追突事故での統合失調症発症との因果関係を認めた判例

平成24年3月23日仙台地方裁判所判決

主 文

1 被告Y保険会社は、原告に対し、1,374万1,645円及びうち1,347万8,455円に対する平成21年4月4日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
2 被告W保険会社は、原告に対し、前項の金員のうち541万円を支払え。
3 原告のその余の請求をいずれも棄却する。
4 訴訟費用は、これを20分し、その16を原告の負担とし、その3を被告Y保険会社の負担とし、その1を被告W保険会社の負担とする。
5 この判決の1項及び2項は、仮に執行することができる。

事実及び理由

第一 請求
1 被告Y保険会社は、原告に対し、7,651万8,910円及びうち6,774万9,205円に対する平成21年4月4日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
2 被告W保険会社は、原告に対し、前項の金員のうち976万円を支払え。

第二 事案の概要
本件は、原告が、交通事故により負傷し後遺障害が残る等による損害を被ったとして、交通事故の相手方車について自動車総合保険契約(以下「任意保険」という。)を引き受けていた被告Y保険会社に対して、任意保険の直接請求権に基づく損害賠償請求として7,651万8,910円及びうち6,774万9,205円に対する損害賠償の最終内金支払日の翌日である平成21年4月4日からの遅延損害金の支払いを求めるとともに、相手方車について自動車損害賠償責任保険契約(以下「自賠責保険」という。)を引き受けていた被告W保険会社に対し、自動車損害賠償保障法16条に基づき、自賠責保険の保険金額の限度での人的損害にかかる損害賠償請求として976万円の支払いを求める事案である。

1 前提事実
(1)交通事故の発生

原告所有、運転の普通乗用自動車(ナンバー(略)。以下「原告車」という。)と訴外丁山四郎(以下「訴外丁山」という。)運転の普通乗用自動車(ナンバー(略)。以下「訴外丁山車」という。)との間で以下の交通事故(以下「本件交通事故」という。)が発生した。

ア 日  時 平成18年2月15日午後4時ころ
イ 場  所 仙台市<地番略>
ウ 事故状況 原告車と訴外丁山車が交差点を同一方向に右折するにあたり、訴外丁山車が、原告車の後部に衝突した。

(2)原告の治療経過
ア 原告は、本件交通事故の後、頸椎捻挫、腰背部挫傷等の診断を受け、平成19年3月27日に同日症状固定の診断を受けるまで、以下の医療機関における治療を受けた。
(ア)B病院・整形外科・入院
入院期間 平成18年2月15日~平成18年2月22日(入院実日数8日)

(イ)B病院・整形外科・通院
通院期間 平成18年2月23日~平成19年3月27日(通院実日数97日)

(ウ)Cクリニック・通院
平成18年2月23日、平成19年3月3日の2日

イ さらに原告は、本件交通事故の後、統合失調症の診断を受け、以下の医療機関における治療を受けた。その間、平成19年12月26日には統合失調症につき同日症状固定の診断を受けている。
B病院・神経精神科・通院
通院期間 平成18年3月15日~平成22年3月23日(通院実日数116日)

(3)原告の後遺障害についての自賠責保険等級認定の結果
原告は、後遺障害についての自賠責保険等級認定を受け、
ア 上記(2)アの後遺障害である頸部重苦感、両上肢痺れ感の症状につき、「局部に神経症状を残すもの」として、自賠法施行令別表第二第14級9号に該当するとの認定を受けたが、

イ 上記(2)イの統合失調症については、本件交通事故との相当因果関係は認められないとして、自賠責保険における後遺障害としては認定されなかった。

(4)原告について
原告は、昭和45年8月に出生した男性であり、本件交通事故時35歳であった。最終学歴はD専門学校卒業である。

(5)被告らについて
ア 被告Y保険会社は、訴外丁山車の所有者や運転者を被保険者として、訴外丁山車の所有、使用又は管理に起因して他人の生命若しくは身体を害し又は他人の財物を損壊することにより、被保険者が法律上の損害賠償責任を負担することによって被る損害に対して保険金を支払うべき責任を任意保険により引き受けていたところ、任意保険では、対人事故によって被保険者の負担する法律上の損害賠償責任が発生した場合においては、損害賠償請求権者が被保険者に対する損害賠償請求権を行使しないことを被保険者に対し書面で承諾した場合は、損害賠償請求権者は、被告Y保険会社に対して、被保険者が損害賠償請求者に対し負担する法律上の損害賠償責任の額を請求することができる旨(直接請求権)が定められている(争いなし)。

