第17講 相続人の中に連絡が取れない人がいるとき|行方不明・非協力・認知症の場合の進め方

第17講 相続人の中に連絡が取れない人がいるとき|行方不明・非協力・認知症の場合の進め方

相続では、財産や遺言の問題だけでなく、相続人の一部と話ができないこと自体が大きな障害になります。
典型的には、「住所は分かるが返事をしない」「昔に家を出て行って行方が分からない」「認知症が進んでいて内容を理解して合意できない」「未成年の子が相続人に入っている」といった場面です。裁判所は、遺産分割調停では相続人全員の参加が必要だとしたうえで、こうした事情ごとに必要な家裁手続を示しています。

このテーマで一番大切なのは、「連絡が取れない」を一括りにしないことです。
単に非協力なのか、本当に行方不明なのか、判断能力に問題があるのかで、必要な対応は全く違います。ここを混同すると、いつまでも協議が進まないだけでなく、誤った手続選択になります。

1 まず原則|遺産分割は相続人全員の関与が必要である

遺産分割の出発点は、相続人全員で決めるということです。
裁判所は、遺産分割調停では相続人全員の参加が必要であり、そのため申立人は戸籍などで相続人を確認する必要があると案内しています。また、遺産分割調停は、相続人のうちの一人または何人かが、他の相続人全員を相手方として申し立てる手続だとも説明しています。

したがって、「一人だけ連絡がつかないから、その人抜きで協議書を作る」という処理は危険です。
問題は、その人を除外することではなく、どうやってその人を含めた法的に有効な形を作るかにあります。相続人の一部を欠いたままの協議は、後の登記や預金払戻しの場面でも支障を生みやすいです。

2 住所は分かるが、返事をしない・協力しない場合

この場合は、まず「行方不明」とは違います。
住所や所在が把握できているなら、不在者財産管理人のような制度をすぐ使う話ではなく、まずは協議がまとまらない相続人がいる事案として考えます。裁判所は、相続人間で話合いがつかない場合には、家庭裁判所の遺産分割調停又は審判を利用でき、この調停は相続人の一部が他の相続人全員を相手方として申し立てるものだと案内しています。

つまり、相手が無視しているからといって手詰まりではありません。
所在が分かるなら、その相続人を相手方に含めて遺産分割調停を申し立てるのが基本です。非協力は、それだけで“手続不能”を意味しません。むしろ、任意協議が無理だからこそ家裁の場に乗せる、という整理になります。

この場面で大切なのは、非協力と行方不明を混同しないことです。
返事をしない相手に対して、いきなり不在者財産管理人を考えるのではなく、まず相手方として家裁手続に入れることができるかを考えるのが順番です。

3 本当に行方不明で、所在が分からない場合

戸籍や住民票などを調べても所在が分からない場合は、話が変わります。
大阪家裁の案内は、相続人の中に行方不明や生死不明の人がいて、戸籍や住民票などで調査しても行方が分からない場合には、不在者財産管理人を家庭裁判所で選任することになると明記しています。裁判所の不在者財産管理人選任案内でも、従来の住所又は居所を去り、容易に戻る見込みのない者に財産管理人がいない場合、家庭裁判所は申立てにより財産管理人を選任できるとされています。

選任された不在者財産管理人は、単に財産を保管するだけではありません。
裁判所は、家庭裁判所の権限外行為許可を得た上で、不在者に代わって遺産分割や不動産売却等を行うことができると案内しています。つまり、相続人本人に接触できなくても、法的にはその人の利益を代表する形を作って、相続手続を前へ進めることができるのです。

申立てをできるのは、不在者の配偶者、相続人に当たる者、債権者などの利害関係人です。
申立先は、不在者の従来の住所地又は居所地の家庭裁判所で、費用としては収入印紙800円分と連絡用郵便切手が基本とされています。また、裁判所は、不在者の財産内容によっては管理人報酬等に備えて予納金を求めることがあると案内しています。

4 7年以上生死が分からない場合には失踪宣告もある

行方不明の期間が非常に長い場合には、失踪宣告という制度も視野に入ります。
大阪家裁の案内は、7年以上生死が分からないときには、不在者を死亡したものとみなす「失踪宣告」という制度があると説明しています。したがって、単なる短期の所在不明と、長期の生死不明とでは、選択肢が違ってきます。

もっとも、相続実務の入口としては、まず不在者財産管理人で足りるかを考える場面が多いです。
失踪宣告は制度として重い意味を持つため、ただ連絡がつかないからすぐ使うというより、長期間にわたり生死不明であることが前提になります。

