第3段階 会社価値と不公正性の把握

第3段階 会社価値と不公正性の把握

――「いくらで出るか」を決めるための材料を整理する

少数株主権の出口戦略において、第2段階で会社資料を取得・確認した後に行うべきことは、会社の価値と、経営の不公正性を把握することです。

ここでいう会社価値とは、単に決算書上の純資産だけを意味するものではありません。
会社がどの程度の資産を持っているのか、毎年どの程度の利益を生んでいるのか、将来も事業を継続できるのか、不動産や有価証券に含み益があるのか、役員報酬や関連会社取引によって利益が外に流れていないか、そうした事情を総合して、少数株主の株式にどの程度の経済的価値があるのかを検討します。

非上場会社の少数株式は、市場で自由に売却できません。
そのため、会社側はしばしば、
「少数株だから価値は低い」
「配当もしていないから高く買う理由はない」
「買い手がいない株だから、額面程度で十分だ」
と主張してきます。

しかし、少数株主側から見れば、それだけで終わる話ではありません。

会社に十分な純資産がある。
毎年安定して利益が出ている。
にもかかわらず、長年配当がない。
その一方で、支配株主一族が高額な役員報酬を受け取っている。
親族会社への業務委託費、賃料、貸付金などの形で利益が移転している。
会社所有不動産を関係者が低廉に利用している。
少数株主には資料も説明も与えられていない。

このような事情があれば、単に「少数株だから安い」とは言い切れません。
むしろ、少数株主を配当から排除しながら、支配株主側だけが会社利益を享受している構造が見えてきます。

第3段階では、まず、会社の財務状況を整理します。

貸借対照表から、現預金、不動産、有価証券、売掛金、貸付金、借入金、未払金、純資産を確認します。
損益計算書から、売上、営業利益、経常利益、役員報酬、外注費、地代家賃、交際費、支払手数料などを確認します。
株主資本等変動計算書から、利益剰余金の蓄積、配当の有無、自己株式の取得状況などを確認します。

特に非上場会社では、会社不動産の含み益が重要になることがあります。
帳簿上は古い取得価額のままでも、実際には土地建物に大きな価値がある場合があります。
また、会社が事業会社でありながら、実質的には不動産保有会社のようになっていることもあります。

この場合、単純に直近の利益だけで株式価値を低く見るのではなく、純資産、含み益、収益力を踏まえた評価が必要になります。

次に、利益の流れを確認します。

少数株主側にとって重要なのは、会社が儲かっているかどうかだけではありません。
その利益が、誰に、どのような形で流れているかです。

たとえば、支配株主一族が取締役として複数名在籍し、会社規模に比して高額な役員報酬を受け取っている場合があります。
また、実質的には支配株主側の関連会社に対して、業務委託費、外注費、賃料、リース料、管理料などの名目で資金が流れていることもあります。
さらに、社長個人や親族に対する貸付金、仮払金、立替金が残っている場合もあります。

これらが直ちに違法になるわけではありません。
しかし、少数株主への配当がない一方で、支配株主側にだけ経済的利益が集中している場合には、買取交渉上、極めて重要な材料になります。

ここでの発想は、
「会社には利益がない」ではなく、
「利益はあるが、配当以外の形で支配株主側に吸収されているのではないか」

という視点です。

この視点が入ると、交渉の言い方が変わります。

単に、
「高く買ってください」
ではなく、
「会社には一定の純資産と収益力がある」
「にもかかわらず少数株主には配当も説明もされていない」
「支配株主側が役員報酬や関連取引を通じて利益を享受している」
「その状況で、少数株主の株式を低廉に評価することは相当ではない」
という形になります。

さらに、手続面の不公正性も確認します。

株主総会の招集通知が適切に送られていたか。
計算書類が株主に提供されていたか。
総会議事録は実際の開催状況と合っているか。
役員選任や役員報酬の決議は適法に行われているか。
新株発行や自己株式取得が、少数株主を排除する目的で行われていないか。
株主名簿の取扱いに不自然な点はないか。

このような手続上の問題は、それ自体が決議取消、無効確認、役員責任追及などにつながることがあります。
少なくとも、会社側にとっては、放置しにくい論点になります。

もっとも、第3段階の目的は、すぐに会社を攻撃することではありません。
目的は、出口価格を形成することです。

少数株主の出口戦略では、最終的に問題になるのは、
「いくらなら株式を手放すのか」
「会社側はいくらなら買い取るのか」
「その価格に合理的な説明ができるのか」
という点です。

そのためには、会社価値を大きく見せる事情と、会社側が早期解決を望む事情を、両方整理する必要があります。

会社価値を大きく見せる事情としては、
純資産が厚いこと、
利益が安定していること、
含み益のある不動産があること、
過去に配当余力があったこと、
役員報酬を調整すれば利益が増えること、
関連会社取引を見直せば会社利益が増えること、
などがあります。

会社側が早期解決を望む事情としては、
帳簿閲覧を続けられると面倒であること、
総会対応が煩雑になること、
親族会社取引を説明しなければならないこと、
役員報酬や貸付金の妥当性が問題になること、
株主代表訴訟や決議取消訴訟のリスクがあること、
事業承継や金融機関対応に支障が出ること、
などがあります。

この二つを組み合わせると、出口交渉は強くなります。

つまり、
「この株にはこれだけの価値がある」
という評価面の主張と、
「この少数株主を残しておくと今後も法的対応が続く」
というリスク面の主張を同時に立てるわけです。

ここで注意すべきなのは、少数株主側が過度に感情的にならないことです。
同族会社の紛争では、長年の親族間の不満、相続時の不公平感、会社から無視されてきた怒りが背景にあります。
しかし、出口戦略としては、感情をそのままぶつけるよりも、資料に基づいて、淡々と、会社価値と不公正性を整理する方が有効です。

弁護士業務としては、この第3段階は非常に商品化しやすい部分です。
名称をつけるなら、
「非上場株式の簡易価値診断」
「同族会社の不公正経営チェック」
「少数株主の出口価格設計」
といった形になります。

ここで、税理士や公認会計士と連携することも考えられます。
特に株式評価、純資産、類似業種比準、DCF、配当還元、相続税評価との違いなどが問題になる場合には、専門家との協働が有効です。
もっとも、最初から精密な鑑定評価を行う必要はありません。
まずは、交渉に使える程度に、会社の資産、収益、利益流出、手続不備を整理することが現実的です。

第3段階を経ることで、少数株主側は、単なる不満の表明から、具体的な出口交渉へ進むことができます。

「会社が何を持っているのか」
「どれだけ儲かっているのか」
「利益は誰に流れているのか」
「手続は適正だったのか」
「この株式をいくらで手放すべきか」

これらを整理することで、次の段階である権利行使による交渉圧、そして最終的な買取・和解に進む準備が整います。

したがって、第3段階は、
「会社価値と不公正性を把握し、出口価格と交渉圧を設計する段階」
といえます。

少数株主権の出口戦略では、この段階が最も腹落ちしやすいところです。
株主として会社を支配することはできない。
しかし、会社の中身を見て、不公正な利益配分を把握し、それをもとに買取価格を形成することはできます。

つまり、少数株主権は、会社を乗っ取るための武器ではなく、
「閉じ込められた株式を、できるだけ納得できる価格で現金化するための交渉装置」
として使うことができます。

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