原告は、訴外丁山ら被保険者に対し、損害賠償請求権を行使しないことを書面をもって承諾して、もって、被告Y保険会社に対して直接請求権を行使し得べき要件を整えた。

イ 被告W保険会社は、訴外丁山車について自賠責保険を引き受けていた(争いなし)。

2 争点
(1) 本件交通事故の責任原因及び過失割合
(原告の主張

訴外丁山は、本件交通事故発生場所の交差点を右折進行するにあたり、前方を注視して進行する注意義務を怠り、前方を進行していた原告車の動静を注視せず、訴外丁山車の右前部を原告車の左後部に追突させたものであるから、訴外丁山は、民法709条(人的損害については他に自動車損害賠償保障法3条)に基づき、原告に生じた損害を賠償すべき責任を負担している。
被告らの過失相殺の主張は、否認ないし争う。

(被告らの主張)
本件交通事故につき訴外丁山に前方不注視の過失があることは、認める。
ただし、本件交通事故の態様は、接触時点でこそ訴外丁山車による原告車への追突というのと類似するとは言え、原告車による訴外丁山車の前方への割り込みが主な原因をなしている。

訴外丁山車による追突と見た場合でも、原告車が、その前の車が進んでいるにもかかわらず、急ブレーキをかけて停止したため、訴外丁山がブレーキをかけたが間に合わず、訴外丁山車が原告車に追突したというものである。よって、別冊判例タイムズNo.16の第107表を参照して、30%の過失相殺がなされるのが相当である。

(2) 本件交通事故によって生じた原告の損害
(原告の主張)

(ア)入院雑費 1万2,000円
次の計算式による。
1,500円日×8日=1万2,000円

(イ)付添交通宿泊費 1万7,130円
原告の入院に付き添うための諸費用である。

(ウ)通院治療費 7万5,420円
前記1(2)のイのB病院神経精神科への通院治療のうち、平成20年1月以降の分の費用である。なお、症状固定日までの治療費は、被告Y保険会社により填補済みのため、本訴請求から除外している。

(エ)通院交通費 22万8,000円
前記1(2)のア(イ)、(ウ)及びイの各通院のために要した交通費である。

(オ)文書料 5万3,445円

(カ)休業損害 132万5,199円
前記1(2)の入通院の状況からして、少なくとも本件交通事故後3ヶ月間を休業期間とし、平成19年賃金センサス高専・短大卒35~39歳年収額530万0,800円を基礎収入として、次の計算式による。
530万0,800円÷12月×3月=132万5,199円

(キ)入通院慰謝料 200万円
前記1(2)の入通院の状況からすれば、上記金額が相当である。

(ク)逸失利益 4,691万0,383円
原告は、本件交通事故により、頸椎捻挫、頸部神経根症となり、頸部重苦感、両上肢痺れ感の後遺障害が残り、これは少なくとも「局部に頑固な神経症状を残すもの」として、自賠法施行令別表第二の第12級13号に該当するものであり、これによる労働能力の喪失は14%である。

さらに、原告は、本件交通事故のストレス(本件交通事故の処理に関する訴外丁山及び被告Y保険会社の不当な対応によるストレスを含む。)により、統合失調症を発症し、幻覚(幻聴、幻視)、体感幻覚、不安、緊張、攻撃性、被害妄想、不眠、身体症状(頭痛、吐気)、頭痛、不安の症状が残り、これにより全く就労ができない状態となっている。このように原告の労働能力の喪失は100%であり、統合失調症が本件交通事故のみを原因として発生したとは断言できないことを考慮しても、本件交通事故は統合失調症の発症に少なくとも2分の1の割合で関与している。

