鍵穴ふさいで家賃滞納住民追い出しに慰謝料支払を命じた判例

 

主   文

1 被告(反訴原告)は、原告X1(反訴被告)に対し、88万円及びこれに対する平成25年8月1日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
2 被告(反訴原告)は、原告X2に対し、88万円及びこれに対する平成25年8月1日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
3 原告X1(反訴被告)は、被告(反訴原告)に対し、27万円及びこれに対する平成25年9月11日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
4 原告X1(反訴被告)及び原告X2のその余の本訴請求並びに被告(反訴原告)のその余の反訴請求をいずれも棄却する。
5 訴訟費用は、本訴反訴を通じ、原告X1(反訴被告)に生じた費用の5分の3及び被告(反訴原告)に生じた費用の10分の3を原告X1(反訴被告)の負担とし、原告X2に生じた費用の5分の3及び被告(反訴原告)に生じた費用の5分の1を原告X2の負担とし、原告X1(反訴被告)に生じたその余の費用、原告X2に生じたその余の費用及び被告(反訴原告)に生じたその余の費用を被告(反訴原告)の負担とする。
6 この判決は、1項ないし3項に限り、仮に執行することができる。

事実及び理由

第1 請求(略)

第2 事案の概要(略)

第3 当裁判所の判断
1 認定事実

証拠(略)及び弁論の全趣旨によれば、次の各事実が認められる。
(1)本件賃貸借契約締結に翌る経緯及び原告らの本件物件での生活等原告X1は、平成24年5月頃、かねてから金銭を借り入れていたAから本件物件を紹介され、入居を勧められたことがきっかけで、被告との間で本件賃貸借契約を締結するに至り、その後、原告らは本件物件で一緒に生活していた。

被告X1が賃料等を滞納していたことについては前記前提事実(3)のとおりであるところ、被告は、平成24年12月、アーバン不動産に依頼して、「契約解除・明渡し通知書」と題する書面(要旨、〔1〕原告X1は、同月末日までに、滞納している同年11月分及び12月分の賃料等と平成25年1月分の賃料等の合計27万円を支払うこと、〔2〕原告X1は、同月15日までに本件物件を明け渡すこと、〔3〕ただし、原告X1は、上記〔3〕の支払を期限までに完了した場合は本件物件への入居を継続することができることを内容とするもの。)を作成し、Aに対し、原告X1の同意を得るよう求めた。これを受けて、Aは、電話で原告X1を呼び出し、原告X1は、Aの車中で上記「契約解除・明渡し通知書」に署名と拇印をした。

(2)被告による本件取付行為等
ア 被告代表者は、平成25年8月1日、原告らが外出中に、本件物件の玄関扉の鍵穴部分をすっぽり覆う円形の金属製カバー(以下「本件カバー」という。)を取り付けた(本件取付行為)。原告らは、帰宅したところ、玄関扉の縦穴部分が本件カバーに覆われていたため、玄開扉を開錠するこどができず、本件物件に入れなかった。

本件物件から締め出された原告らは、著しく気が動転し、その日の寝る場所を確保することしか考えられない心境となってしまったため、本件カバーを写真撮影するなどの証拠保全の手段を講ずるという発想には至らなかった。同月26日、原告X1がA及び被告代表者にそれぞれ電話をして本件カバーについて尋ねたところ、A及び被告代表者は、それぞれ、被告代表者において鍵をかけた、滞納家賃を支払えば鍵を開けるという趣旨のことを告げた。

このように、原告らはホームレスの状態となってしまったが、下着等の衣類を新たに購入するなどしつつ生活の立て直しに努め、タクシー運転手として稼働していた原告X1は、日々の売上金からの前借り制度を利用して日銭を得ながら、サウナやネットカフェ等で寝泊まりし、原告X2は、原告X1から当面の生活資金を受け取りながら、かつて両親が居住していた東京都○○区内の居宅兼店舗(理髪店)や同区内の娘宅で生活していた。原告X1は、上記のとおり何とか立て直した生活を維持することで精一杯であったものの、その中で時間を見つけて、警視庁葛西警察署や同小松川警察署に相談に赴いたり、警視庁に電話で相談を持ちかけたりしたが、いずれからも有益な助言を受けることができなかった。

