過去の扶養料の求償額を定めた平成29年3月31日広島高裁決定

平成29年3月31日決定

主   文

1 原審判主文1項及び3項を,次のとおり変更する。
(1) 抗告人は,参加人に対し,40万3500円及び平成29年4月から毎月末日限り1万3450円ずつを支払え。
(2) 抗告人は,当審相手方Bに対し,86万2535円を支払え。
2 原審判主文2項を次のとおり更正する。
「2 当審相手方Cは,参加人に対し,140万1000円及び平成29年4月から毎月末日限り4万6700円ずつを支払え。」
3 申立費用は,原審及び当審を通じ,各自の負担とする。

理   由 


1 事案の概要

抗告人,当審相手方B及び当審相手方C(以下「扶養義務者ら」という。)は,事件本人D(以下「参加人」という。)の子である。本件は,当審相手方Bが,抗告人及び当審相手方Cに対し,
①参加人の扶養料として,平成26年10月以降,それぞれ月額3万円を参加人に支払うこと,
②平成26年9月までに当審相手方Bが負担した参加人及び同人の夫亡Eへの金銭的な援助(831万7545円)につき,過去の扶養料の求償としてそれぞれ277万2525円を当審相手方Bに支払うこと
を求める事案である。

原審は,抗告人及び当審相手方Cに対し,①参加人の扶養料として,平成26年10月から毎月末日限り,抗告人につき1万7200円,当審相手方Cにつき4万6700円を参加人に支払うこと,②過去の扶養料の求償として,当審相手方Bの参加人及びEに対する援助額のうち790万3389円を扶養義務者らの収入に応じて按分した金額(抗告人につき168万6081円,当審相手方Cにつき457万4763円)を当審相手方Bに支払うことを命じたところ,抗告人が本件抗告をした。

2 抗告の趣旨及び理由
抗告の趣旨は,原審判を取り消し,抗告人の参加人に対する扶養料を月額5000円とし,当審相手方Cの参加人に対する扶養料を月額5万円とし,当審相手方Bによる過去の扶養料の求償を認めないとの審判に変わる裁判を求めるものである。
抗告の理由は,別紙抗告状写しの「第4 抗告の理由」欄に記載のとおりである。

3 当裁判所の判断
(1) 当裁判所は,原審判を一部変更するのが相当であると判断する。その理由は,以下のとおりである。

(2) 過去(平成26年9月分まで)の扶養料の求償分について
ア 子の老親に対する扶養義務(民法877条1項)は,いわゆる生活扶助義務,すなわち,自らの社会的地位等に相応する生活をした上で余力がある限度において負担する義務と解されることを考慮すると,扶養料の額は,原則として,実際に要した生活費ではなく,参加人及びEの生活を維持するために必要である最低生活費(生活保護基準額等を参考にするのが相当である。)から同人らの収入を差し引いた額を超えず,かつ,扶養義務者らの余力の範囲内の金額とすることが相当である。

イ 当審相手方Bが支払を求める求償金に係る援助の時期における,参加人及びEの必要生活費については,厚生労働大臣が定める生活保護基準によって算定した最低生活費を参考とすべきである。生活保護基準(本件では,各年分について,平成26年3月31日厚生労働省告示第136号による改正分までの数値によって算出する。)に基づく参加人及びEの最低生活費は,次のとおりである。
(ア) F県G市は,生活扶助基準を定める上で,「3級地-1,冬季加算ではⅥ区」に区分される。
(イ) 参加人は,昭和14年(1939年)●月●日生まれ,Eは,昭和13年(1938年)●月●日生まれである。
(ウ) 基準生活費(生活扶助(居宅第1類)+生活扶助(居宅第2類基準額)+冬期加算額×5÷12+期末一時扶助÷12)
a 平成21年1月~平成25年2月(参加人及びE) 9万6530円
b 平成25年3月~平成26年9月(参加人のみ) 6万5290円

ウ 上記基準生活費には,住宅費は含まれていないところ,自宅家賃につき,参加人及びEが同居していた時期(上記a)は,全額である5万5210円を,参加人のみが生活している時期(上記b)は,参加人の独居であること及び当審相手方Bが日中に事業に使用していたこと等を踏まえて,4万円の限度で住宅費として斟酌することとする。

エ 以上によると,参加人及びEの最低生活費は,平成21年1月~平成25年2月が月15万1740円,平成25年3月~平成26年9月が月10万5290円となり,各年における最低生活費は,平成21年~平成24年が各182万0880円,平成25年が135万6380円,平成26年(1月~9月)が94万7610円となる。

オ 他方,記録によれば,参加人及びEの収入は年金収入であり,各年の支給額(合計)は,平成21年が117万4230円,平成22年が121万8901円,平成23年が116万9132円,平成24年が111万2018円,平成25年が48万1885円,平成26年が約38万8270円(同年9月分まで)であると認められるから,上記エの最低生活費との差額(各年の不足額)の合計は404万3074円となる。そして,同不足額については,扶養義務者らにおいて,その収入に応じて分担することが相当である。

カ 抗告人,当審相手方らの負担額について
(ア) 記録によれば,当審相手方Bの平成26年の年収は194万0566円(月16万1713円),抗告人の年収は199万2000円(月16万6000円),相手方Cの収入は540万4800円(月45万0400円)を下らない(なお,扶養義務者らの収入については,全期間について明らかとなっているものではないが,記録上,明らかな増減があるとは認められないので,各年について上記の収入を基準とする。)。
そうすると,扶養義務者らの収入に応じた分担額は,抗告人が86万2535円(1か月当たり約1万2500円),当審相手方Bが84万0264円(1か月当たり1万2177円),当審相手方Cが234万0275円(1か月当たり3万3917円)となる。

