第42講 通院打切りを打診されたらどうするか|治療継続と証拠確保の実務
第42講
通院打切りを打診されたらどうするか|治療継続と証拠確保の実務

交通事故の被害者にとって、保険会社からの「そろそろ治療費対応を終了したい」という連絡は、大きな不安材料です。しかし、この場面でまず押さえるべきなのは、保険会社が治療費を払うかどうかという問題と、医学的に治療継続が必要かどうかという問題は、同じではないということです。ここを混同すると、不必要に治療をやめてしまい、結果として症状固定の時期も後遺障害の立証も不利になります。
保険会社は、一定期間が経過すると、一般的な治療期間の目安や症状の推移を理由に、治療費対応の終了を打診してきます。これは支払側としての判断であって、主治医の医学的判断そのものではありません。したがって、打切りを言われたときに最初にやるべきことは、主治医に「現時点で治療継続の必要があるのか」「どの症状がどの程度残っているのか」「今後どの程度の経過観察が必要か」を確認することです。保険会社とのやり取りよりも先に、医療側の見解を固めるべきです。
そのうえで、治療継続が必要だという主治医の判断があるなら、保険会社に対してその旨を伝え、対応継続を求めます。ただし、ここで感情的に争う必要はありません。実務的には、診療情報提供書、診断書、診療録上の記載、今後の治療方針など、客観資料で示すことが重要です。保険会社は「必要性の裏付け」を見ていますから、資料なしに「まだ痛いから続けたい」と言うだけでは弱いのです。
仮に保険会社が対応を打ち切ったとしても、それで直ちに治療継続が不可能になるわけではありません。健康保険を利用して通院を継続し、最終的に相手方に請求するという方法もありえます。もちろん、後で全額認められるとは限りませんが、少なくとも必要な治療を途中で断念しないという意味は大きいです。後遺障害の案件では、「本当は症状が続いていたのに、保険会社に言われて通院をやめた」という経過は、後から非常にもったいないことになります。
また、この場面では証拠確保の意識がとても重要です。打切り打診の時期は、ちょうど「まだ症状は残っているが、保険会社はそろそろ終わらせたい」と考える局面であることが多いからです。したがって、症状の内容、頻度、生活上の支障、就労への影響、通院先での指導内容などを、患者自身でも整理しておく必要があります。診察のたびに症状を正確に伝え、診療録に反映してもらうことが後の認定や交渉に直結します。
ここでありがちな失敗は二つあります。一つは、打切りを恐れて過度に争い、主治医との関係までぎくしゃくさせてしまうこと。もう一つは、諦めて治療をやめ、記録も残さないことです。前者は実務上の進行を悪くし、後者は立証を空洞化させます。必要なのは、保険会社対応と主治医対応を分けて考えることです。医学的必要性は主治医に、支払交渉は保険会社に、それぞれ別の言葉で向き合うべきです。
結局のところ、通院打切りの打診を受けた場面で問われるのは、「まだ治療が必要か」だけではありません。「その必要性を後から説明できる形で残しているか」でもあります。後遺障害の案件では、治療の継続それ自体が将来の証拠でもあります。打切りを打診されたからこそ、通院の意味をもう一度整理し直す必要があるのです。