残業代(時間外手当)が出ていないかも?──「肩書き」より「実態」で決まります

固定残業代って書いてあるから無理」「店長(課長)だから残業代はないと言われた」「タイムカードは定時で切ってるけど、実際は…」
残業代の相談で多いのは、このあたりです。

結論から言うと、残業代(割増賃金)は “制度の名前”より“運用の実態” が決定的です。労働基準法は、時間外・休日・深夜の割増賃金を原則として求めています。

1 そもそも「労働時間」とは?──“指揮命令下”がカギ

残業代は「労働時間」を前提に計算します。ここで落とし穴が多い。

労働時間=会社の指揮命令下に置かれている時間(明示の命令だけでなく、黙示の指示も含む)という考え方が基本で、厚労省のガイドラインでもこの整理が示されています。

たとえば、次のような“サービス残業化しやすい時間”は要注意です。

  • 開店前の準備、朝礼前の段取り、終業後の締め作業

  • 着替え・清掃・点検・レジ締め等が「実質必須」になっている

  • 持ち帰り仕事、在宅でのメール・チャット対応(実質的に断れない)

  • 休憩のはずが電話当番・来客対応で“切れていない”

ポイント:会社が「申告してないから知らない」と言っても、実態として業務が常態化していれば争点になります(証拠の集め方が勝負になります)。


2 割増賃金は何に付く?(最低限の整理)

労基法は、時間外・休日・深夜について割増賃金を定めています。

  • 時間外労働(法定:1日8時間・週40時間超):25%以上

  • 休日労働(法定休日):35%以上

  • 深夜労働(22:00〜5:00):25%以上

  • 月60時間超の時間外労働:50%以上(中小企業も2023年4月1日から対象)

深夜×時間外が重なると、加算(例:25%+50%=75%)の場面も出ます。


3 「36協定がある=残業代は不要」ではありません

36協定は「残業させられる枠」を作るためのものです。残業代の支払義務とは別問題です。
さらに、上限規制(原則 月45時間・年360時間、特別条項でも年720時間・単月100時間未満・複数月平均80時間以内等)もあります。


4 固定残業代(みなし残業)──“入ってること”より“分かれてること”

固定残業代は、それ自体が直ちに違法とは限りません。
ただし争点になりやすいのは次の3点です。

  1. 何時間分が固定残業代なのか(時間)

  2. その固定残業代がいくらなのか(金額)

  3. 通常賃金部分と割増賃金部分が判別できるか(明確区分)

割増賃金を基本給等に含める形で払う場合でも、少なくとも「通常の労働時間の賃金に当たる部分」と「割増賃金に当たる部分」が判別できることが重要、という整理が公的資料でも紹介されています。

そして、**固定分を超えた残業は“追加で払う”**方向で検討されます(「超えても固定だからゼロ」は、設計・運用によっては危険信号になりがちです)。


5 「管理職だから残業代はない」──名ばかり管理職の典型

管理職(課長・店長等)でも、労基法上の「管理監督者」に当たるかは別問題です。労働局資料では、職務内容・責任権限・勤務態様・待遇などの観点で慎重に判断すべきことが整理されています。

そして重要なのはここ:
仮に管理監督者に当たるとしても、深夜割増が当然に消えるわけではありません。
管理監督者の適用除外は主に労働時間・休憩・休日の規定であり(労基法41条)、深夜割増(労基法37条)の話は別に残ります。


6 計算の“入口”だけ押さえる(簡易式)

残業代はざっくり次の形で考えます。

残業代 ≒ 1時間あたり賃金 × 割増率 × 残業時間

ここで揉めやすいのが 「1時間あたり賃金」
割増賃金の基礎に入れない賃金(家族手当・通勤手当など)は、労基法と施行規則に列挙があります。
ただし「住宅手当だから全部除外」みたいに雑に扱うと逆に危険で、実態として“個人的事情に基づく手当”なのかが問われます(規程と支給実態のチェックが必要)。


7 時効(請求できる期間)──“迷ったら早めに”が合理的

賃金(残業代を含む)の消滅時効は、制度として5年へ延長されつつ、当分の間は3年という整理です(2020年4月1日以降に支払期日が到来する賃金が対象)。
対象期間がずれると回収範囲が縮むので、「証拠が揃ってから」より、まず射程を確定させる方が結果的に得です。


8 相談前にそろえると強い資料(現実的な優先順位)

全部そろわなくても動けます。優先順位はこれ。

A:最優先

  • 給与明細(手当内訳が分かるもの)

  • 勤怠資料(タイムカード/シフト/日報/業務チャット/メール/PCログ等)

B:あれば強い

  • 雇用契約書・労働条件通知書

  • 就業規則・賃金規程(固定残業代や管理職手当の位置づけ確認)

労働時間の把握は使用者責任が基本で、適正把握ガイドラインも公表されています。


9 進め方(よくあるルート)

  1. 事実整理(いつ・どれだけ働いたか)

  2. 試算(ざっくりでよい)

  3. 会社への請求(交渉)

  4. 労基署対応・あっせん・訴訟等(事案により)

「会社に言ったら潰されそう」系の事案ほど、先に証拠保全→射程確定の順が安全です。


会社側(経営者・人事労務)のための“地雷チェック”

未払い残業代は、制度設計ミス+勤怠運用ミスが重なると急に大きくなります。特に注意したいのは次です。

  • 勤怠が「自己申告だけ」になっていて、実態との乖離を放置している(適正把握ガイドライン要確認)

  • 36協定はあるが、上限規制・特別条項の運用が雑

  • 固定残業代の「時間・金額・区分」が曖昧で、明細上も判別困難

  • “名ばかり管理職”の温存(権限・裁量・待遇が伴っていない)

  • 月60時間超割増(50%)の適用漏れ(中小企業も対象)

なお、賃金請求権の時効見直しに合わせ、記録保存期間等も延長(経過措置あり)という流れが示されています。


まとめ

残業代は、「残業した/してない」の感情戦ではなく、実態(労働時間)×設計(賃金規程)×証拠の勝負です。
「これ請求できる?」「会社側として危ない?」——いずれも、まずは素材を見て最短で見立てを出します。

(弁護士 舛本 行広)

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