第4講  書面交付義務の基本|発注時に何を明示しなければならないのか

第4講
書面交付義務の基本|発注時に何を明示しなければならないのか

取適法で発注側が最初に押さえなければならないのは、発注内容等の明示義務です。中小企業庁は、委託事業者の義務として、委託後、直ちに、給付の内容、代金の額、支払期日及び支払方法等の事項を、書面又は電磁的方法により明示する義務があると整理しています。つまり、口頭発注だけで走り出し、条件は後で詰めるという運用は、この法律との相性がかなり悪いということです。

ここで重要なのは、「契約書をそのうち作るから大丈夫」という発想が通らないことです。公正取引委員会のQ&Aでは、「直ちに」とは「すぐに」という意味であり、発注から契約締結までに日数を要するのであれば、契約書とは別に、発注後直ちに4条明示をしなければならないと明示されています。電話で先に注文する場合でも、緊急やむを得ない事情があったとして、電話連絡後直ちに明示しなければならず、電話のみによる発注は明示義務違反になるとされています。実務上は、発注メール、注文書、発注システム上の通知などで、条件を即時に残す設計が必要です。

では、何を明示しなければならないのか。公取委・中小企業庁の資料では、中心になるのは、給付の内容、代金の額、支払期日、支払方法です。これに加えて、実際の運用資料では、当事者の名称、委託日、納期、納入場所、検査完了期日など、取引内容を特定し、後の紛争を防ぐために必要な事項を記載する前提で整理されています。要するに、「何を」「いくらで」「いつまでに」「どう払うか」が曖昧な発注は許されず、後で確認可能な形にしておく必要があります。

明示方法は紙に限られません。中小企業庁や公取委の資料では、書面又は電磁的方法による明示が認められており、電子メールなども使えます。したがって、現在の企業実務では、紙の注文書を必ず交付しなければならないというより、記録が残り、相手が確認できる方法で、必要事項を発注時に示すことが本質です。ただし、単なるチャットの断片や曖昧な口頭補足では、必要事項がまとまっておらず、後で「何が発注条件だったのか」が特定できない危険があります。

また、実務では発注時点で全事項が完全に確定しないこともあります。この点について、公取委のテキストは、一定の場合に補充の明示を認めていますが、その場合でも、当初の明示との関連性を確認できるようにする必要があると説明しています。たとえば、同じ注文番号を用いるなど、後から見て「これはあの発注条件の補充だ」と分かるようにしておかなければなりません。つまり、曖昧なままスタートして後で適当に追記するのではなく、当初明示と補充明示のつながりが追える管理が必要になります。

企業実務に引きつけると、この論点は法務部門だけの話ではありません。営業、購買、現場担当者が、まず発注してから条件整理を後回しにする運用をしている会社では、知らないうちにリスクが蓄積します。特に、システム開発、デザイン、運送、保守、継続的な役務提供のように、成果物や作業内容が変動しやすい取引では、発注単位ごとに何が委託されたのかを可視化することが重要です。契約書があるだけでは足りず、個別発注の中身と代金条件が相手に明示されているかを点検する必要があります。これは、違反回避のためだけでなく、後の品質紛争や請求紛争を減らす意味でも有益です。

結局のところ、第4講の核心は明快です。発注は、条件を固めてから、直ちに、記録の残る方法で行う。 これが取適法の出発点です。価格、支払期日、支払方法を後回しにした発注、電話だけの発注、契約書作成待ちの発注は、今後ますます危うくなります。取適法対応とは、法令順守のための形式論ではなく、発注実務そのものを「見える化」する作業だと理解した方がよいでしょう。

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