第12講 個別の意向聴取・配慮義務

第12講 個別の意向聴取・配慮義務

――妊娠・出産申出時、子が3歳になる前の会社対応

育児・介護休業法の実務では、制度そのものを整備するだけでなく、従業員に対して適切なタイミングで制度を説明し、本人の意向を確認することが重要です。特に、妊娠・出産等の申出があったときや、子が3歳になる前の時期には、会社側に個別周知・意向確認が求められます。これは、単にパンフレットを渡すだけの形式的対応ではなく、従業員が制度を理解し、自分に合った働き方を検討できるようにするための実務対応です。

妊娠・出産等の申出があった場合、会社は、育児休業制度、産後パパ育休、休業中の給付や社会保険料の取扱い、申出先、申出期限などについて、個別に説明する必要があります。ここで重要なのは、会社が「制度はあります」と一般的に伝えるだけでは足りないという点です。本人がどの制度をいつ利用できるのか、どのような手続が必要なのか、復職後に利用できる制度は何かを、分かりやすく案内する必要があります。

また、個別周知・意向確認は、育児休業を取得させないための面談であってはなりません。たとえば、「今は繁忙期だから育休は難しい」「取得すると周囲に迷惑がかかる」「復職後のポジションはどうなるか分からない」などの発言は、取得を抑制する言動として問題になり得ます。会社が確認すべきなのは、本人が制度利用を希望するかどうか、希望する場合にはいつからいつまで取得したいのか、復職後にどのような働き方を希望するのかといった事項です。会社側の都合を伝える場合でも、制度利用を諦めさせる方向ではなく、業務調整のための情報共有として行う必要があります。

子が3歳になる前の時期にも、会社は、柔軟な働き方措置に関する個別周知・意向確認を行う必要があります。第11講で述べたように、3歳から小学校就学前までの子を養育する労働者については、始業時刻等の変更、テレワーク、養育両立支援休暇、短時間勤務制度など、複数の措置の中から会社が選択して制度を整備することになります。制度を整備しただけではなく、対象となる従業員に対し、利用可能な措置を説明し、本人の希望を確認することが求められます。

この意向確認では、本人の家庭状況や育児負担に踏み込みすぎない配慮も必要です。会社としては、勤務時間、勤務場所、休暇取得の希望など、業務調整に必要な範囲で確認すれば足ります。配偶者の勤務先、祖父母の協力状況、家庭内の役割分担などを過度に問いただすと、プライバシーへの配慮を欠く対応となるおそれがあります。必要な情報を確認しつつ、私生活への過剰な介入にならないよう、面談項目を整理しておくことが望ましいです。

実務上は、個別周知・意向確認の記録化が重要です。いつ、誰が、どの制度を説明し、本人がどのような意向を示したのかを記録しておかなければ、後日、「説明を受けていない」「制度を知らなかった」「希望を伝えたのに対応されなかった」といった紛争が生じる可能性があります。会社としては、説明資料、面談シート、確認書、メール記録などを用いて、対応履歴を残しておくべきです。

もっとも、記録を残すことが目的化してはいけません。重要なのは、従業員の意向を踏まえ、実際にどのような働き方が可能かを検討することです。本人が短時間勤務を希望するのか、始業時刻の変更を希望するのか、テレワークを希望するのか、休暇制度を組み合わせたいのかによって、必要な業務調整は異なります。会社としては、本人の希望を確認したうえで、業務上の必要性、職場体制、他の従業員への影響を踏まえ、現実的な運用方法を検討する必要があります。

また、意向確認後の対応にも注意が必要です。本人が制度利用を希望した場合に、上司が不満を述べたり、周囲に不用意な説明をしたりすると、ハラスメントや不利益取扱いの問題に発展することがあります。制度利用の有無や家庭事情は、本人のプライバシーに関わる情報でもあります。職場に共有する場合には、業務上必要な範囲にとどめ、本人の意向にも配慮する必要があります。

個別の意向聴取・配慮義務は、企業にとって手間のかかる対応に見えるかもしれません。しかし、早い段階で本人の希望を把握しておけば、代替要員の確保、業務分担、勤務時間の調整、復職後の配置などを計画的に進めることができます。逆に、本人の意向を確認しないまま場当たり的に対応すると、直前になって業務が混乱し、本人にも職場にも大きな負担が生じます。

育児期の従業員対応では、「本人から言われたら考える」という受け身の姿勢では不十分です。会社側から適切な時期に制度を説明し、本人の意向を確認し、必要な配慮を検討することが、法令対応であると同時に、実務上のリスク管理にもなります。

企業としては、妊娠・出産申出時の説明資料、育児休業取得前面談シート、復職前面談シート、子が3歳になる前の意向確認書、管理職向け対応マニュアルを整備しておくことが重要です。個別周知・意向確認を形式的な手続で終わらせず、従業員の離職防止と職場の安定につながる実務対応として位置づけることが、これからの企業労務に求められます。

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