第5講 支払遅延はどこから違反になるのか|代金支払の実務ルール
第5講
支払遅延はどこから違反になるのか|代金支払の実務ルール

取適法における支払規律の核心は、委託事業者が、受領日から起算して60日以内のできる限り短い期間内で支払期日を定め、その期日までに支払うという点にあります。公正取引委員会と中小企業庁の資料は、検査をするかどうかを問わず、この60日ルールが適用されることを明示しています。つまり、「検収が終わっていないからまだ支払期日は始まらない」という理解は、原則として通りません。
ここでいう起算点は、あくまで物品や役務を実際に受領した日です。そして、当事者間で支払期日を定めなかった場合には受領日そのものが支払期日となり、逆に合意で60日を超える期日を定めたとしても、その合意はそのまま通らず、受領日から60日を経過した日の前日までが適法な支払期日の上限になります。要するに、契約書で長い支払サイトを決めていても、取適法に反するならそのままでは維持できないということです。
実務でよくある誤解が、「請求書がまだ来ていないから払えない」という説明です。しかし中小企業庁の改正説明資料は、「中小受託事業者からの請求書の提出が遅かったから」というのは、支払遅延を正当化する理由にはならないと明記しています。発注側の経理処理や請求書回収の都合は、取適法上の支払義務を後ろにずらす理由にはなりません。発注側は、請求書待ちの運用に依存するのではなく、受領日ベースで支払管理が回るように社内フローを設計する必要があります。
また、支払遅延が生じた場合には、委託事業者は本代金を払えば足りるのではなく、年率14.6%の遅延利息を支払う義務を負います。公取委の説明会資料でも、61日目以降に支払う場合には遅延利息が発生すると整理され、しかも**「遅延利息を支払えば代金の支払を遅らせてよいというものではない」**と注意喚起されています。遅延利息は違反の免罪符ではなく、違反が生じた後に追加で発生する負担にすぎません。
今回の改正では、この遅延利息の対象が減額にも広がった点も重要です。改正法の概要資料やガイドブックでは、代金の額を減じた場合にも、起算日から60日を経過した日以降について遅延利息の対象になると整理されています。従来の感覚で「一部だけ控除して払えばよい」と考えるのは危険で、減額の適法性それ自体に加えて、利息負担の問題も生じ得ます。
さらに、支払手段の見直しも無視できません。2026年1月施行の改正では、取適法対象取引において手形による支払が禁止され、電子記録債権やファクタリングについても、支払期日までに代金に相当する金銭の満額を得ることが困難なものは認めない方向が示されています。したがって、「60日以内に手形を渡したから大丈夫」という旧来の発想は、改正後はそのままでは通用しません。
もっとも、金融機関の休業日との関係では一定の実務配慮があります。中小企業庁の資料によれば、支払日が金融機関の休業日と重なる場合、事前に中小受託事業者と合意し、書面化していれば、2日間までの順延が認められるとされています。これは例外的な調整であって、漫然と月末締め翌々月末払いを維持できるという意味ではありません。あくまで適法な支払期日設定を前提にした限定的な実務調整です。
企業実務の観点からみると、第5講のポイントは明快です。支払管理の基準日は「請求書到着日」ではなく「受領日」である。 これを誤ると、営業現場は納品済みと思っていても、経理では請求書待ちのまま止まり、知らないうちに60日を超える危険があります。システム開発、運送、保守、継続的役務のように受領時点が曖昧になりやすい取引ほど、受領確認のルールと支払起算日の管理を先に固めておく必要があります。