第2講 誰が守られ、誰が守る側なのか|委託事業者と中小受託事業者の範囲
第2講
誰が守られ、誰が守る側なのか|委託事業者と中小受託事業者の範囲

取適法を理解するうえで、最初の関門になるのが「この法律は誰に適用されるのか」という点です。旧来の感覚で「うちは下請を出していないから関係ない」「うちは中小企業だから守られる側に決まっている」と考えるのは危険です。取適法は、単に会社の大小をざっくり見る法律ではなく、取引の内容と、当事者の資本金又は従業員数という二つの軸を組み合わせて、委託事業者と中小受託事業者を定めています。
まず、守る側である委託事業者とは、対象となる委託取引を発注する事業者です。守られる側である中小受託事業者とは、その委託を受ける事業者です。ただし、この区分は抽象的な「親」「下請」という呼び方では決まらず、製造委託・修理委託・情報成果物作成委託・役務提供委託・特定運送委託などの類型ごとに、一定の規模基準に当てはまるかどうかで判断されます。つまり、同じ会社でも、ある取引では委託事業者になり、別の取引では中小受託事業者側に立つことがあります。
基準の骨格は次のとおりです。製造委託、修理委託、特定運送委託、そしてプログラム作成・運送・倉庫保管・情報処理に関する情報成果物作成委託や役務提供委託では、委託事業者が資本金3億円超、又は資本金1,000万円超3億円以下で相手方が資本金1,000万円以下である場合などが典型的な適用場面です。また、これらの類型では、資本金基準が使えない場合に従業員基準が用いられ、委託事業者が300人超、相手方が300人以下などの大小関係でも適用対象になります。
これに対し、プログラム以外の情報成果物作成委託、運送・倉庫保管・情報処理以外の役務提供委託では、やや小さい基準が使われます。こちらは、委託事業者が資本金5,000万円超、又は資本金1,000万円超5,000万円以下で、相手方が資本金1,000万円以下である場合などが対象になり、従業員基準では委託事業者が100人超、相手方が100人以下といった線引きが用いられます。業種や役務内容によって基準が違うため、「役務委託だから全部同じ」と理解してしまうと、ここで誤ります。
実務上とくに重要なのは、従業員基準は資本金基準が適用されない場合に使うという点です。公取委のテキストでも、資本金基準と従業員基準の両方があり得る場合には、原則として資本金基準が優先し、資本金基準が使えない場合に従業員基準を用いると整理されています。したがって、「うちは従業員が少ないから大丈夫」「相手は資本金が小さいが人数は多いから対象外だろう」といった直感ではなく、まず資本金基準を見て、そのうえで必要に応じて従業員基準を確認する、という順番で点検するのが安全です。
さらに、規模要件は会社全体について一度決まれば終わりではなく、委託取引ごとに判断するとされています。公取委の資料では、相互に委託し合う二つの事業者について、ある場面では一方が委託事業者、別の場面では逆に中小受託事業者となることもあり得ると説明されています。これは、現代の企業間取引が単純な一方向の下請構造だけではないことを前提にした整理です。中小企業同士の取引であっても、役務の種類や規模基準の当てはまり方によっては、片方が規制を受ける側になることがあります。
ここから見えてくるのは、取適法が「大企業が中小企業をいじめる場合だけの法律」ではなく、委託取引の中で一定の規模差・交渉力差がある場面を具体的に切り出して規律する法律だということです。発注側にとっては、自社が委託事業者に当たるかを確認しないまま発注書式や支払サイトを運用すると、知らないうちに違反を積み重ねるおそれがあります。他方、受注側にとっても、自社が中小受託事業者に当たるなら、「価格は相手の言い値に従うしかない」「支払を遅らされても仕方ない」と諦める必要はありません。まず適用関係を冷静に確認することが、取適法対応の出発点です。