5 認知症などで判断能力に疑いがある相続人がいる場合

この場合は、非協力でも行方不明でもなく、本人が有効に協議参加できる能力があるかが問題になります。
大阪家裁の案内は、相続人の中に認知症などで判断能力に疑いがある人がいる場合には、家庭裁判所で後見等開始の申立てをすることになるとしています。つまり、本人が内容を理解して有効に合意できないなら、そのまま協議を進めることはできません。

ここでいう「後見等」には、事案に応じて成年後見、保佐、補助があり得ますが、第17講の相続実務としてまず押さえるべきなのは、判断能力に問題がある本人を、そのまま協議の当事者にして進めないという点です。
本人の保護が必要だからです。

6 後見人がいても、それで必ず足りるわけではない

認知症の相続人について後見人が付けば、それで常に遺産分割が進められるわけでもありません。
裁判所の成年後見Q&Aは、後見人自身も相続人である場合には、後見人が自分の立場と本人の代理人という二つの立場を同時に持ち、利益相反になると説明しています。この場合、本人の利益を守るため、後見人ではない人を特別代理人に選任する必要があるとされています。

つまり、たとえば長男が母の成年後見人であり、しかも長男自身も父の相続人であるような事案では、
長男が「自分の相続分」と「母の代理人」とを一人で処理することはできず、母のための特別代理人選任が必要になります。裁判所は、特別代理人選任の申立ての際には、遺産分割等の場合は遺産分割協議書案を必ず添付すると案内しています。

一方で、相続人ではない後見監督人が選任されている場合には、その後見監督人が本人の代理人となるため、特別代理人は不要だと裁判所は説明しています。
したがって、後見関係が付いている場合でも、誰が代理するのかまで見ないと正確な整理になりません。

7 未成年の相続人がいる場合

未成年者が相続人に入っている場合も、単純には進められません。
裁判所は、未成年者本人に代わって親権者などが法定代理人として関与する一方、親権者も同じく相続人である場合には、未成年者の利益を保護するため、家庭裁判所で特別代理人を選任する必要があると案内しています。

これは、母と未成年の子が共同相続人になるような典型場面で問題になります。
裁判所の特別代理人選任案内でも、父が死亡した場合に、共同相続人である母と未成年の子が行う遺産分割協議は利益相反行為の例だと明示されています。したがって、「法定相続分どおりに分けるだけだから大丈夫」とはなりません。

8 実務では「非協力」「不在」「無能力」を切り分ける

ここまでを見ると分かるとおり、
住所が分かるが応じない人には遺産分割調停、
所在不明の人には不在者財産管理人、
認知症などで判断能力に疑いがある人には後見等開始、
未成年者で利益相反がある場合には特別代理人、
という形で、打ち手が変わります。これは裁判所の各手続案内を、そのまま相続実務の整理に落としたものです。

したがって、「連絡が取れない」という相談を受けたときは、まず
住所は分かるか
本人は意思疎通できるか
未成年か
親権者や後見人自身も相続人か
を順に確認するのが実務的です。

9 相続登記との関係でも放置は危険である

不動産がある相続では、こうした事情があって遺産分割がすぐまとまらないこともあります。
その場合でも、相続登記の義務化との関係で放置は危険です。法務省Q&Aは、相続人申告登記は申出をした相続人についてのみ、義務を履行したものとみなされると案内しており、全員分の義務履行には各相続人ごとの対応が必要だとしています。したがって、相続人の一部が非協力・所在不明である場合でも、登記義務との関係を別途意識する必要があります。

つまり、遺産分割の成熟を待つことと、登記関係を何もしないことは同じではありません。
相続人の問題で協議が止まりそうなときほど、家裁手続と登記対応を並行して考える視点が大切です。

10 まとめ|「連絡が取れない」は、理由ごとに手続を変える

相続人の中に連絡が取れない人がいるときは、まず遺産分割が相続人全員の関与を前提とする手続だという原則を押さえる必要があります。
そのうえで、住所が分かるが非協力なら遺産分割調停、所在不明なら不在者財産管理人、7年以上生死不明なら失踪宣告、認知症などで判断能力に疑いがあるなら後見等開始、未成年者で利益相反があるなら特別代理人、という形で整理していくのが基本です。

結局のところ、この場面で大切なのは、
「連絡が取れない」という現象を、その理由に応じた法律問題へ翻訳することです。
そこができると、止まっていた相続も、どの家裁手続を使えば動くのかが見えてきます。

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