以上を総合すると、原告は、本件交通事故により、合計64%(=14%+100%×2分の1)の労働能力を喪失したものであり、控えめに見ても自賠法施行令別表第二の第7級相当の後遺障害を残し、前記(カ)で休業期間の終期とした本件交通事故後3ヶ月経過時点以降67歳までの就労可能年数32年にわたり(ライプニッツ係数は15.803)、労働能力を56%喪失したものと言える。
以上により、平成19年賃金センサス高専・短大卒35~39歳年収額530万0,800円を基礎収入として、次の計算式による。
530万0,800円×56%×15.803=4691万0383円

(ケ)後遺障害慰謝料 1,100万円
上記(ク)に述べたとおりの後遺障害(自賠法施行令別表第二の第7級相当)からすれば、上記金額が相当である。

(コ)物損 12万7,628円
本件交通事故による原告車の破損の修理費である。

(サ)弁護士費用 600万円

(シ)(ア)ないし(サ)の合計額 6,774万9,205円

(ス)損害の填補 184万7,429円
原告に対しては、平成21年2月13日に原告契約保険会社である訴外E保険会社より人身障害補償保険金として109万7429円が、平成21年4月3日に被告W保険会社より自賠責保険金75万円が、各支払われた。

(セ)(ス)による填補後の損害額(平成21年4月3日経過時点)
(ス)の各支払いはいずれも上記(シ)の損害合計額に対して事故発生日から年5分の割合で発生する遅延損害金に充当された。その結果、平成21年4月3日経過時点での損害額は、損害元本6,774万9,205円、遅延損害金残金876万9,705円である。

(ソ)まとめ
よって、原告は、被告Y保険会社に対し、任意保険の直接請求権に基づいて、損害賠償として7,651万8,910円及びうち6,774万9,205円に対する平成21年4月4日から支払済みまで年5分の割合による遅延損害金の支払いを求めるとともに、被告W保険会社に対し、自動車損害賠償保障法16条に基づき上記金員のうち976万円(後遺障害等級7級の保険金額1,051万円-75万円)の支払いを求める。

(被告らの主張)
ア 本件交通事故に起因して原告に人的損害が生じたことを否認する。
本件交通事故による原告車に生じる衝撃は軽微であり、原告に何らかの身体影響が生じることは、常識に照らして、考えがたい。
統合失調症についても、本件交通事故との因果関係はない。
訴外丁山に物損を賠償すべき責任のあることは認める。

イ 原告の主張する各費目については、(コ)の物損は不知とし、その余は否認する。
原告の頸部から両肩部にかけての重苦感、両上肢痺れ感等の後遺障害は、他覚所見が存在しないから、これにつき「局部に頑固な神経症状を残すもの」として自賠法施行令別表第二の第12級13号に該当する旨の原告の主張は失当である。
統合失調症については、上記のとおり、本件交通事故との因果関係はないし、仮に本件交通事故が統合失調症の発症に関与するところがあったとしても、大幅な素因減額が行われるべきである。

(ス)の損害の填補に関しては、原告の主張の他、238万8,687円が原告に支払われている。

第三 争点に対する判断
1 本件交通事故の態様及び過失相殺の有無

(1)証拠(略)により、本件交通事故の態様は、訴外丁山が、交差点を右折進行するにあたり、前方を注視して進行する注意義務を怠り、前方を進行していた原告車の動静を注視せず、訴外丁山車の右前部を原告車の左後部に追突させたものと認定することができる。被告らも、本件交通事故につき訴外丁山に前方不注視の過失があること自体は認めている。
したがって、訴外丁山は、民法709条(人的損害については他に自動車損害賠償保障法3条)に基づき、本件交通事故により生じた原告の損害を賠償すべき責任を負担している。