イ 被告代表者は、平成25年8月中に、原告X1の携帯電話に電話をかけ、同月26日に本件ビルの1階の事務所(以下「1階事務所」という。)に来るよう指示した。1階事務所は、被告代表者の友人であるBが代表取締役を務め、被告代表者自身も取締役を務める(株)東京土地建物不動産販売(同月20日設立)の本店所在地であった。原告X1が同月26日に1階事務所に赴くと、被告代表者は、原告X1に対して本件合意書の書式を示しながら、同書面に署名押印したら本件物件に入れるようにする旨述べ、本件合意書の取り交わしを迫った。

原告X1は、本件物件に入るためにとにかく本件カバーを外してもらいたかったので、これに応じることにした。なお、被告代表者が示した上記書式における明渡期限は5日後の同月31日とされていたため、転居先も家財道具の保管場所も決まっていなかった原告X1は、被告代表者に対し、同期限を日延べしてほしいと懇願したが、被告代表者は10日間の延長にしか応じず、原告X1としては、その程度の日数で転居先が決まるとは思えなかったが、本件物件に入りたい一心でこれを受け入れ、その旨変更した後の書面(本件合意書)に署名押印した。原告X1がこの署名押印をした場面には、アーバン不動産のAも同席していた。

ウ 被告代表者は、原告X1が本件合意書に署名押印した直後に、本件物件の玄関扉から本件カバーを取り外したが、原告X1は、屈辱感と憤りの感情を覚えたことから、その時点では本件物件に入らなかった。原告らは、同日の夜になってから本件物件に入ったが、室内は侵入者に荒らされたように荷物が散乱しており、薄型テレビ、ブランド物のバッグや財布、銀行の預金通帳等がなくなっていた。それらは、被告代表者又はA若しくは被告の従業員が持ち出したものであった。冷蔵庫や衣類等は残っており、原告らは、衣類と印鑑等の当面必要な物を持ち出し、その後も何回か本件物件から衣類等の生活必需品を持ち出した。

エ 原告X1は、平成25年9月5日午後7時02分、Aに対し、「すいません。住む所や荷物の処分に四苦八苦してますもう少し待って下さい。必ず返済しますので宜しくお願」(原文のまま)というショートメールを送信した(証拠、略)。

オ Aは、平成25年9月10日午後11時42分、原告X1の携帯電話に「家のほうはかたずきましたか? 明日業者を頼んでかたずけるんですけど、あいじょうぶですか?」(原文のまま)というショートメールを送信した(証拠、略)。

カ 原告X1は、平成25年9月12日に本件物件に入った。すると、同年8月26日の時点では前記ウのとおり散乱しながらも存在していた家財道具(原告ら家族の写真やビデオ、受け取った手紙や葉書等の思い出の品々も含まれる。)がすべてなくなっていた。それより前に、被告代表者、A又は被告従業員においてそれらの家財道具を本件物件から撤去し、処分したこと(本件撤去・処分行為)によるものであった。

(3)本件取付行為及び本件撤去・処分行為の後の交渉
ア 原告X1は、前記(2)カのとおり平成25年9月12日に家財道具一式がなくなっているのを確認した後、それまでの顛末について江戸川区役所に相談したところ、C弁護士(原告ら訴訟代理人。本件本訴提起前に原告X1の代理人として行動した場合につき、以下「C弁護士」という。)が所属する代々木総合法律事務所を紹介され、C弁護士に相談することとなった。

イ 原告X1の委任を受けたC弁護士は、被告に対し、平成25年11月29日付け内容証明郵便を送付し、被告による本件取付行為及び本件撤去・処分行為を指摘した上で、〔1〕原告X1の家財道具一式を返還すること、〔2〕仮にそれができない場合は同家財道具一式に相当する金額の金銭賠償をすること、〔3〕相当額の慰謝料の支払うことを求めた(証拠、略)。

