第13講 育児休業取得状況の公表義務
第13講 育児休業取得状況の公表義務
――300人超企業への拡大と中小企業への波及

育児・介護休業法の近時の改正では、育児休業を「制度として設ける」だけでなく、実際に取得されているかを社会に見える形にする方向が強まっています。その一つが、育児休業取得状況の公表義務です。従来から一定規模以上の企業には、男性の育児休業等取得状況の公表が求められていましたが、改正により、公表義務の対象となる企業規模が拡大されています。企業にとっては、単なる社内制度の問題にとどまらず、採用、企業イメージ、人材定着にも関わるテーマになっています。
公表義務の趣旨は、育児休業制度を形式的な制度で終わらせず、実際に利用される職場環境を作ることにあります。特に男性育休については、法律上取得可能であっても、職場の雰囲気、上司の理解、業務代替体制、評価への不安などにより、実際には取得しにくいという問題が指摘されてきました。取得状況を公表させることで、企業に制度運用の実態を意識させ、取得しやすい職場づくりを促す狙いがあります。
実務上、会社がまず確認すべきなのは、自社が公表義務の対象となるかどうかです。常時雇用する労働者数が一定規模を超える企業については、男性労働者の育児休業等取得割合や、育児休業等と育児目的休暇の取得割合など、法律上定められた項目のいずれかを公表する必要があります。改正により、対象企業の範囲が広がっているため、これまで公表義務がなかった企業でも、新たに対応が必要になる場合があります。
公表にあたっては、単に数字を出せばよいというものではありません。算定対象となる期間、対象労働者、育児休業等に含まれる制度、育児目的休暇の範囲などを正確に整理する必要があります。人事担当者が感覚的に「昨年は何人くらい取った」という形で処理すると、誤った数値を公表してしまうおそれがあります。会社としては、出産・配偶者出産の把握、育児休業申出、産後パパ育休、育児目的休暇、復職情報などを一元的に管理できる体制を整えておくべきです。
また、公表方法についても検討が必要です。一般に、会社のホームページや厚生労働省の関連サイトなど、求職者や社会一般が閲覧できる方法で公表することが想定されます。採用活動においては、育児休業取得状況が求職者から見られる情報になります。数値が低い場合であっても、単に隠すことはできません。むしろ、今後の改善方針、管理職研修、業務代替体制の整備、取得促進の取組みなどとあわせて説明できるようにしておくことが重要です。
公表義務の対象企業でない中小企業にとっても、この流れは無関係ではありません。法律上の公表義務がないとしても、採用市場では、育児休業を取得しやすい職場かどうかが重視される傾向にあります。特に若い世代の採用では、給与や勤務地だけでなく、子育てとの両立、男性育休、柔軟な働き方、復職後の勤務体制が関心事項になります。中小企業でも、制度の有無や取得実績を説明できない場合、採用面で不利になることがあります。
一方で、取得率を上げることだけを目的にすると、実務上の歪みが生じることもあります。たとえば、短期間だけ形式的に取得させる、本人の希望よりも会社の都合で取得時期を調整する、取得者の業務を周囲に過度に負担させる、といった運用では、職場内の不満やトラブルにつながります。公表される数字は重要ですが、それ以上に、実際に無理なく取得できる体制を作ることが必要です。
男性育休の取得促進では、管理職の理解が特に重要です。制度上は取得可能でも、直属上司が「今は困る」「男性で育休を取るのか」「評価に影響するかもしれない」といった反応を示せば、従業員は取得をためらいます。会社としては、育児休業の申出を受けた際の対応、業務引継ぎ、周囲への説明、不利益取扱いの禁止、ハラスメント防止について、管理職向けに周知しておく必要があります。
また、取得状況を適切に把握するためには、社内制度の整備だけでなく、記録管理が欠かせません。誰が、いつ、どの制度を利用したのか、通常の育児休業なのか産後パパ育休なのか、育児目的休暇なのかを区別して管理する必要があります。制度名が社内独自の名称になっている場合には、法律上の公表項目との対応関係を確認しておくことも大切です。
育児休業取得状況の公表義務は、企業にとって負担に見えるかもしれません。しかし、見方を変えれば、自社の両立支援体制を点検し、採用・定着に活かす機会でもあります。制度が整っており、実際に取得され、復職後も働き続けられる職場であることは、企業価値の一部になりつつあります。
企業としては、まず自社が公表義務の対象かを確認し、対象となる場合には、算定方法、公表項目、公表時期、公表方法を整理する必要があります。あわせて、育児休業申出フロー、産後パパ育休の運用、育児目的休暇の位置づけ、管理職研修、取得実績の記録管理を見直しておくことが重要です。公表義務への対応を単なる法令遵守で終わらせず、男性育休を含む両立支援の実効性を高める機会として活用することが、これからの企業労務に求められます。