

原審平成28年7月6日東京高裁判決

主   文
1 原判決を次のとおり変更する。
第1審判決を次のとおり変更する。
(1)上告人は,被上告人に対し,26万円及びこれに対する平成26年3月11日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
(2)被上告人のその余の請求を棄却する。
2 訴訟の総費用は,これを6分し,その1を上告人の負担とし,その余を被上告人の負担とする。

理   由
上告代理人○○○○,同○○○○の上告受理申立て理由第3について
1 原審の適法に確定した事実関係の概要は,次のとおりである。
(1)上告人は,Aに対する貸金請求を認容する確定判決を債務名義として,Aの日本冷凍輸送株式会社(以下「本件会社」という。)に対する給料債権の差押えを申し立て,平成22年4月,これを認容する債権差押命令(以下「本件差押命令」という。)が本件会社に送達された。しかし,本件会社は,その後も,Aに対し,その給料債権の全額の弁済をした。

(2)上告人は,平成25年10月頃,Aの給料債権のうち本件差押命令により差し押さえられた部分(以下「本件差押部分」という。)の支払を求める支払督促を申し立てた。本件会社は,督促異議の申立てをする一方,同月から平成26年1月までの間に,Aに支払うべき給料から合計26万円を控除して,上告人に対し,これを本件差押部分の弁済として支払った(以下,この支払を「本件支払1」という。)。

(3)上記(2)の申立てに係る督促事件が督促異議の申立てにより移行した訴訟において,平成26年2月,本件会社が上告人に対し本件差押部分の弁済として141万8905円を支払うことなどを内容とする和解が成立し,本件会社は,同年3月,上告人に対し,これを支払った(以下,この支払を「本件支払2」という。)。

(4)Aは,平成26年12月,破産手続開始の決定を受け,被上告人が破産管財人に選任された。

2 本件は,被上告人が,本件支払1及び本件支払2について,破産法162条1項1号イの規定により否認権を行使して,上告人に対し,167万8905円及び法定利息の支払を求める事案である。

3 原審は,本件支払1及び本件支払2は,いずれもAの財産である給料債権からの支払であり,これによりAの上告人に対する貸金債務が消滅するから,破産法162条1項の規定による否認権行使の対象となるなどとして,被上告人の請求を,法定利息の一部を除いて認容した。

4 しかしながら,原審の上記判断のうち,本件支払2が破産法162条1項の規定による否認権行使の対象となるとした部分は是認することができない。その理由は,次のとおりである。
(1)破産法162条1項の「債務の消滅に関する行為」とは,破産者の意思に基づく行為のみならず,執行力のある債務名義に基づいてされた行為であっても,破産者の財産をもって債務を消滅させる効果を生ぜしめるものであれば,これに含まれると解すべきである(最高裁昭和38年(オ)第916号同39年7月29日第二小法廷判決・裁判集民事74号797頁参照)。しかるに,債権差押命令の送達を受けた第三債務者が,差押債権につき差押債務者に対して弁済をし,これを差押債権者に対して対抗することができないため(民法481条1項参照)に差押債権者に対して更に弁済をした後,差押債務者が破産手続開始の決定を受けた場合,前者の弁済により差押債権は既に消滅しているから,後者の弁済は,差押債務者の財産をもって債務を消滅させる効果を生ぜしめるものとはいえず、破産法162条1項の「債務の消滅に関する行為」に当たらない。
したがって,上記の場合,第三債務者が差押債権者に対してした弁済は,破産法162条1項の規定による否認権行使の対象とならないと解するのが相当
である。

(2)これを本件についてみると,本件会社は,本件差押命令の送達を受けた後も,Aに対し,その給料債権のうち本件支払1に係る部分を除いた全額の弁済をし,これによりAの給料債権が消滅した後,更に差押債権者である上告人に対して本件支払2をしたものであるから,本件支払2は,破産法162条1項の規定による否認権行使の対象とならないというべきである。

5 以上と異なる原審の判断には,判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反がある。論旨はこの趣旨をいうものとして理由があり,被上告人の請求のうち本件支払2に係る部分は棄却すべきである。
被上告人の請求のうち本件支払1に係る部分に関しては,上告受理申立ての理由が上告受理の決定において排除された。
そうすると,原判決を主文第1項のとおり変更すべきである。
よって,裁判官全員一致の意見で,主文のとおり判決する。


一審平成28年3月10日東京地裁立川支部判決の否認対象判断部分です。

4 争点(3)(本件各支払は否認権行使の対象となるか。)について
前記1の認定事実によれば、被告Yは本件第1次差押命令とこれに係る支払督促及び別件訴訟に基づき、破産者Aの財産に属すべき破産者AのB社に対する給与債権を差し押さえ、これを取立ててB社から本件各支払を受けたものであり、破産者Aの財産からの弁済というべきであるから、執行行為(破産法165条)と同様、本件各支払は、破産者Aの行為に準じて否認権行使の対象となるというべきである。

なお、本件最終支払については、上記1によれば、B社は事実上これと同額を破産者Aに既に支払っていることが認められるが、この支払は本件第1次差押命令に反するものであるから、同社は被告Yにその効力を主張することができず、破産者Aの給与のうち本件第1次差押えに係る部分を被告Yに支払うべき義務を免れることはできないのであって(民法481条1項)、B社は、むしろ破産者Aに対し、上記支払金相当額を不当利得として求償し得るものである(同条2項)。したがって、本件最終支払についても、これが破産者Aの財産である給与債権からの支払であることは変わらないのであって、やはり否認権行使の対象となるというべきである。