ウ 被告代表者は、C弁護士に対し、平成25年12月7日付けの書面を送付し、「甚だ見解の相違がございます」、「弊社は追い出し行為そのものなどは致しておりません」として本件取付行為を否定した上で、原告X1の希望に合わせて本件合意書を取り交わしたこと、本件合意書による明渡期限である平成25年9月19日に本件物件を訪ねてみると、「玄開扉が施錠されておらず、部屋の中は冷蔵庫が倒れ飛散し、無数の段ボールが散乱して」いたので、足下が危険と判断してそれらを片付けたこと、本件物件は現在も原告X1のために保存していること、双方合意のもと正式な契約解除をしてもらえるならば相応の示談金を用意する意思があること等を主張した(証拠、略)。

エ C弁護士は、被告に対し、平成25年12月19日付け内容証明郵便を送付し、被告代表者が前記ウのとおり相応の示談会を用意する意思がある旨を表明したことを受けて、解決金として200万円を2週間以内に支払うことを求めた(証拠、略)。

オ 被告代表者は、C弁護士に封し、平成25年12月27日付けの書面を送付し、C弁護士からの前記エの要求は一方的なもので応じられない旨回答するとともに、同月までの賃料等のうち108万円が滞納となっているとして、原告X1において同滞納賃料等の支払及び謝罪、賃貸借契約解除の署名及び押印を行う意思があるならば、早期契約解除としての示談金80万円を用念する旨を主張した(証拠、略)。

カ C弁護士は、被告に対し、平成26年1月17日付け内容証明郵便を送付し、被告代表者が前記オのとおり提案した80万円という示談金額は低すぎるとして、再度、解決金として200万円を2週間以内に支払うことを求めた(証拠、略)。

キ 被告代表者は、C弁護士に対し、平成26年1月31日付け書面を送付し、前記オのとおり提示した示談会80万円は「概ね退去50万円、そしてそちら側の主張を尊重した上での30万円、慣例的な範囲内」であったが、C弁護士が前記カのとおりこれを拒否したことから、被告としてもその支払には応じない旨主張した(証拠、略)。

(4)Aと原告X1との間の別件訴訟
Aは、平成26年1月8日、原告X1に対して84万円の支払を求める貸金返還請求訴訟を東京簡易裁判所に提起し(同裁判所平成26年(ハ)第515号)、同裁判所は、審理の結果、Aの上記請求を一部認容する判決を言い渡した。

(5)本件ビルの所有権移転登記
本件ビルについては、平成29日11月21日、被告から合同会社ベイティスへの同日売買を原因とする所有権移転登記がされた。

(6)本件本訴及び本件反訴の各提起原告らは、平成28年7月22日、本件本訴を提起し、被告は、同年11月16日、本件反訴を提起した。

2 事実認定に関する補足説明
(1)被告の主張等について

ア 前記1(2)の認定に対し、被告は、前記第2の2(1)イのとおり、本件取付行為及び本件撤去・処分行為を否認する主張をし、被告代表者及び乙11には同主張に沿う供述部分ないし記載部分があるので、以下個別に検討する。

イ まず、被告代表者は、平成25年9月10日に本件物件に入ったところ、中には冷蔵庫等しかなく、その他の動産は存在しなかったと供述し、乙11にはこれに沿う記載部分がある。
他方において、Aは、前記1(2)オのとおり、被告代表者が前記のとおり本件物件に立ち入ったとする平成25年9月10日の午後11時42分、原告X1にショートメールを送信しているが、その内容は、〔1〕本件物件が片付いたか否かを概括的に尋ねるとともに、〔2〕翌日に業者を呼んで本件物件を片付けることを告知し、それでも大丈夫かを尋ねる趣旨のものである。

