第42講 相続登記の義務化とは何か|不動産を放置するとどうなるのか

第42講

相続登記の義務化とは何か|不動産を放置するとどうなるのか

相続で不動産があるのに名義変更をしないまま放置する、というのは、昔は珍しくない実務でした。ところが、現在はその感覚では通りません。法務省は、令和6年4月1日から相続登記の申請が義務化されたと案内しており、相続や遺言によって不動産の所有権を取得した相続人は、自己のために相続の開始があったことを知り、かつ、その不動産の所有権を取得したことを知った日から3年以内に相続登記を申請しなければならないとしています。正当な理由なくこれを怠ると、10万円以下の過料の対象になります。

しかも、この義務は令和6年4月1日以後に始まった相続だけにかかるわけではありません。法務省は、施行日前に開始した相続でまだ相続登記をしていないものも義務化の対象になると明示しており、その場合は原則として令和9年3月31日までに相続登記をする必要があると説明しています。つまり、「父が何年も前に亡くなっているから、今さら急がなくてよい」という理解は危険です。古い相続でも、未登記のままなら現在の義務の射程に入ります。

ここで注意すべきなのは、義務が一回で終わらない場合があることです。法務省は、基本的義務とは別に、遺産分割が成立した場合には、その成立日から3年以内に、その内容を踏まえた登記を申請する追加的義務があると説明しています。つまり、相続開始後にとりあえず法定相続分のまま放置してよいわけではなく、後で遺産分割がまとまったなら、その結果を登記に反映させるところまで義務化されています。

では、遺産分割がまだまとまっていないときはどうするのか。この点について法務省は、義務履行のための環境整備策として相続人申告登記を設けたと説明しています。これは、相続人が、登記簿上の所有者について相続が開始したことと、自らがその相続人であることを申し出ることで、まず基本的義務を簡易に果たすための制度です。ただし、法務省自身が明記しているとおり、相続人申告登記で果たせるのは基本的義務だけであり、遺産分割がまとまった後の追加的義務まではこれで済みません。したがって、「まだ話合いが終わらないから何もしない」というのではなく、まず相続人申告登記で期限対応をするという発想が重要になります。

不動産を放置すると実務上何が困るのか。いちばん大きいのは、権利関係が世代をまたいで複雑化することです。もともと相続では不動産が共有状態に入りやすく、そこに登記未了のまま次の相続が重なると、当事者が一気に増えます。法務省が相続登記義務化の背景として所有者不明土地問題の解消を掲げているのも、まさにこの「名義を放置した結果、誰が権利者か分かりにくくなる」構造が社会的に大きな問題になっていたからです。相続登記をしないことは、単に役所手続を先送りすることではなく、後の相続人により重い処理を残すことでもあります。

さらに、放置には手続的な不利益もあります。法務省は、相続登記義務違反を把握した登記官は、まず相当期間を定めて申請を催告し、それでも正当な理由なく申請しない場合には地方裁判所へ通知すると説明しています。他方で、法務省は「正当な理由」が認められ得る場合として、相続人が極めて多数で戸籍収集等に時間を要する場合遺言の有効性や遺産の範囲が争われていて帰属主体が明らかでない場合重病や避難事情、経済的困窮がある場合などを挙げています。つまり、事情があれば直ちに過料というわけではありませんが、何も動かずに放置するのとは違い、少なくとも「なぜまだ申請できないのか」を説明できる状況にしておく必要があります。

現在は、放置を減らすための補助制度も少しずつ整っています。法務省は、所有不動産記録証明制度が令和8年2月2日に施行されたと案内しており、これにより、亡くなった人が登記簿上の所有者として記録されている不動産を一覧的に把握しやすくなっています。また、法務局は法定相続情報証明制度を用意しており、戸籍の束の代わりに一覧図の写しを各種相続手続に使えるようにしています。さらに、法務局は、一定の土地についての相続登記には登録免許税の免税措置があり、その適用期限は令和9年3月31日まで延長されたと案内しています。要するに、今は「義務だけ厳しくなった」のではなく、履行しやすくするための道具もかなり増えています。

結局のところ、相続登記の義務化とは、不動産を相続したら、3年以内に名義を動かすことが原則になったということです。しかも、古い相続も対象に入り、遺産分割が後でまとまればその結果に応じた追加登記義務もあります。不動産を放置すると、将来の相続で当事者が増え、権利関係が見えにくくなり、今は過料リスクまで伴います。したがって、不動産相続では「後でまとめてやる」より、まず期限を意識して、相続人申告登記を使うのか、本登記まで進めるのかを早めに決めることが大切です。

第43講では、不動産の名義変更はどう進めるか|戸籍、協議書、評価証明の実務を扱います。義務化の話を受けて、次は実際に何を集めて、どう申請するのかに入ります。

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