第3講 事故型労災の争い方 ―― 転落・巻き込まれ・墜落・重機事故をどう立証するか

現場で起きる労働災害には、転落事故、機械への巻き込まれ事故、足場や屋根からの墜落、フォークリフトや重機との接触事故など、典型的な類型があります。こうした事故では、「大きな事故が起きた」という事実それ自体のインパクトが強いため、被災者側としては「これだけの事故なのだから会社の責任は明らかだ」と感じやすいところがあります。たしかに、事故型労災では、事業者に安全確保義務が強く求められており、労働安全衛生法上も、安全衛生管理体制の整備、危険防止措置、安全衛生教育などが求められています。厚生労働省も、事業者には職場における労働者の安全と健康を確保する義務があり、危険防止措置や安全衛生教育の実施が必要だと明示しています。

もっとも、民事訴訟では、単に「事故が起きた」というだけで足りるわけではありません。争点になるのは、その事故が、会社として防止すべき危険の現れだったのか、という点です。たとえば、機械への巻き込まれ事故であれば、安全カバーは適切に設置されていたのか、点検はされていたのか、作業手順は明確だったのか、危険な近接作業を避ける運用になっていたのかが問われます。墜落事故であれば、足場、手すり、安全帯、親綱、作業床、立入制限の有無が問題になります。重機事故であれば、誘導者の配置、合図の統一、作業動線の分離、見通しの悪い場所での安全措置などが重要です。厚生労働省の資料でも、足場や手すりの設置、誘導者の配置、合図の統一、点検、作業計画の策定、安全衛生教育の実施などが具体的措置として挙げられています。

この種の事件では、被災者側がまず意識すべきなのは、「事故の瞬間」だけでなく、「事故に至る職場の状態」を立証対象にすることです。現場写真、事故報告書、ヒヤリハット報告、作業手順書、KY活動記録、点検記録、安全教育記録、当日の人員配置表、工程表などは、いずれも重要な証拠になります。事故後に現場が改善されることも少なくないため、できる限り早い段階で、事故当時の状況を示す資料を確保することが重要です。会社側はしばしば、「安全ルールは存在していた」「本人がそれに違反した」と反論します。しかし、民事訴訟では、ルールが紙の上で存在していただけでは足りず、現実に守られる体制になっていたか、教育や監督が実効性を持っていたかまで見られます。労働安全衛生法の考え方も、単なる最低基準の形式的遵守にとどまらず、労働者の安全と健康を現実に確保する方向を求めています。

また、事故型労災では、会社側から「本人の不注意」が強く主張されることがあります。たしかに、被災者側の動きや判断が問題視される場面はあります。しかし、それだけで会社の責任が消えるわけではありません。そもそも労働災害の多くは、一定のミスや判断の揺れが起こり得ることを前提に、それでも重大事故にならないよう設備や運用を組むべき場面です。だからこそ、被災者側としては、「本人に注意義務違反があったか」だけでなく、「会社は人がミスをしても重大事故にならない職場を作っていたか」という問いに引き戻す必要があります。

事故型労災の民事訴訟は、感覚的にはわかりやすく見えて、実際には証拠の精度で勝負が決まります。事故の態様、設備の状況、教育の中身、現場運用、指揮命令系統を具体的に積み上げることで、初めて「防げた事故だった」という評価に近づきます。現場事故であるからこそ、抽象論ではなく、現場の具体をどこまで法的な言葉に変えられるかが勝負になるのです。

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