Aは被告の取締役であり、兄である被告代表者と住所地が同一である(証拠、略)ほか、前記1(1)のとおり、以前から原告X1に金銭を貸し付けており、本件賃貸借契約もAと原告X1との間の個人的な関係が前提となって締結に至ったものである上、平成24年12月には、被告の求めに応じて原告X1を呼び出して、原告X1をして「契約解除・明渡し通知書」に署名と拇印をさせるなど、原告X1及び本件賃貸借契約と密接な関わりを持ち続けてきたというべきであるから、仮に被告代表者が平成25年9月10日に本件物件内に冷蔵庫等しか残されていない状態を見たとしたら、そのことは直ちにAとも共有されていたというべきである。

しかし、Aが原告X1に送信したショートメールの内容は上記〔1〕〔2〕のとおりであって、本件物件内に冷蔵庫等しか残されていなかったことを前提とするものとは解されないから、このことに照らすと、被告代表者が同日に本件物件に入り、冷蔵庫等しか残されていないのを見たという事実は認めることができないというべきである(なお、被告は、上記ショートメールの中で翌日予定していた事柄は本件物件のクリーニングであると主張するが、同ショートメールにおいては、「クリーニング」という文言は用いられていないし、翌日の予定として用いられている「かたずける」という文言が、原告X1に対して本件物件が片付いたか、すなわち荷物の搬出が済んだかを尋ねる「かたずきましたか」という文言と共通であることからすると、被告の上記主張は採用することができない。)。そして、同ショートメールによれば、被告は、平成25年9月11日に本件物件内の動産を片付けることになっていたというのであり、同予定が変更されたとは認められないから、同日、本件物件内に残されていた原告らの家財道具はすべて被告によって撤去されたと認めるのが相当である。

ウ また、本件合意書の内容は別紙2のとおりであって、当初から、原告X1が支払う賃料等は平成25年7月分までの分に限定されており、同年8月分以降の賃料は支払うこととされていなかったものである。そして、被告代表者は、C弁護士との書面による交渉の中で、前記1(3)ウのとおり、その序盤から示談金を支払う意向を示し、同オのとおりやがて80万円という具体的な提案まで行っている。

被告代表者のこれらの行動は、仮に被告が主張するように原告X1が平成25年5月以降の賃料を全く支払わず、本件合意書に任意に署名押印したということが事実であるとすれば、これらとは整合しないものというべきである、この点につき、被告は、原告X1が本件物件の鍵を返却していなかったこともあり、原告X1に居座られては困ると考え、滞納となった賃料等を支払ってもらうことを前提に示談合を支払ってでも和解しようとしたと主張するが、被告によれば問題なく取り交わされたという本件合意書によれば、原告X1は平成25年9月10日に本件物件を明け渡すことになっており、C弁護士と書面による交渉をしていた頃、原告らは既に本件物件を離れており、C弁護士も同交渉においては損害賠償を求めていただけなのであるから、被告代表者が自ら示談合を提示したことは、やはり不自然というほかない。

エ さらに、前記1(5)のとおり、本件ビルについては、平成26年11月21日に被告から合同会社ベイティスへの所有権移転登記がされているところ、被告は、同登記の経緯について、同年9月頃にある不動産業者から本件ビルの買受けを打診され、同不動産業者において本件ビルの内覧をすることもないままに、同不動産業者に代金4500万円で売却したが、同不動産業者ではなく合同会社ベイティスへの所有権移転登記がされることになった旨主張し、被告代表者及び乙11にはこれに沿う供述部分ないし記載部分があるが,同主張については、〔1〕被告からの直接の売却先や、同売却先ではない合同会社ベイティスが所有権移転登記を受けることとなった経緯、資本金100万円の会社である被告が、通常より安い価格とされる45万円で破産管財人から買受けたという本件ビルを同買受価格と同額で売却することとなった経緯等について必ずしも十分な説明ができていないこと、本件物件については、C弁護士との間の書面による交渉が平成26年1月末まで続いたことによって係争状熊となっており、被告代表者において、C弁護士に対し、本件物件については冷蔵庫等を処分した以外はそのまま原告X1のために保存している旨言明していながら、買受希望者に内覧もさせずに本件ビルを売却したことにつき、不自然な点があるものといわざるを得ない。