(2)被告らが過失相殺事由として主張する、原告車による訴外丁山車の前方への割り込みとか、原告車の急ブレーキは、いずれも認めるに足りる証拠はない。原告車の割り込みや急ブレーキを言う証拠(略)は、そのようなことは証拠(略)では述べられていないことに照らし、採用できない。

したがって、被追突車による道路交通法24条違反の理由のない急ブレーキがあった場合の表である別冊判例タイムズNo.16の第107表は、本件交通事故においては適用されない。
そして、本件交通事故が起こったのは、交通頻繁な交差点を右折するときであるところ、そのようなときは車の流れは複雑で変化しやすく、ブレーキが必要となる場面が多いことは訴外丁山としても十分予想できるのであるから、本件交通事故における原告車のブレーキ(これが急ブレーキと認めるに足りないことは上記のとおり。)については、過失相殺の事由にはならない。

(3)以上により、本件においては、過失相殺は認められない。

2 本件交通事故により生じた原告の損害
(1)ア 本件交通事故と原告の人的損害との因果関係について検討するに、原告が頸椎捻挫、腰背部挫傷を受傷し、頸部重苦感、両上肢痺れ感の症状を残存したことが、本件交通事故に起因するものであることについては、証拠(略)により認められる。証拠(略)は、本件交通事故との関連性の明らかではない遊園地の乗り物との比較や作成者自らを被験者とする実験からの推論であり説得力が乏しく、採用できず、その他上記認定を妨げる証拠はない。

イ 本件交通事故と統合失調症の発症との因果関係については、原告の精神科の主治医が「交通事故というライフイベントが十分な強度のストレスとして統合失調症発症に関与した可能性がある」との意見を述べており、証拠(略)によれば、原告の精神科の主治医は、「これまで精神疾患の既往もなく、精神科受診歴もなかった。アルバイトを行っており、社会生活上大きな問題はなかったが、事故直後より不眠が出現し、連続して幻覚・妄想が短期間で出現している」との事実の根拠があって、そのような意見を述べているものであること、幻覚、妄想の内容が本件交通事故の相手方である訴外丁山やその代理人弁護士を対象とするものであり(調査嘱託の結果)、明らかに本件交通事故に関連した内容であること及びこの幻覚、妄想の内容からすれば本件交通事故とそれに関するその後の係争が原告にとって強度のストレスとなったことが認められることからすれば、本件交通事故と原告の統合失調症の発症との間にも因果関係が認められる。

以上の当裁判所の判断に対し、自賠責保険等級認定の判断は、統合失調症による妄想や幻覚の症状が認められたのが本件交通事故から49日後であること及び本件交通事故による脳の器質的損傷が認められないことから、本件交通事故との因果関係を否定するが、前者の点については、本件交通事故とそれに関するその後の係争を統合失調症の発症に関与したストレスとみるのであるから、本件交通事故49日後というのが本件交通事故との因果関係を認めるのを妨げるほど遅い時点であるとは理解し難いし、後者の点については、原告の統合失調症はもとより非器質性のものであるから、脳の器質的損傷が認められないことは本件交通事故との因果関係を認めるのを妨げるものではなく、したがって、自賠責保険等級認定の上記判断は採用できない。

また、自賠責保険等級認定の結論は「相当」因果関係を否定するものであるが、上記判示で認定した因果関係については、因果関係の相当性についても備えていると認められ、残るのは素因減額の問題であると判断される。

(2)各費目
(ア)入院雑費 1万2,000円(請求同額)
1日当たりの入院雑費を1,500円とするのは相当であり、したがって、次の計算式により、上記認定額が相当と認められる。
1,500円/日×8日=1万2,000円

(イ)付添交通宿泊費 1万7,130円(請求同額)
入院実日数8日の入院に付き添うための諸費用として、上記認定額は相当と認められる。

(ウ)通院治療費 0円(請求7万5,420円)
平成20年1月以降のB病院神経精神科への通院治療は、前記第二の1(2)イのとおり統合失調症につき平成19年12月26日症状固定の診断がなされた後の治療であるから、その費用は訴外丁山の賠償すべき損害と認めることはできない。

