外貌醜状に関する男女差を違憲とした判決理由

第3 争点に対する判断
1 争点(1)について
(1) 本件における憲法判断の対象等

前記第2の1(4)エのように、障害等級表は、外ぼうの著しい醜状障害については女性を第7級、男性を第12級と、外ぼうの醜状障害については女性を第12級、男性を第14級としており、男女に等級の差を設けている。もっとも、労働省労働基準局長通達である認定基準(乙3)によって、男性のほとんど顔面全域にわたる瘢痕で人に嫌悪の感を抱かせる程度のものについては、第7級の12を準用することとされており、これは、同じ省内での判断として、厚生労働省令における障害等級表の定めを補完し、障害等級表と一体となって、その内容に従った運用をもたらすものといえるから、上記の認定基準によって、上記の程度の外ぼうの醜状障害についての障害補償給付に関しては、男女の差はないといえる。
したがって、本件では、厚生労働大臣が、障害等級表において、ほとんど顔面全域にわたる瘢痕で人に嫌悪の感を抱かせる程度に達しない外ぼうの醜状障害について、男女に差を設け、差別的取扱いをしていること(以下、「本件差別的取扱い」という。)が、憲法判断の対象となる。

(2) 本件における合憲性の判断基準等
ア 憲法14条1項
憲法14条1項は、法の下の平等を定めた規定であり、事柄の性質に即応した合理的な根拠に基づくものでない限り、差別的な取扱いをすることを禁止する趣旨と解される(最高裁判所昭和39年5月27日大法廷判決・民集18巻4号676頁、最高裁判所昭和48年4月4日大法廷判決・刑集27巻3号265頁参照)。

イ 障害等級表の策定に関する裁量と憲法14条1項
法は、障害補償給付について、厚生労働省令で定める障害等級に応じて支給する旨を規定しているから(法15条1項)、障害等級表の策定については厚生労働省令の定め(規則の定め)にゆだねられており、厚生労働大臣には、障害等級表の策定についての裁量権が与えられているが、上記アの憲法14条1項の趣旨に照らせば、そのような裁量権を考慮してもなお当該差別的取扱いに合理的根拠が認められなかったり、合理的な程度を超えた差別的取扱いがされているなど、当該差別的取扱いが裁量判断の限界を超えている場合には、合理的理由のない差別として、同項に違反するものと解される。

ウ 障害補償給付についての裁量権の範囲
次に、厚生労働大臣の裁量の範囲に関し、法による障害補償給付の性質について検討する。
そもそも、労働者災害補償は、安全配慮義務違反を根拠に使用者に損害賠償を求める場合と異なり、使用者の帰責事由を要せず、被災労働者の過失にかかわらず、また、個別の損害の立証を要せず、定型的、定率的な損害のてん補がされるという性質を有する。もとより、被災労働者は、安全配慮義務違反の要件を立証して使用者に民事上の請求をすることも可能である。
このような性質から考えると、被災者にどの程度の損失をてん補するかは、その時々の労働環境や労働市場等の動向などの経済的・社会的条件、国の財政事情等の不確定要素を総合考量した上での専門的技術的考察及びそれに基づいた政策的判断を要するという面がある。とりわけ、障害等級表の策定については、解剖学的、生理学的観点から労働能力の喪失の程度を分類し、格付けを行う必要があり、複雑多様な高度の専門的技術的考察が必要であるといえる。そうすると、障害補償給付を受ける権利への制約に関する厚生労働大臣の裁量は、表現行為や経済活動などの人権への制約場面に比し、比較的広範であると解される。

エ 判断基準と立証責任
以上によれば、本件においては、障害等級表の策定に関する厚生労働大臣の比較的広範な裁量権の存在を前提に、本件差別的取扱いについて、その策定理由に合理的根拠があり、かつ、その差別が策定理由との関連で著しく不合理なものではなく、厚生労働大臣に与えられた合理的な裁量判断の限界を超えていないと認められる場合には合憲であるということができる。
他方、行政処分の取消訴訟において、処分の適法性を立証する責任は、基本的に、処分をした行政庁の側にあると解され、本件では、被告が本件処分の適法性を立証しなければならないところ、本件処分が本件差別的取扱いを内容とする障害等級表の定めに基づいてされていることは明らかであるから、本件処分の適法性の前提として、本件差別的取扱いが憲法に違反しないことが必要であり、したがって、被告は、本件差別的取扱いの合憲性について立証しなければならないものと解される。
よって、以下(3)では、この立証責任の配分に従い、基本的には、本件差別的取扱いの合憲性に関する被告の主張の当否を検討していくこととする。

