第6講 育児休業中・復職後の不利益取扱い
第6講 育児休業中・復職後の不利益取扱い
――配置転換、降格、評価、賞与、雇止めの注意点

育児休業に関する企業対応で、特に紛争になりやすいのが、不利益取扱いの問題です。育児休業を申し出たこと、取得したこと、復職後に短時間勤務制度や所定外労働の制限を利用したことなどを理由として、会社が労働者に不利益な取扱いをすることは許されません。制度として育児休業を認めていても、その後の配置、評価、賃金、賞与、契約更新などで不利益が生じれば、会社の対応が問題となります。
典型的に問題となるのは、復職後の配置転換です。育児休業から復職した労働者について、休業前と全く同じ業務・同じ部署に戻さなければならないとまではいえません。会社には業務上の必要に応じて配置を決める裁量があります。しかし、育児休業を取得したことを理由に、本人の経験や能力と無関係に責任の軽い仕事へ移す、将来の昇進ルートから外す、本人に説明のないまま不利な勤務地へ異動させる、といった対応は、不利益取扱いとして問題になり得ます。
降格や役職の変更も注意が必要です。育児休業中に組織再編があった、担当業務が変わった、管理職としての勤務時間確保が難しいといった事情がある場合でも、それだけで当然に降格できるわけではありません。会社としては、業務上の必要性、本人の能力・経験、代替措置の有無、本人への説明内容、処遇への影響を慎重に検討する必要があります。「育休明けだから管理職は難しいだろう」という安易な判断は危険です。
人事評価についても、休業期間をどのように扱うかをあらかじめ整理しておく必要があります。休業により実際に勤務していない期間について、勤務実績がないことを前提に一定の取扱いをすること自体が直ちに違法となるわけではありません。しかし、育児休業を取得したこと自体をマイナス評価する、復職後の短時間勤務を理由に能力や意欲が低いと評価する、休業前の実績を無視して低評価を付けるといった対応は問題です。評価基準が曖昧な会社ほど、後から説明に苦しむことになります。
賞与や退職金についても同様です。賞与の算定において、実勤務日数や出勤率を考慮する制度設計がある場合でも、その内容が就業規則や賃金規程に明確に定められているか、育児休業取得者に過度に不利な結果となっていないかを確認する必要があります。育児休業取得者だけを狙い撃ちするような減額や、制度上の根拠がない不支給は、紛争の原因になります。
有期雇用労働者の場合には、雇止めとの関係が特に問題になります。育児休業の申出をした直後に契約を更新しない、復職予定時期の前に雇止めをする、育児休業取得を理由に次回の契約条件を不利に変更するといった対応は、不利益取扱いとして疑われやすい場面です。会社としては、育児休業申出前からの更新基準、勤務評価、業務量、契約期間満了の事情などを客観的に説明できるようにしておく必要があります。
また、不利益取扱いは、明示的な処分だけに限られません。復職後に仕事を与えない、重要な会議から外す、顧客を引き継がせない、研修機会を与えない、周囲に「育休を取ったから仕方ない」と説明する、といった対応も、実質的には不利益と評価される可能性があります。本人の希望や家庭事情に配慮するつもりであっても、会社が一方的に職務を制限すると、かえって問題になります。
企業側として重要なのは、「育児休業を理由とした不利益」と「業務上必要な人事措置」とを区別できるようにしておくことです。そのためには、配置転換や評価、賞与、雇止めについて、事前から一貫した基準を持ち、決定過程を記録し、本人に合理的に説明できる状態にしておく必要があります。育児休業取得者についてだけ特別に不利な扱いをしたように見えると、会社側の説明は難しくなります。
育児休業中・復職後の対応は、会社の労務管理の質が表れやすい場面です。制度を認めるだけではなく、復職後も公平で納得感のある処遇を行うことが、紛争予防と人材定着につながります。企業としては、育児介護休業規程、賃金規程、人事評価制度、賞与規程、契約更新基準を点検し、育児休業取得者への対応が法令上・実務上問題ないものとなっているか確認しておくことが重要です。