第6講 減額・買いたたきはどこで線を越えるのか|価格交渉の限界
第6講
減額・買いたたきはどこで線を越えるのか|価格交渉の限界

取適法において、価格に関する違反は大きく三つに分けて理解すると分かりやすいです。第一に、発注後に代金を下げる「減額」。第二に、発注時点で通常より著しく低い価格を押し付ける「買いたたき」。第三に、今回の改正で明確化された、価格協議に応じず、必要な説明もしないまま一方的に価格を決める行為です。これらは似ているようで、違反になる場面が少しずつ違います。
まず減額とは、発注時にいったん決めた代金を、中小受託事業者に責任がないのに、発注後に減らすことです。公取委は、名目や方法を問いませんと説明しており、協賛金、リベート、販促協力金、歩引き、振込手数料名目などで差し引いても、実質的に代金を減らしていれば問題になります。つまり、「値引き」ではなく「手数料控除だから大丈夫」という理屈は通りにくいということです。
もっとも、減額が常に絶対禁止というわけではありません。公式資料では、中小受託事業者に責任がある場合、たとえば委託内容に適合しない、納期遅れにより商品価値が下がったなどの事情が明らかなときに、客観的に相当な額の範囲で減ずることはあり得るとされています。ここで重要なのは、「発注側が不満だから一部払わない」では足りず、責任の根拠と減額額の相当性が必要だという点です。
次に買いたたきです。これは、発注の時点で、同種又は類似の給付に通常支払われる対価に比べて著しく低い額を不当に定めることをいいます。減額が「いったん決めた後で下げる」のに対し、買いたたきは「最初から安すぎる価格を押し付ける」場面です。公取委のテキストでも、両者は明確に区別されています。
では、どこからが「通常より著しく低い」のか。ここは単純に市場価格だけで決まるわけではなく、当該給付と同種・類似の給付について、その取引地域で一般に支払われる対価や、従前価格、コストの変動、取引条件の違いなどを踏まえて判断されます。したがって、発注側が「他社もこのくらいだと思う」と感覚的に決めるのは危険です。特に、原材料費、人件費、エネルギー費などが上がっている局面で、事情を見ない一律単価引下げや、据置きの押し付けは問題化しやすくなります。
今回の改正で特に重要なのは、価格協議に応じない一方的な価格決定が、買いたたきとは別に禁止行為として明確化されたことです。公取委や中小企業庁の資料では、中小受託事業者から価格協議の求めがあったにもかかわらず、委託事業者が協議に応じなかったり、必要な説明をしなかったりして、一方的に価格を決めて相手の利益を不当に害する行為が禁止されるとされています。これは、「市価」の認定が難しい場面でも、交渉そのものを拒む態度にメスを入れる改正です。
実務で危ないのは、たとえば「毎年一律3%コストダウン」「原材料が下がったはずだから今期から単価変更」「うちはこの価格でしか発注しない。説明はしない」といった運用です。業界の自主行動計画でも、一律一定率の単価引下げ、合理性のない定期的な原価低減要請、代金を据え置くことによる買いたたきなどが、違反行為事例として意識されています。つまり、価格改定のお願い自体が直ちに違法なのではなく、合理的な根拠も協議もなく押し切ることが危ないわけです。
受注側から見ると、「発注後に協賛金名目で引かれた」「値上げ交渉を申し入れても無視された」「コスト上昇を説明したのに、従前価格のまま据え置かれた」といった場面では、減額、買いたたき、一方的価格決定のどれが問題になるのかを切り分けることが大切です。発注側から見ると、価格改定の協議記録、見積根拠、コスト変動への対応経緯を残しておかないと、「適正な交渉をした」と後で説明しにくくなります。
要するに、第6講の結論はこうです。値下げ交渉はできるが、押し付けはできない。発注後の差引きはもっと危ない。協議を無視した据置きも安全ではない。 取適法は、単に「安く買ってはいけない」という法律ではなく、対等な価格交渉の土台を壊す行為を禁じる法律として読むのが実務的です。