(3) 被告の主張の検討
被告は、外ぼうの醜状障害が第三者に対して与える嫌悪感、障害を負った本人が受ける精神的苦痛、これらによる就労機会の制約の程度について、男性に比べ女性の方が大きいという事実的・実質的な差異があり、これが本件差別的取扱いの合理的根拠となる旨主張し、上記差異の根拠として、以下の点を挙げているので、これらについて検討する。

ア 労働力調査についての主張
(ア) 被告の主張の概要
被告は、労働力調査における産業別女性比率や産業別雇用者数によると(乙6、7)、女性の就労実態として、接客等の応接を要する職種への従事割合が男性に比して高いといえる旨主張している。

(イ) 産業と職業の相違について
しかし、上記の産業別女性比率や産業別雇用者数における「産業」とは、調査期間中に就業者が実際に仕事をしていた勤め先・業主の主な事業の種類を日本標準産業分類に基づいて分類したものであり(甲13の2)、労働力調査において当該就業者が実際にしていた仕事の種類であるとされる「職業」とは異なるものである。
したがって、上記のような産業別女性比率や産業別雇用者数から、女性の職種、ひいては女性の就労実態を直ちには導き出せないし、接客等の応接を要する職種に女性が多く従事していることも導き出せないと解される。例えば、被告の挙げる「医療・福祉」について、当該産業に従事する者の中に、接客を要することのない一般事務に従事する者も一定の割合で存在すると考えられること、「教育、学習支援業」について、産業別女性比率は51.7%であるが(乙7)、その中に含まれると考えられる職業としての「教員」及び「個人教師(学習指導)」についての雇用者数の女性比率は48.1%で(乙14)、男女比率がほぼ逆転していることなどからも、産業別の数値が職業の実態に必ずしもつながらないことを示しているといえる。なお、被告は、事業の種類からでも接客等の応接を要することが多い従業員の割合の大小などをおおむね把握できるなどとも主張しているが、何ら具体的な根拠が示されておらず、上記の判断は左右されない。

(ウ) 産業別雇用者数の関係
被告は、産業別雇用者数に関し、サービス業全体についての女性の雇用者数の増加が男性より大きく、これが接客等の応接を要する職業に女性が多く従事していることの根拠となる旨主張しているが、労働力調査におけるサービス業全体の中には、「サービス業(他に分類されないもの)」として、専門サービス業としての土木建築サービス業、学術・開発研究機関、廃棄物処理業、自動車整備業、機械等修理業などが含まれている(甲13の1)。したがって、上記(イ)のようにそもそも産業別の数値から職業の実態を直ちに導き出せないことをひとまずおき、被告の主張に沿って考えたとしてもなお、サービス業全体についての女性の雇用者数の増加が男性よりも多いことが、接客等の応接を要する職種に女性が男性より多く従事していることの根拠となるとはいえない。

イ 国勢調査についての主張
(ア) 被告の主張の概要等
被告は、国勢調査における職業小分類別の雇用者数のデータを整理した別紙(被告指定代理人作成の乙14)を分析すると、女性の就労実態として、接客等の応接を要する職種への従事割合が男性に比して高いといえる旨主張している。
確かに、被告の主張するとおり、「保健医療従事者」及び「社会福祉専門職業従事者」に占める女性の割合は81.5%、「飲食店主」及び「接客・給仕職業従事者」に占める女性の割合は69.5%であり、男性よりも女性の方が多い。他方、被告も認めるとおり、被告が接客等の応接を要する職業として主張する産業である「教育、学習支援業」及び「卸売・小売業」について、被告がこれら産業に該当する職業として別紙で整理した職業(前者について「教員」及び「個人教師(学習指導)」、後者について「小売店主」、「卸売店主」、「販売店員」、「商品訪問・移動販売従事者」、「再生資源卸売・回収従事者」、「商品販売外交員」及び「商品仲立人」)における女性の割合は、それぞれ、48.1%、41.9%であり、男性よりも低くなっている。
また、被告の主張する接客等の応接を要すると考えられる職業小分類について、女性雇用者数が総雇用者数に占める割合は別紙のとおり56.7%(「自動車運転者」を加えると51.3%)、同職業小分類の雇用者数が男女の各雇用者総数に占める割合は別紙のとおり女性が38.5%、男性が22.6%(「自動車運転者」を加えると女性38.8%、男性28.2%)である。

