第18講 相続トラブルが裁判所に行くとどうなるか|調停と審判
第18講 相続トラブルが裁判所に行くとどうなるか|調停と審判

相続人同士で話合いがつかないとき、問題は家庭裁判所に持ち込まれることになります。
もっとも、ここでいう家庭裁判所の手続は、最初から「勝ち負けを決める裁判」のようなものではありません。遺産分割では、まず調停という話合いの手続が中心に置かれており、そこでまとまらないときに審判という裁判所判断の手続へ進む、というのが基本の流れです。
1 まずは調停から始まるのが通常である
遺産分割の紛争では、一般に家庭裁判所の遺産分割調停から入ることが多いです。
裁判所は、相続人間で話合いがつかない場合には遺産分割の調停又は審判を申し立てることができるとし、実際の案内でも調停申立書や事情説明書、遺産目録の書式が用意されています。調停は、当事者だけで感情的に対立している事案でも、裁判所の場で整理しながら話合いを進めるための入口です。
調停では、裁判官と調停委員会が間に入り、当事者双方から事情を聴きながら合意の可能性を探っていきます。
家裁資料でも、遺産分割手続は、相続人の範囲、遺言書、遺産の範囲、遺産の評価、分割方法といった順序で整理され、問題が解決するまで調停期日を重ねていく流れが示されています。
2 調停でまず整理されるのは何か
調停に入ると、いきなり「誰が何を取るか」だけを話すわけではありません。
実際には、まず相続人の範囲、遺言の有無、遺産の範囲、遺産の評価、そして分割方法が順番に整理されます。京都家裁のしおりでも、そのような流れが明示されており、特別受益や寄与分は、その後に具体的相続分を調整する要素として扱われます。
このため、調停は「感情の言い合いの場」というより、
何が争点で、どこまで一致していて、どこが食い違っているのかを可視化する場だと理解した方が正確です。特別受益や寄与分の主張をする側には、資料提出や立証が必要だと裁判所も案内しています。
3 裁判所が勝手に遺産を探してくれるわけではない
相続人の中には、「裁判所に行けば銀行も不動産も全部調べてくれる」と思う方もいます。
しかし、京都家裁のしおりは、被相続人にどのような遺産があるかについては、相続人自身が必要な資料を集める必要があり、原則として裁判所が何らかの調査をして遺産を探すようなことはしないと明記しています。
したがって、実務では、戸籍、登記事項証明書、固定資産評価証明書、残高証明書、通帳写し、証券資料などを、自分たちで集めて持ち込むことが前提になります。
東京家裁の必要書類案内でも、申立時の提出書類として、戸籍、遺産目録、各種財産資料が細かく整理されています。
4 調停で決められることと、決められないことがある
遺産分割調停は便利な手続ですが、万能ではありません。
京都家裁や大阪家裁の案内では、ある財産がそもそも被相続人の所有かどうかに争いがある場合や、身分関係そのものに争いがある場合には、遺産分割の前に別途の民事訴訟、人事訴訟、家事調停などで解決する必要があるとされています。つまり、前提問題によっては、遺産分割手続だけでは進められません。
また、使途不明金や葬儀費用の清算のように、本来は遺産分割審判とは別に解決すべき問題もあります。
最高裁家庭局の資料でも、葬儀費用の清算や使途不明金の解明は、本来遺産分割審判とは別に解決すべき問題として挙げられています。
5 調停でまとまれば、その内容で解決する
相続人間で合意が成立すれば、調停は調停成立で終わります。
その場合は、合意内容に従って、不動産の名義変更、預金払戻し、代償金の支払などを進めていくことになります。調停の強みは、単なる法定相続分の機械的な適用ではなく、生活事情や希望を踏まえた柔軟な解決ができる点にあります。
実務的にも、
「自宅は同居していた配偶者が取得する」
「賃貸物件は長男が取得し、他の相続人へ代償金を払う」
「売却して現金化して分ける」