(エ)通院交通費 18万6,960円(請求22万8,000円)
前記第二の1(2)のア(イ)、(ウ)の各通院((イ)につき97日、(ウ)につき2日)及び前記第二の1(2)のイの通院のうち平成19年12月26日症状固定以前の通院(65日)についての交通費として、1通院の交通費を1,140円として(この単価は弁論の全趣旨による。)、次の計算式により、上記認定額が認められる。
1,140円/日×164日=18万6,960円

(オ)文書料 5万3,445円(請求同額)
証拠(略)により上記認定額が認められる。

(カ)休業損害 132万5,199円(請求同額)
前記第二の1(2)の入通院の状況からすれば本件交通事故後3ヶ月間を休業期間とすること、前記第二の1(4)の原告の年齢、学歴からすれば年額530万0,800円を基礎収入とすることは、いずれも相当と認められるから、次の計算式により、上記認定額が相当と認められる。
530万0,800円÷12月×3月=132万5,199円

(キ)入通院慰謝料 200万円(請求同額)
本件交通事故直後の8日間の入院及び平成19年12月26日統合失調症症状固定に至るまで間の実日数164日の通院状況(前記(エ)参照)から、上記認定額が相当と認められる。

(ク) 逸失利益 579万6,093円(請求4,691万0,383円)
a① 原告の頸部重苦感、両上肢痺れ感については、「局部に神経症状を残すもの」として自賠法施行令別表第二の第14級9号に該当する後遺障害と認められる。
これに対し、原告は、「局部に頑固な神経症状を残すもの」として自賠法施行令別表第二の第12級13号に該当すると主張するが、証拠(略)によれば「自覚症状以外、明らかな神経欠落症状(-)」とあること及び同書で「MRIでは第5-6頸椎椎間板ヘルニア像あり」というのも未だ外傷性の異常所見とは認めるに足りないことから、原告の主張は認められない。

② 次に、原告の統合失調症について検討するに、幻覚(幻聴、幻視)、体感幻覚、不安、緊張、攻撃性、被害妄想、不眠、身体症状(頭痛、吐気)、頭痛、不安の症状が昼夜持続し、集中力、作業能力が著しく低下しているため、就労が困難であり、日常生活においても外出が著しく制限され、家庭内でも疲弊した状態であり、今後も症状は持続すると見込まれること及び精神保健及び精神障害者福祉に関する法律45条の保健福祉手帳の障害等級1級(「日常生活の用を弁ずることを不能ならしめる程度のもの」)の交付を受けるとともに、国民年金障害基礎年金障害の等級1級10号に該当するとの国民年金裁定通知を受けたことが認められる。

以上によれば、原告の統合失調症は重度のものと言わざるを得ないが、他方で、ストレスを原因とする非器質性精神障害については、ストレスを取り除き、適切な治療を行うことにより、完治ないし業務に支障の出るような後遺症状の消失を期待できるとの知見があるから、原告においても本件交通事故に関する係争が落着すれば、ストレスから解放されて症状の改善を期待できると考えられる。

以上の事情を総合考慮すると、原告の統合失調症については、自賠法施行令別表第二の第9級10号「神経系統の機能又は精神に障害を残し、服することができる労務が相当程度に制限されるもの」に該当するものと認められる。しかしながら、これを超える等級は認めるに足りない。

③ 上記のとおり、原告の後遺障害等級は、頸部重苦感、両上肢痺れ感については第14級9号に、統合失調症については第9級10号にそれぞれ該当すると認められるところ、本件交通事故による労働能力の喪失としては、重い方の後遺障害の該当する等級である第9級10号により、35%と認めるのが相当である。

労働能力喪失の期間については、頸部重苦感、両上肢痺れ感の後遺障害の程度及び前記のとおり統合失調症について本件交通事故に関する係争が落着すれば、ストレスから解放されて症状の改善を期待できることを考慮すると、前記(カ)で休業期間の終期とした本件交通事故後3ヶ月経過時点である平成18年5月(原告は35歳)から10年間とするのが相当と認められる。