(イ) 分析
まず、本件差別的取扱いの合理性を根拠付けるべき男女の職業に関する差異というのは、外ぼうの醜状障害によって生じる第三者の嫌悪感及び障害を受けた本人の精神的苦痛により就労機会が制約され、損失てん補が必要であると一般的にいえるような職業についての差異である必要がある。
そうすると、被告の主張する「接客等の応接を要する職業」のみならず、本人の精神的苦痛による就労機会の制約の面からは、多くの不特定の他人と接する、あるいはそのような不特定の他人の目に触れる機会の多い職業も含めて考えるのが相当である。
別紙に記載されているその他の職業でも、少なくとも、「法務従事者」、「経営専門職業従事者」、「音楽家、舞台芸術家」、「販売類似職業従事者」(不動産仲介・売買人、保険代理人・外交員、外交員(商品、保険、不動産を除く)など)、「生活衛生サービス職業従事者」(理容師(助手を含む)、美容師(助手を含む)、浴場従事者、クリーニング職、洗張職)は、上記の職業に含めて考えるべきであるし、「その他のサービス職業従事者」、「保安職業従事者」の中にも、上記の職業に含まれるものがあると考えられる。

そこで、被告の主張する「接客等の応接を要する職業」に、上記の「法務従事者」、「経営専門職業従事者」、「音楽家、舞台芸術家」、「販売類似職業従事者」、「生活衛生サービス職業従事者」を加えた職業に従事する女性と男性の数(別紙記載のもの)を合計すると、女性は695万1000人、男性は593万5100人で、女性雇用者数が総雇用者数に占める割合は53.9%、同職業小分類の雇用者数が男女の各雇用者総数に占める割合は女性が33.5%、男性が22.0%である。
さらに、これに「その他のサービス職業従事者」、「保安職業従事者」を加えた職業に従事する女性と男性の数(別紙記載のもの)を合計すると、女性は778万8200人、男性は716万2100人で、女性雇用者数が総雇用者数に占める割合は52.1%、同職業小分類の雇用者数が男女の各雇用者総数に占める割合は女性が37.6%、男性が26.5%である。

(ウ) 検討
以上のように、国勢調査の結果を分析すると、外ぼうの醜状障害により損失てん補が必要であると一般的にいえるような職業について、女性雇用者数が総雇用者数に占める割合も、同職業小分類の雇用者数が男女の各雇用者総数に占める各割合も、男性に比べ女性の方が大きいということができるが、採用する職業小分類に応じてその差の程度は区々であるということができる。
そうすると、国勢調査の結果は、事実的・実質的な差異の根拠になり得るとはいえるものの、その根拠としては顕著なものであるともいい難いところである。

ウ 精神的苦痛自体の差異についての主張
被告は、化粧品の売上げや広告費に関する統計から、女性が男性に比して自己の外ぼう等に高い関心を持つ傾向があることが窺われ、外ぼう等に関する関心が高い者の方が醜状の及ぼす精神的苦痛の程度が大きいと考えられるから、外ぼうの醜状障害による精神的苦痛の程度について男女の間に明らかな差異があると主張している。

確かに、証拠(乙15~17)を検討するまでもなく、皮膚用化粧品や仕上用化粧品の需要が男性に比して圧倒的に女性に多いこと、女性用の化粧品やファッション、アクセサリーについてのマスコミにおける広告費が大きな数を占めていることは明らかであり、近年男性の自己の外ぼうに対する関心が高まってきているとの証拠(甲17~38)があることを考慮しても、なお、一般的に、女性の自己の外ぼうに対する関心が男性に比して高いということができる。そうすると、外ぼうの醜状障害による精神的苦痛の程度について、男女の間に差異があるとの社会通念があることに結びつくとはいえるし、当裁判所の認識もこれを否定するものではない。

他方、外ぼうへの関心が低い人でも、男性であっても、実際に外ぼうに醜状障害を受けた場合に大きな精神的苦痛を感じることもあり得ると考えられる。実際に、原告が、外ぼうの醜状障害によって大きな精神的苦痛を感じていることも、同人の陳述書(甲40)及び本人尋問の結果等から明らかである。
したがって、外ぼうへの関心の有無・程度や男女の性別が、外ぼうの醜状障害による精神的苦痛の程度と強い相関関係に立っているとまではいえない。