といった現実的な調整は、調停の方がやりやすいです。家裁資料でも、代償分割や換価分割が分割方法として示されています。
6 調停でまとまらないと、審判へ移る
調停で話合いがつかなかった場合、遺産分割事件では、原則として不成立となり、審判手続に自動的に移行します。
この点は、最高裁家庭局資料、山口家裁Q&A、福岡家裁説明資料など、複数の裁判所資料が共通して明示しています。
審判に移ると、今度は「話合い」よりも、裁判官が法律と提出資料に基づいて分割方法を判断する手続になります。
山口家裁Q&Aも、審判では家庭裁判所が遺産の分割方法を決めることになると説明しています。
7 審判ではどのように判断されるのか
審判では、裁判官が、遺産の種類や性質、相続人の事情、特別受益や寄与分の有無、分割方法の相当性などを踏まえて判断します。
大阪家裁の説明では、審判では、遺産の種類や性質を考慮しながら、法定相続分とは異なる分け方をすべき事情の有無や程度などについて、厳密な審理が行われるとされています。
ただし、審判は必ずしも各相続人の希望どおりの結論になるわけではありません。
山口家裁Q&Aは、審判では裁判官が法律に従って判断するが、必ずしも各相続人が期待したとおりの結果が出るとは限らないと案内しています。大阪家裁も、審判による分割方法には限界があり、競売でしか分けられない場合など、生活状況や希望に沿わない結論になり得ると説明しています。
8 審判で選ばれやすい分割方法
審判で問題になる分割方法としては、
現物分割、代償分割、換価分割が中心です。福岡家裁の説明資料でも、代償分割は一人が不動産を取得して他の相続人へ代償金を払う方法、換価分割は不動産を第三者に売却して代金を分ける方法として整理されています。
したがって、誰も取得したがらない不動産や、取得希望者に代償金支払能力がない不動産では、売却や競売寄りの結論になりやすくなります。
この意味でも、相続人の事情に合わせた柔軟な解決を望むなら、審判まで行く前の調停段階で合意できる余地を探る意味は大きいです。
9 審判に不服があるとき
審判が出た後でも、それで完全に終わりとは限りません。
山口家裁Q&Aは、審判に対して不服がある場合には、告知を受けた日から2週間以内に即時抗告をすることができると案内しています。
もっとも、即時抗告があるからといって、審判を軽く考えてよいわけではありません。
結局のところ、資料と主張の土台は調停・審判の段階で整えておく必要があります。
10 申立て先や費用の基本
遺産分割調停の申立先は、原則として相手方の住所地を管轄する家庭裁判所です。
東京家裁の案内では、審判を単独で申し立てる場合は相続開始地、つまり被相続人の最後の住所地を管轄する家庭裁判所になるとされつつ、調停は相手方住所地が基本だと説明されています。また、申立費用として、被相続人1人につき収入印紙1200円分が示されています。
ただ、実務では多くの事案がまず調停から入るため、
「まずは相手方住所地家裁へ調停」という理解で足ります。必要書類としては、申立書、戸籍、遺産目録、各種財産資料、事情説明書などが用意されています。
11 まとめ|家庭裁判所では「まず調停、まとまらなければ審判」で進む
相続トラブルが家庭裁判所に行くと、まず遺産分割調停で話合いが行われ、
そこでまとまらなければ不成立となって審判へ移り、裁判官が分割方法を判断する、というのが基本の流れです。調停では、相続人の範囲、遺言、遺産の範囲、評価、分割方法を整理し、特別受益や寄与分も資料に基づいて検討されます。
もっとも、家庭裁判所が勝手に遺産を探してくれるわけではなく、
所有権自体の争いや使途不明金のように、別の訴訟等で先に解決すべき問題もあります。審判になれば法的に結論は出ますが、必ずしも希望どおりの柔軟な解決になるとは限りません。だからこそ、相続事件では、調停段階でどこまで土台を整え、どこまで現実的な合意を探れるかが非常に重要です。