④ もっとも、本件交通事故の軽微な態様に照らせば、原告の統合失調症の発症には、原告の側に素から備わっていた脆弱性(統合失調症の罹患のしやすさ若しくは発病準備性のこと。)がかなり寄与していると認められ、その寄与割合は60%とするのが相当と認められることから、原告の逸失利益を計算するにあたっては、素因減額として60%を控除するのが相当と認められる。

b 以上により、原告の逸失利益は、平成18年賃金センサス高専・短大卒35~39歳年収額536万1,600円を基礎収入として、10年間のライプニッツ係数7.7217を用いて、次の計算式により、上記認定額が相当と認められる。
536万1,600円×35%×7.7217×40%=579万6,093円

(ケ) 後遺障害慰謝料 276万円(請求1,100万円)
上記(ク)で検討した本件交通事故による後遺障害の程度と原告の素因(統合失調症発症に寄与した脆弱性)を考慮すると、上記認定額が相当と認められる。

(コ) 物損 12万7,628円(請求同額)
証拠(略)により上記認定額が認められる。

(サ) 弁護士費用 120万円(請求600万円)
(ア)ないし(コ)の認定額の合計(1,227万8,455円)からすると、上記認定額が相当と認められる。

(シ) (ア)ないし(サ)の合計額 1,347万8,455円(請求6,774万9,205円)

(ス) 既払金 184万7,429円(請求同額)
原告に対しては、
① 平成21年2月13日に原告契約保険会社である訴外E保険会社より人身障害補償保険金として 109万7,429円
② 平成21年4月3日に被告W保険会社より自賠責保険金 75万円
の合計184万7,429円が支払われた(争いなし)。
被告Y保険会社は、上記の他にも238万8,687円が原告に支払われていると主張するが、その内訳(被告Y保険会社の第3準備書面の2項)を精査しても、本訴請求において既に除外されている費目に対する支払いであることが窺われ、本訴請求にかかる損害に充当されるべきものとは認めるに足りない。

(セ) (ス)による填補後の損害額(平成21年4月3日経過時点)
(ス)の各支払いはいずれも上記(シ)の損害合計額に対して事故発生日から年5分の割合で発生する遅延損害金に充当されるところ、
① 本件交通事故日である平成18年2月15日から(ス)の①の109万7,429円の支払日である平成21年2月13日までの日数は2年と321日(閏年にかかるもの)及び44日(通常年にかかるもの)であるから、その間の遅延損害
金は次の計算式により202万0,148円であり、
(計算式)1,347万8,455円×5%×(2年+321日÷366日+44日÷365日)=202万0,148円

② 平成21年2月14日から(ス)の②の75万円の支払日である平成21年4月3日までの日数は49日であるから、それまでの遅延損害金は次の計算式により9万0,471円であるから、
(計算式)1,347万8,455円×5%×49日÷365日=9万0,471円
平成21年4月3日経過時点での損害額は、損害元本1,347万8,455円、遅延損害金残額26万3,190円(=202万0,148円-109万7,429円+9万0,471円-75万円)である。

3 まとめ
(1)被告Y保険会社に対する請求について

よって、原告の被告Y保険会社に対する請求は、1,374万1,645円(=損害元本+遅延損害金残額)及びうち1,347万8,455円(=損害元本)に対する平成21年4月4日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払いを求める限度で理由がある。

(2)被告W保険会社に対する請求について
前記2(2)(ク)a①及び②のとおり、原告の後遺障害等級は、頸部重苦感、両上肢痺れ感については第14級9号に、統合失調症については第9級10号にそれぞれ該当すると認められるところ、後遺障害自賠責保険金額は重い方の後遺障害の該当する等級である第9級により616万円となり、そこから既払いの75万円を控除した541万円の限度で、原告の被告W保険会社に対する請求は理由がある。

4 よって、主文のとおり判決する。なお、被告Y保険会社の求めた仮執行免脱宣言は相当でないから付さないこととする。

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