オ 以上によれば、本件取付行為及び本件撤去・処分行為を否認する被告の主張並びにこれを支える被告代表者及び乙11の供述部分ないし記載部分は全体として信用性が低いというべきであり、同供述部分ないし記載部分のうち、前記1(2)の認定事実に反する部分はいずれも採用することができない。

(2)前記(2)の事実認定について
ア 被告の主張が前記(1)オのとおり全体として信用性が低いのに対し、原告らの主張については、自ら本訴を提起して以降の一貫性が認められ、これを支える原告X1の供述部分及びこれに沿う甲21の記載部分、原告X2の供述部分及びこれに沿う甲22の記載部分も含め、いずれも基本的に信用性が高いものというべきである。

ただし、原告X1は、平成25年8月20に1階事務所で本件合意書に暑名押印した際、薄型テレビをはじめとする原告らの家財道具が積み上げられていた旨供述し、甲21にもこれに沿う記載部分があるが、その内容は、本件本訴提起から9か月以上が経過した後に提出された平成29年5月8日付け第3準備書面で初めて主張されるに至ったもので、訴状には、平成26年8月26日に本件合意書に署名押印した旨の記載や同日に本件物件に入った旨の記載があるのに、上記の家財道具の積み上げに関する記載が一員ないことに照らすと、原告X1の上記供述部分及びこれに沿う甲21の記載部分は採用することができない。

イ 証人Aは、平成25年8月26日に本件合意書が取り交わされた際の状況について、前記1(2)の認定に反する供述をし、乙10にはこれに沿う記載・部分があるが、同証人は本件物件の賃貸管理を委託されたアーバン不動産の従業員であって、被告による本件取付行為及び本件撤去・処分行為があったとすれば、自らの責任を回避するためにそれらを否定する理由のある立場の者であるから、上記供述部分及びこれに沿う乙10の記載部分ほいずれも採用することができない。

また、証人Aは、アーバン不動産の担当者として、1か月に1回本件物件を巡回していたが、本件カバーに気付いたことはなかった皆供述し、乙10にはこれに沿う記載部分があるが、Aにおいて平成25年8月1日から同月26日までの間(本件カバーが取り付けられていた期間)に上記巡回を行ったことを認めるに足りる的確な証拠はなく、また、仮にAが巡回によって本件物件の前に赴いていたとしても、本件カバーは鍵穴の金属部分をすっぽり覆う金属製のものであるから、Aにおいて気づかなかったことも十分あり得る。したがって、承認Aの上記供述部分及びこれに沿う乙10の記載部分は、前記1(2)の認定を左右するものではない。

ウ そのほか、前記1(2)の認定を左右するに足りる証拠はない。

3 争点に対する判断
(1)争点〔1〕(被告は、本件物件の玄開扉の鍵穴を覆うカバーを取り付け、本件物件内の原告らの家財道具一式を撤去したか否か)について

ア 前記1(2)や認定したとおり、被告代表者又はその指示を受けたA若しくは被告の従業員は、平成25年8月1日の原告らが本件物件の外に出ている時間帯に、本件取付行為を行い、同日から同年9月11日までの間に、本件撤去・処分行為を行ったものである。

イ 被告による本件取付行為及び本件撤去・処分行為が、原告らに対する不法行為を構成することは明らかである。
なお、原告X1が署名押印した本件合意書には、原告X1が平成25年9月10日以降に本件物件内に残置した動産を被告が処分することができる旨の定めがあるが、前記1(2)で認定したとおり、本件合意書は、本件取付行為という不法行為を行った被告自身が、原告X1において署名押印すれば本件カバーを外す旨述べて署名押印させたものであるから、本件合意書による合意によって本件撤去、処分行為の違法性が阻却されるものでない。

