第11講 3歳から小学校就学前までの柔軟な働き方措置

第11講 3歳から小学校就学前までの柔軟な働き方措置

――始業時刻変更、テレワーク、休暇、短時間勤務等の選択制

育児・介護休業法の近時の改正で、企業実務上、特に重要になるのが、3歳から小学校就学前までの子を養育する労働者に対する柔軟な働き方措置です。従来、育児との両立支援は、育児休業や3歳未満の子を養育する労働者に対する短時間勤務制度が中心でした。しかし、実際には、子が3歳になった後も、保育園・幼稚園の送迎、行事、急な体調不良、小学校入学前の生活リズムなど、働き方に制約が生じる場面は少なくありません。そこで、育児期の働き方をより柔軟にするため、会社側に具体的な措置の整備が求められています。

この制度のポイントは、会社が複数の措置の中から一定数を選択して整備し、その中から労働者が利用できる仕組みを作る点にあります。想定される措置としては、始業時刻等の変更、テレワーク、保育施設の設置運営その他これに準ずる便宜供与、養育両立支援休暇、短時間勤務制度などがあります。つまり、会社は、育児中の労働者に対して「一律にこれだけ」と決めるのではなく、自社の業務内容や人員体制に応じて、複数の選択肢を用意する必要があります。

実務上まず検討すべきなのは、自社にとってどの措置が現実的かという点です。事務職や管理部門であれば、テレワークや時差出勤が比較的導入しやすい場合があります。他方、店舗、現場作業、医療・介護、製造、物流など、場所や時間帯に制約がある業務では、テレワークを一律に導入することは難しいこともあります。その場合でも、始業・終業時刻の調整、シフト上の配慮、休暇制度の整備など、別の措置を検討する必要があります。「うちの業種では無理です」で終わらせるのではなく、業務を分解し、どの範囲で柔軟化できるかを考えることが重要です。

始業時刻等の変更は、比較的導入しやすい措置の一つです。たとえば、保育園の送迎に合わせて出勤時刻を遅らせる、終業時刻を早める、フレックスタイム制と組み合わせる、といった設計が考えられます。ただし、顧客対応、朝礼、会議、シフト交代などとの調整が必要になるため、対象部署、申出期限、利用期間、勤務時間帯のパターンをあらかじめ定めておくべきです。

テレワークを措置として選択する場合には、第10講で述べたように、労働時間管理、情報管理、費用負担、評価方法を整備する必要があります。育児中の労働者に限って特例的に在宅勤務を認める場合でも、通常の在宅勤務規程との整合性を確認しなければなりません。特に、在宅勤務中の中抜け、子の急病対応、業務連絡の時間帯、成果物の確認方法などを曖昧にしたまま導入すると、後にトラブルになりやすいです。

養育両立支援休暇を設ける場合には、既存の年次有給休暇や子の看護等休暇との関係を整理しておく必要があります。どのような目的で利用できるのか、有給か無給か、時間単位で取得できるのか、取得日数の上限をどうするのかを明確にしておかなければ、現場で運用が混乱します。休暇制度は従業員にとって分かりやすい一方、制度が増えすぎると人事担当者や管理職が処理を誤ることもあるため、説明資料や申請書式の整備が重要です。

短時間勤務制度を3歳以降にも拡張する場合には、3歳未満の短時間勤務制度との違いを整理する必要があります。法律上当然に求められる範囲と、会社が選択措置として整備する範囲を区別し、対象者、期間、勤務時間、賃金控除、評価への影響を規程上明確にします。短時間勤務を認める場合には、周囲への業務負担が偏らないよう、業務分担や会議時間の見直しも必要になります。

この柔軟な働き方措置で特に重要なのは、労働者への個別周知と意向確認です。制度を作っただけでは不十分であり、子が3歳になる前の適切な時期に、会社が制度内容を説明し、労働者の意向を確認することが求められます。ここで、上司が「できれば利用しないでほしい」「忙しい部署だから難しい」といった圧力をかけると、制度利用を妨げる言動として問題になり得ます。意向確認は、取得を思いとどまらせるためではなく、両立に向けた勤務条件を整理するために行うものです。

また、制度利用者に対する不利益取扱いにも注意が必要です。柔軟な働き方措置を利用したことを理由に、重要業務から外す、昇進対象から除外する、評価を下げる、契約更新を不利に扱うといった対応は問題となり得ます。会社としては、勤務時間や勤務場所に制約があることと、能力・成果・意欲を区別し、公平な評価方法を設計する必要があります。

柔軟な働き方措置は、単なる「子育て支援」ではなく、人材確保と離職防止のための労務管理上の制度です。特に中小企業では、一人の従業員の離職が業務運営に大きな影響を与えることがあります。育児期の制約を理由に退職されるよりも、働き方を調整しながら就労を継続してもらう方が、企業にとっても合理的な場合が少なくありません。

企業としては、令和7年改正対応を機に、自社で選択する柔軟な働き方措置を検討し、育児介護休業規程、在宅勤務規程、勤怠管理、賃金規程、人事評価制度、申出書式を一体として見直す必要があります。制度を形式的に置くだけでなく、現場で説明でき、実際に運用できる形に整えることが、これからの企業労務に求められます。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

CAPTCHA