民事訴訟法87条の2

本条は令和4年改正で新設され、令和8年5月21日の全面施行により本格運用が開始された、民事裁判手続のデジタル化を象徴する規定である。従来は口頭弁論は裁判所への現実の出頭が原則であったが、本条により、一定の場合にはウェブ会議システムを利用して口頭弁論や審尋を行うことが可能となった。
第1項は、裁判所が相当と認め、当事者の意見を聴いたときは、映像及び音声の送受信による通話の方法によって口頭弁論を実施できる旨を定める。「意見を聴く」ことが要件であり、当事者双方の同意までは要求されていない。もっとも、実務上は代理人との日程調整や通信環境を踏まえて運用されることが多い。「相当と認めるとき」とは、遠隔地所在、移動負担、感染症対策、業務上の事情などを総合考慮する趣旨であり、現在では代理人事件について積極的にウェブ参加が認められる傾向にある。
本項によるウェブ参加は、口頭弁論そのものをオンライン化するものであり、従来から認められていた弁論準備手続(民訴法170条以下)のウェブ会議とは制度趣旨が異なる。法廷自体は維持され、裁判官は法廷で期日を開きつつ、当事者や代理人のみが遠隔地から参加する運用が基本となるため、公開裁判の原則(憲法82条)も維持される。
第2項は、審尋について同様の規律を設けるものである。審尋は必ずしも公開法廷で行われる手続ではないため、電話その他音声のみの方法も利用でき、口頭弁論より柔軟な運用が認められている。保全事件、非訟事件、各種決定手続などで利用される場面が多い。
第3項は、ウェブ会議等により参加した者を「出頭したものとみなす」と規定する。したがって、ウェブ参加は欠席とは扱われず、弁論能力を有し、訴訟行為や和解を有効に行うことができる。この「出頭擬制」があるからこそ、オンライン参加であっても通常の口頭弁論と同一の法的効果が認められる。
本条はあくまで当事者・代理人の期日参加方法を定めた規定であり、証人尋問や当事者尋問の遠隔実施については204条以下の別規定が適用される点に注意を要する。また、本条によるウェブ参加は当事者の権利ではなく、裁判所の裁量による許可制度であるため、通信環境や事件の性質によっては出頭が求められることもある。
民事裁判手続のデジタル化において、本条は「オンライン期日」、109条の2以下は「システム送達」、132条の10以下は「オンライン申立て・電子事件記録」という三本柱の一つを構成する中核規定であり、現在の民事実務では最も利用頻度の高いIT化条文の一つとなっている。