第10講  フリーランス法とどう違うのか|似ているが別物として理解する

第10講
フリーランス法とどう違うのか|似ているが別物として理解する

取適法とフリーランス法は、どちらも「立場の弱い受注側を守る法律」として語られやすく、実務でも混同されがちです。しかし、両者は同じ法律ではありません。取適法は、製造委託等における中小受託事業者保護を中心にした法律であり、フリーランス・事業者間取引適正化等法は、個人を含む**特定受託事業者(フリーランス)**との取引適正化と就業環境整備を目的にした別の法律です。両法は重なる部分もありますが、対象、射程、規律内容が一致しているわけではありません。

まず一番大きい違いは、誰を守る法律かです。取適法は、中小受託事業者を相手にする一定の委託取引を対象にし、資本金や従業員数といった規模基準で適用が決まります。これに対し、フリーランス法は、従業員を使用しない個人事業主や一人法人などの特定受託事業者との業務委託を対象とし、規模基準ではなく「フリーランスかどうか」という属性が中心になります。したがって、相手が中小企業でもフリーランスでなければフリーランス法の問題にならず、逆にフリーランスであれば、取適法の規模基準に乗らない取引でもフリーランス法が問題になることがあります。

次に重要なのが、対象となる業務委託の広さです。フリーランス法の公式パンフレットは、取適法との違いとして、取適法では建設業法上の建設工事は対象外だが、フリーランス法は業種・業界の限定がないため建設工事も対象になり得ること、また、取適法では発注者が他者に提供する役務が中心で、発注者が自ら用いる役務を委託する場合は役務提供委託の対象外だが、フリーランス法では自ら用いる役務の委託も対象になることを明示しています。たとえば、会社が自社用のコンサル、営業支援、演奏、セラピー、デザイン等をフリーランスに委託する場面は、フリーランス法では射程に入りやすい一方、取適法ではそのままでは整理しきれない場合があります。

また、両法は重なることもあるという点が大切です。公取委の取適法Q&Aでは、一つの製造委託等について、取適法とフリーランス法のいずれも適用される場合には、それぞれの法律に定める明示事項を、一つの書面や電子メール等にまとめて示すことができるとされています。これは、両法が相互排他的ではなく、同一取引に並行してかかる場面があることを前提にした説明です。実務では「どちらか一方だけ見ればよい」とは限らず、両方を見る必要がある取引がある、という理解が必要です。

もっとも、規律内容はかなり違います。取適法は、これまで見てきたように、発注内容明示、60日以内支払、減額、買いたたき、受領拒否、返品、不当なやり直し、手形禁止など、取引条件の適正化に強く寄っています。これに対し、フリーランス法は取引適正化に加えて、募集情報の的確表示、育児介護等との両立配慮、ハラスメント対策、申出等を理由とする不利益取扱いの禁止、6か月以上の継続委託における中途解除等の事前予告・理由開示といった、就業環境整備に踏み込んだ規律を持っています。つまり、フリーランス法は「報酬・支払」だけでなく、フリーランスが継続就業する環境全体を整える色彩が強い法律です。

支払手段についても差があります。取適法では、2026年1月施行の改正により、対象取引での手形払いが禁止され、電子記録債権やファクタリングも、支払期日までの満額現金化が困難なものは問題になります。他方、フリーランス法Q&Aでは、本法のみが適用される取引では、手形交付等が直ちに本法上の支払遅延に当たるわけではないとしつつ、取適法で禁止される支払手段がフリーランス取引でも用いられることは望ましくないので、手形以外の手段で支払うことが望ましい、と説明しています。したがって、「フリーランス相手なら手形でも自由」とまでは言えませんが、取適法ほどストレートな禁止構造ではない、という違いがあります。

執行面でも、フリーランス法は公取委だけでなく、中小企業庁と厚生労働省が関与する点が特徴です。中小企業庁の案内でも、違反被疑事実について、公取委、中小企業庁、厚生労働省に申し出ることができるとされています。つまり、取適法が主として企業間取引規制として見られるのに対し、フリーランス法は、取引の公正さと就業環境の両面から行政が関与する制度になっています。

実務での整理は、かなり単純です。相手が会社組織の中小受託事業者なら、まず取適法を見る。相手がフリーランスなら、まずフリーランス法を疑う。中には両方を見るべき取引もある。 そして、フリーランス法は取引条件だけでなく、解除予告やハラスメント対策まで含むので、「下請法対応の延長」で済ませると取りこぼしが出ます。逆に、製造委託や運送委託のような典型的なBtoB取引では、フリーランス法の話ばかり見ていると、取適法特有の60日ルールや手形禁止を見落とす危険があります。

結局のところ、第10講の結論はこうです。取適法とフリーランス法は、似ているが別物であり、守る相手も、対象取引も、追加される義務も違う。しかも一部は重なる。 したがって、実務では「どちらか一方を知っていれば足りる」と考えず、発注相手の属性と委託内容から、どの法律がかかるのかを最初に仕分けることが重要です。

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