(2)争点〔2〕(原告らが受けた損害額)について
ア 精神的損害について
原告らは、前記1(2)で認定したとおり、被告の本件取付行為によって本件物件を追い出され、ホームレス状態となり、原告X1はタクシー運転手としての日々の売上金の中から前借り制度による日銭を得ながらネットカフェやサウナ等で寝泊まりし、原告X2は原告X1から当面生活資金を受け取りながらかつて両親が居住していた居宅件店舗(理髪店)や娘宅で生活しながら勤務先に通っていたものである。そして、原告らが新たな住居を見つけたのは、平成26年の春になってからであった(証拠、略)。また、原告らは、本件撤去・処分行為により、家族の写真やビデオ、受け取った手紙やはがき等の大切にしていた思い出の品々をすべて失ったものである。このように、原告らは平穏な生活そのものを奪われて不便な生活を強いられ、また、惨めな思いをさせられ(本件取付行為によって本件物件に入れなかったのは26日間であるが、その後安定した生活が回復されるまでには半年以上の期間を要している。)、かつ、思い出の品々を失ったことによる喪失感を昧わったのであり、このような精神的苦痛に対する慰謝料としては、原告らそれぞれについて50万円が相当である。

イ 財産的損害について
原告らは、被告の本件撤去・処分行為によって家財道具一式を失ったものであるところ、原告らが当時本件物件内でそれぞれ何を所有していたのかは必ずしも明らかではないが、それらの財産的価値が皆無であったとは解されない。そこで、火災保険において原告らのような50歳前後の二人世帯の家財の買替え費用(再取得価格)が1550万円とされていること(証拠、略)を参酌しつつ、家財道具が置かれていた本件物件の面積が42.8平方メートルであることや、原告らが財産的価値のある物として第一に掲げているのが薄型テレビであること等を考慮して、民訴法248条により、本件撤去・処分行為による財産的損害は、原告らそれぞれについて30万円と認めるのが相当である。

ウ 弁護士費用について
原告らそれぞれの弁護士費用としては、前記ア及びイの合計額である80万円の1割相当額である8万円が相当である。

エ まとめ
したがって、原告らの損害額は、それぞれ88万円となる。

(3)争点〔3〕(被告の原告X1に対する未払賃料等の請求の当否)について
ア 原告X1が本件物件について平成25年5月から同年9月10日までの賃料等合計39万円を支払っていないことは争いがなく、原告X1はこのうち同年5月分から7月分までの賃料等27万円の支払義務を負うことは認めている。

イ 平成25年8月1日から同年9月10日までの賃料等の支払義務について判断する。
被告による本件取付行為及び本件撤去・処分行為が認定されることについては前記1(2)のとおりであり、原告X1は、平成25年8月1日から同月26日までは本件物件に入ることができなかったのであるから、被告は原告X1に対し、本件賃貸借契約に基づき本件物件を使用収益させる義務を履行していなかったものである。また、被告は、同日に本件カバーを取り外したものの、本件撤去・処分行為の一部がそれに先立って行われていたことから、原告らは、被告代表者又はAの本件物件への侵入を恐れ、本件物件での生活を送ることができなかったのであり、本件カバーが取り外された後についても、被告は原告X1に対して上記義務を履行していなかったということができる。
したがって、原告X1は、被告に対し、平成25年8月1日から同年9月10日までの賃料等の支払義務を負わない。

第4 結論
以上のとおり、〔1〕原告らの本訴請求は、それぞれ88万円及びこれに対する平成25年8月1日から支払済みまで年5分の割合による金員の支払を求める限度で理由があるからこれを認容し、その余は理由がないからこれを棄却し,〔2〕被告の反訴請求は、27万円及びこれに対する平成25年9月11日から支払済みまで年5分の割合による金員の支払を求める限度で理由があるからこれを認容し、その余は理由がないからこれを棄却することとして、主文のとおり判決する。

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