5 争点(4)(本件最終支払が有害性のないものといえるか。)について
被告Yは、本件最終支払について否認権の行使が認められる場合には被告Yが上記支払額の貸金債権の届出をすることとなり、これが認められない場合にはB社が同額の不当利得返還請求権の届出をすることとなって、否認権の行使の許否は債権者の交替を生ずるにすぎず、破産財団に増減はないと主張する。しかし、本件最終支払に対する否認権行使が認められるか否かによって破産管財人が回収できる破産財団の金額は異なり、当然に被告Yその他の破産債権者に対する配当率も異なることが明らかであるから、破産財団に増減がないとはいえず、被告Yの主張は採用することができない。

また、被告Yは、破産者Aは先に本件最終支払と同額をB社から支払われてこれを同社に返還していないのに、さらに否認権の行使を認めて被告Yに本件最終支払で受領した金額を支払わせると、原告Xが本件最終支払に係る金額を二重取りすることとなり、不当であるとも主張する。

しかし、破産者Aは、先に受領した金額については不当利得としてB社に返還すべき債務を負っており、この不当利得返還請求権は破産債権となって破産手続以外では行使できず(破産法100条1項)、その優先弁済を受けること自体が破産法162条1項1号イの偏頗弁済として否認権行使の対象となり得るといった制約があるものの、これを保有する権限は有しておらず、本件最終支払につき否認権行使を認めても二重取りを認めることにはならない。
したがって、本件最終支払につき有害性がないと認めることはできない。

6 以上によれば、原告Xは、本件各支払の全額につき破産法162条1項1号イに基づき否認権を行使することができ、被告Yは167万8905円及びこれに対する本件最終支払の受領日の翌日である平成26年3月11日から支払済みまでの遅延損害金の支払義務を負う。そして、遅延損害金の利率については、債権者が否認権行使の対象となる行為によって取得した金銭が商行為に利用され得ると認められる場合には年6分の割合とするのが相当であるところ(最高裁昭和36年(オ)第1095号、1096号同40年4月22日第一小法廷判決・民集19巻3号689頁参照)、本件各支払は、会社が事業のために行う従業員への給与の支払で商行為に当たる(会社法5条)というべきであるから、年6分の割合とするのが相当である。


第二審平成28年7月6日東京高裁判決の否認対象判断部分です。

(2)争点(3)(本件各支払は否認権行使の対象となるか)について
前記前提事実のとおり、本件各支払は、B社が、控訴人Yに対して、本件第1次差押命令に基づき、又はこれに基づく訴訟上の和解に基づき行ったものである。
本件各支払により、破産者Aの控訴人Yに対する貸金等債務は消滅すると解されるから、B社の本件各支払は、破産者Aの行為と同視することができるというべきであり、したがって、本件各支払は否認権行使の対象になる
と解される。
この点について、控訴人Yは、本件最終支払によって破産財団は何ら減少せず、したがって、本件最終支払を破産者Aの行為に準ずるものと解することはできず、同支払は否認権行使の対象にならない旨主張する。

しかしながら、本件最終支払により本来破産財団に属すべき本件最終支払相当額の金員が破産財団に帰属することなく控訴人Yに帰属する以上、本件最終支払によって破産財団の財産が減少したことは明らかである。
控訴人Yは、本件最終支払に対する否認権行使が認められない場合は、破産者Aが受領した本件最終支払相当額が不当利得となるのに対して、同否認権行使が認められる場合には、前記の本件最終支払相当額が不当利得とならないことを前提に、前記の主張をする。しかし、前記認定事実のとおり、B社は、本件第1次差押命令送達後に控訴人Yから差押額や振込先等の通知がなかったことから、破産者Aに対して本件最終支払相当額を支払っており、このことからすると、本件最終支払に対する否認権行使が認められるか否かにかかわらず、B社は、破産者Aに対し、民法481条2項に基づいて、本件最終支払相当額についての不当利得返還請求権を有すると解されるから、前記の控訴人Yの主張は、その前提を欠き、採用できない。
なお、その場合のB社の破産者Aに対する不当利得返還請求権は、破産債権になると解されるが、そのことは本件最終支払についての否認権行使を制限する根拠とはならない。

(3)争点(4)(本件最終支払が有害性のないものといえるか)について
控訴人Yは、本件最終支払に対する否認権行使が認められない場合は、破産者Aが受領した本件最終支払相当額が不当利得となるのに対して、同否認権行使が認められる場合には、前記の本件最終支払相当額が不当利得とならないことを前提に、本件最終支払に有害性がない旨主張するが、同前提が失当であることは、前記説示のとおりであり、控訴人Yの前記主張は採用できない。

(4)争点(5)(否認権行使に基づく金銭返還義務の利息の利率)について
商法514条の適用又は類推適用されるべき債権は、商行為によって生じたもの又はこれに準ずるものでなければならないところ、否認権行使に基づく金銭返還請求権は、債権者間の公平を実現するために破産法の規定によって発生する法定債権であり、本件の破産者Aが商人でないことを考慮すると、本件事案における原状回復義務の請求権は、商行為によって生じたもの又はこれに準ずるものとは認められない。
したがって、同請求権に付すべき利息の利率は、民法所定の年5分と解するのが相当である。
なお、最高裁昭和40年判決は、本件とは事案を異にするというべきである。

3 小括
前記2(1)ないし(3)のとおり、被控訴人Xは、本件各支払に対して否認権を行使することができるから、控訴人Yは、被控訴人Xに対し、本件各支払に係る167万8905円の返還義務を負うべきである。
また、前記2(4)のとおり、控訴人Yは、被控訴人Xに対し、167万8905円に対する平成26年3月11日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による法定利息支払義務を負うものと解される。
その他、控訴人Yの主張に鑑み、当審において提出された書証を含め本件訴訟記録を精査しても、前記認定判断を左右するに足りる的確な主張立証はない。

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