(イ) 次に,抗告人及び当審相手方らの経済的余力について,具体的に検討する。
a 記録によれば,当審相手方Bには,妻(昭和46年●月●日生)及び同人との間に3名の未成熟子がいること,抗告人は,看護師として稼働する妻(昭和44年●月●日生)及び未成熟子である二男と同居していること,当審相手方Cは,会社員として稼働する妻(昭和44年●月●日生),パート勤務をしている長女及び未成熟子である二女と同居していることを認めることができる。

b 扶養料の支払義務者らについて,扶養料の負担の余力の有無を検討する前提となる生活費については,統計による標準的な生計費を参考とすべきであるところ,人事院が算定した標準生計費(平成26年人事院勧告の参考資料)は,世帯人員3名の場合は月19万9600円(年239万5200円),4名の場合は月21万9630円(年263万5560円),5人の場合は月23万9660円(年287万5920円)である。

c 抗告人については,上記標準生計費(世帯人員3名)及び抗告人の収入額を基準とした場合,負担の余力がない(16万6000円-19万9600円=-3万3600円)ようにもみえる。
しかしながら,抗告人の妻は,看護師として稼働しているところ,夫婦は収入等を考慮して婚姻費用を分担すべきとされていること(民法760条)からすると,抗告人世帯の生活費については,抗告人の妻が抗告人と分担しているものとして,抗告人の余力の有無,程度を判断するのが相当である。

ところが,抗告人は,抗告人の妻の収入関係資料について提出しないので,抗告人の妻(昭和44年●月●日生)と同程度の年齢区分である,賃金センサス平成26年第1巻第1表・女子労働者学歴計・40歳~44歳の年収額が396万3000円(月33万0250円)であることを斟酌して,抗告人の妻には,抗告人世帯の生活費について相応の分担能力があると認めるものとする(抗告人の分担額を検討するに当たり,扶養義務者でない妻の収入を合算して余力の有無を検討することは相当ではないが,他方で,抗告人夫婦で分担すべき生活費に関して,抗告人が分担すべき額を検討するに際して妻の収入を斟酌することは当然に許される。)ことからすると,抗告人世帯における非消費支出等を踏まえても,抗告人には,前記分担額(1か月当たり約1万2500円)を負担する余力があったものと認められる。

d 当審相手方Cについては,上記標準生計費(世帯人員4名)及び同人の収入を踏まえると,同人の収入のみで生活費を負担することを前提としても,前記分担額(1か月当たり約3万3917円)を負担する余力はあったし,原審判が負担を命じた金額457万4763円(1か月当たり約6万6300円)についても,負担する余力があったと認められる。加えて,同人の妻は会社員として稼働し(なお,長女もパート収入がある。),当審相手方C世帯の生活費について相応の負担能力があると認められることに加え,記録によれば,当審相手方Cは,当審相手方Bとの協議に基づき,扶養料として,平成27年1月以降月5万円(同年4月からは月5万5000円)を負担していると主張しており,原審判に対し抗告をしていないことや,当審相手方Bが,前記参加人及びEに係る最低生活費を超える部分についても援助等の経済的負担をしていることが窺われることなどの「一切の事情(民法879条)」を考慮すると,当審相手方Cの当審相手方Bに対する過去の扶養料の負担に関しては,原審判で定めた額とすることが相当である。

e 当審相手方Bについては,上記標準生計費及び同人の収入を踏まえると,負担の余力がないとも解されるが,当審相手方Bが現実に前記経済的援助をすることができたこと,前記認定の抗告人及び当審相手方Cが分担すべき金額の合計だけでも,前記の参加人及びEに係る収入の不足額を満たしているのであって,それ以上にこの両名に負担を求めるのは相当でないことからすると,当審相手方Bは,前記抗告人及び当審相手方Cが分担すべきとされた金額を超える額について,過去の扶養料として求償することはできないというべきである。

(3) 平成26年10月分以降の扶養料について
ア 前記(2)エのとおり,平成25年3月以降における参加人に関する最低生活費は,月額10万5290円程度であるところ,記録によると,同人の年金収入は月額4万2241円程度であると認めるのが相当であるから,最低生活費と収入との差額は,月6万3049円程度となる。これを,前記と同様に,扶養義務者らの平成26年の収入額に応じて分担すると,抗告人が1万3450円,当審相手方Bが1万3103円,当審相手方Cが3万6495円となる。

イ 抗告人については,前記(2)カの標準生計費及び各人の収入額との関係について検討した際と同様の理由により,上記分担額を負担する余力があると認められる。

ウ また,当審相手方Cについては,原審判が認めた扶養料の額は,前記の分担額を超過しているが,前記(2)カで検討したのと同様の理由により,一切の事情を考慮すると,原審判で定めた額とすることが相当である。

エ 当審相手方Bについては,抗告人及び当審相手方Cが分担すべき扶養料の合計額と,前述の最低生活費との関係における収入の不足額との差額が3000円弱程度にとどまるところ,記録によれば,当審相手方Bは,平成25年3月以降も参加人に対する経済的援助を続けることができていることからすると,上記差額については,当審相手方Bの分担とすることが相当である。

4 結論
以上,抗告人に対しては,原審判と異なり,参加人の扶養料として,月額1万3450円を参加人に支払うように命じ,参加人及びEに係る過去の扶養料の求償として,86万2535円を当審相手方Bに支払うように命じるのが相当であるが,当審相手方Cに関する申立てについては,原審判を変更する必要がない(ただし,原審判主文2項には,始期の記載がない点で明白な誤りがあるので更正する。)。
よって,原審判の一部を変更することとして,主文のとおり決定する。

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