第8講 所定外労働の制限と残業免除
第8講 所定外労働の制限と残業免除
――小学校就学前の子を養育する労働者への対応

育児・介護休業法では、育児中の労働者が仕事と家庭生活を両立できるようにするため、育児休業や子の看護等休暇だけでなく、労働時間に関する制限も定められています。その代表的な制度が、所定外労働の制限、いわゆる残業免除です。小学校就学前の子を養育する労働者が請求した場合、会社は、原則として所定労働時間を超えて働かせることができません。
ここでいう所定外労働とは、会社が就業規則や雇用契約で定めた所定労働時間を超える労働をいいます。たとえば、所定労働時間が午前9時から午後6時までとされている会社で、午後6時以降に働くことを求める場合がこれに当たります。育児中の労働者にとって、保育園の迎え、子どもの食事、入浴、寝かしつけなどは、時間的な制約が非常に大きいものです。そのため、法律は、一定の子を養育する労働者について、残業を免除する仕組みを設けています。
実務上重要なのは、この制度が「会社の配慮」ではなく、労働者から請求があった場合に会社が対応すべき法律上の制度であるという点です。会社が「繁忙期だから」「人手が足りないから」「この部署では残業できないと困る」と考えても、それだけで請求を拒むことはできません。業務運営上の負担がある場合でも、まずは制度の対象となるかを確認し、そのうえで業務分担や人員配置を見直す必要があります。
所定外労働の制限については、申出の方法や期間管理も重要です。労働者から請求があった場合、会社は、対象となる子の年齢、請求期間、勤務形態、他の制度利用の有無などを確認します。申出内容を口頭だけで処理すると、後日、「いつから残業免除になったのか」「どの期間について請求したのか」「会社がどのように説明したのか」が曖昧になるおそれがあります。申出書や確認書を用意し、記録を残す運用が望ましいです。
また、所定外労働の制限と、時間外労働・深夜業の制限を混同しないことも大切です。所定外労働の制限は、会社の所定労働時間を超える労働を免除する制度です。他方で、時間外労働の制限は、法定労働時間を超える時間外労働について一定の上限を設ける制度であり、深夜業の制限は、深夜時間帯の就労を制限する制度です。名称が似ているため、社内規程や説明資料では、それぞれの対象者、請求期間、効果を整理しておく必要があります。
現場で問題になりやすいのは、残業免除を利用する労働者に対する周囲の反応です。「あの人だけ早く帰る」「残った仕事を他の人が引き受けている」「子どもがいる人ばかり優遇される」といった不満が生じることがあります。しかし、その不満を取得者本人に向けさせてしまうと、職場環境の悪化やハラスメントの問題につながります。会社としては、制度利用者を責めるのではなく、業務配分、繁忙期対応、代替要員、管理職の調整責任を明確にする必要があります。
さらに、残業免除を請求したことを理由に、不利益な取扱いをすることは許されません。たとえば、重要な業務から外す、昇進対象から除外する、評価を下げる、賞与を不利に扱う、契約更新で不利益に扱うといった対応は、育児を理由とする制度利用への不利益取扱いとして問題となり得ます。勤務時間に制約があることと、能力や意欲が低いことは別問題です。会社は、労働時間の制約を前提に、公平な評価方法を検討する必要があります。
一方で、制度利用者側にも、業務上必要な引継ぎや情報共有を行うことは求められます。残業免除を利用するからといって、日中の業務遂行や報告連絡相談が不要になるわけではありません。会社としては、本人と面談し、担当業務の範囲、退勤時刻までに処理すべき業務、引継ぎ方法、緊急時の連絡ルールなどを整理しておくと、現場の混乱を抑えやすくなります。
所定外労働の制限は、育児中の労働者を保護する制度であると同時に、会社にとっては業務の属人化や長時間労働体質を見直す契機にもなります。特定の人が残業しなければ回らない業務体制は、育児中の労働者に限らず、病気、介護、退職などが生じた場合にも大きなリスクになります。
企業としては、育児介護休業規程、労働時間管理、36協定、勤怠システム、人事評価制度を点検し、所定外労働の制限に対応できる運用を整えることが重要です。制度利用者を例外扱いするのではなく、限られた時間で業務を回す仕組みを整えることが、これからの労務管理に求められます。