エ 裁判例に関する主張
被告は、外ぼうの醜状障害に関する逸失利益等が問題となった交通事故に関する裁判例により、外ぼうの醜状障害により受ける影響について男女間に事実的・実質的な差異があるという社会通念の存在が根拠付けられている旨主張している。

確かに、被告の指摘する裁判例(乙8~12)において、外ぼうの醜状障害により受ける影響について男女間に差異があることを前提とするような記述が見受けられるが、その記述自体の合理的根拠は必ずしも明らかではなく、これらの記述が、上記のような差異に関する社会通念の存在の強い根拠となるものとはいえない。

オ まとめ
以上のとおり、国勢調査の結果は、外ぼうの醜状障害が第三者に対して与える嫌悪感、障害を負った本人が受ける精神的苦痛、これらによる就労機会の制約、ひいてはそれに基づく損失てん補の必要性について、男性に比べ女性の方が大きいという事実的・実質的な差異につき、顕著ではないものの根拠になり得るといえるものである。また、外ぼうの醜状障害により受ける影響について男女間に事実的・実質的な差異があるという社会通念があるといえなくはない。そうすると、本件差別的取扱いについて、その策定理由に根拠がないとはいえない。

しかし、本件差別的取扱いの程度は、男女の性別によって著しい外ぼうの醜状障害について5級の差があり、給付については、女性であれば1年につき給付基礎日額の131日分の障害補償年金が支給されるのに対し、男性では給付基礎日額の156日分の障害補償一時金しか支給されないという差がある。これに関連して、障害等級表では、年齢、職種、利き腕、知識、経験等の職業能力的条件について、障害の程度を決定する要素となっていないところ(認定基準。乙3)、性別というものが上記の職業能力的条件と質的に大きく異なるものとはいい難く、現に、外ぼうの点以外では、両側の睾丸を失ったもの(第7級の13)以外には性別による差が定められていない。

そうすると、著しい外ぼうの醜状障害についてだけ、男女の性別によって上記のように大きな差が設けられていることの不合理さは著しいものというほかない。また、そもそも統計的数値に基づく就労実態の差異のみで男女の差別的取扱いの合理性を十分に説明しきれるか自体根拠が弱いところであるうえ、前記社会通念の根拠も必ずしも明確ではないものである。その他、本件全証拠や弁論の全趣旨を省みても、上記の大きな差をいささかでも合理的に説明できる根拠は見当たらず、結局、本件差別的取扱いの程度については、上記策定理由との関連で著しく不合理なものであるといわざるを得ない。

(4) 小括
以上によれば、本件では、本件差別的取扱いの合憲性、すなわち、差別的取扱いの程度の合理性、厚生労働大臣の裁量権行使の合理性は、立証されていないから、前記(2)ウのように裁量権の範囲が比較的広範であることを前提としても、なお、障害等級表の本件差別的取扱いを定める部分は、合理的理由なく性別による差別的取扱いをするものとして、憲法14条1項に違反するものと判断せざるを得ない。

そして、本件処分は、上記の憲法14条1項に違反する障害等級表の部分を前提に、これに従ってされたものである以上、原告の主張する条約違反の点(前記第2の2(1)(原告の主張)エ)を検討するまでもなく、本件処分は原則として違法であるといわざるを得ない。

2 争点(2)について
(1) 前記1のように、本件差別的取扱いは憲法14条1項に違反しているとしても、男女に差が設けられていること自体が直ちに違憲であるともいえないし、男女を同一の等級とするにせよ、異なった等級とするにせよ、外ぼうの醜状という障害の性質上、現在の障害等級表で定められている他の障害との比較から、第7級と第12級のいずれかが基準となるとも、その中間に基準を設定すべきであるとも、本件の証拠から直ちに判断することは困難である。

(2) このように、「従前、女性について手厚くされていた補償は、女性の社会進出等によって、もはや合理性を失ったのであるから、男性と同等とすべき(引き下げるべき)である」との被告が主張するような結論が単純に導けない以上、違憲である障害等級表に基づいて原告に適用された障害等級(第12級)は、違法であると判断せざるを得ず、本件処分も、前記1の原則どおり違法であるといわざるを得ない。

3 争点(3)について
前記1、2のとおり、本件処分が違法であることは明らかであるから、争点(3)は判断する必要がない。

4 結論
以上のとおり、本件処分は障害等級表の憲法14条1項に違反する部分に基づいてされたもので、違法である。したがって、本件処分は取り消されるべきであり、原告の請求は理由があるから、主文のとおり判決する。

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