損する内妻、儲かる後妻──あの良著のオマージュ

――相続でここまで違う「法律上の妻」と「内縁の妻」の立場

「長年連れ添ってきたのだから、相続でも当然に守られるはずだ。」
そう思われがちですが、相続の世界では、生活実態だけでは埋まらない差があります。いわゆる**内妻(内縁の妻)**は、夫婦同然の暮らしをしていても、原則として法定相続人にはなりません。これに対し、後妻が法律上の婚姻をした配偶者である限り、配偶者は常に相続人となります。相続で効いてくるのは、情の深さよりも、まず戸籍上の地位です。

この意味で、「損する内妻、儲かる後妻」という言い方には、かなりの真実があります。もちろん、後妻だから自動的に“得をする”のではありません。正確には、法律上の配偶者という地位が、相続・税務・居住の場面で極めて強いのです。逆に、内縁配偶者は、関係がどれほど実質的であっても、その地位がないために、相続では不利になりやすいのです。

1 後妻が強いのは、「後」だからではなく「配偶者」だから

民法は、被相続人の配偶者は常に相続人になると定めています。したがって、後妻であっても法律上の婚姻をしていれば、子どもや直系尊属、兄弟姉妹などと並んで相続人として位置づけられます。相続の入口に立てるかどうか、それ自体がまず大きな差です。

しかも、法律上の配偶者には、税務上も大きな優遇があります。国税庁は、配偶者が取得した遺産について、1億6000万円まで、または法定相続分相当額までであれば相続税がかからないという配偶者の税額軽減を案内しています。これは、内縁配偶者には使えない制度です。つまり、後妻は「もらえる立場」にあるだけでなく、「税負担でも守られやすい立場」にあります。

2 内妻が損しやすいのは、「夫婦同然」では足りないから

他方で、内縁関係の人は、国税庁の説明でも明確に相続人に含まれないとされています。法務局も、内縁の妻(夫)に財産を残したいなら、遺言を残しておく必要が高いと案内しています。裏を返せば、遺言がなければ、内妻は「当然にもらえる人」ではありません。長年同居していたこと、介護をしていたこと、周囲から夫婦と思われていたことだけで、法律上の配偶者と同じ相続権が生まれるわけではないのです。

さらに不利なのは税務です。仮に遺言によって内妻に財産を取得させても、配偶者の税額軽減は使えません。 それどころか、財産を取得した人が配偶者・父母・子以外である場合には、相続税額の2割加算が問題になります。つまり、内妻は「もらいにくい」うえに、「もらえても税務上不利」になりやすいのです。ここにも、法律婚との大きな格差があります。

3 内妻に救済がまったくないわけではない

もっとも、内妻に救済が一切ないわけではありません。相続人がいない場合には、家庭裁判所で特別縁故者として相続財産の分与を求める余地があります。裁判所の手引きでも、内縁の配偶者がこれに当たり得る場合があることが示されています。

ただし、これは“例外的な救済”です。相続人が存在すれば通常はその人たちが相続しますし、特別縁故者の制度は、法律上の配偶者の相続権の代用品ではありません。裁判所の手引きでも、特別縁故者に当たると簡単に断定できないこと、通常の交際の範囲を超える事情の立証が必要であることが示されています。したがって、「内縁でも何とかなるだろう」と考えるのは危険です。

4 もっとも、「後妻なら安泰」とも限らない

ここで注意すべきなのは、後妻が強い=何の争いも起きないという意味ではないことです。特に、前婚の子がいる事案では、相続は一気に緊張感を増します。法務局の案内でも、離婚した元配偶者には相続権がない一方、前妻(前夫)との子は相続人になることが示されています。つまり、後妻は配偶者として相続人になりますが、同時に前婚の子もまた相続人になるため、感情的対立や遺産分割の紛争が起きやすいのです。

このタイプの紛争では、後妻側が「私は妻なのだから当然に全部もらえる」と思い込み、前婚の子側が「後から来た人に渡したくない」と反発する、という構図が珍しくありません。しかし法律は、感情の順番ではなく、相続人としての地位と法定相続分を基礎に動きます。だからこそ、再婚家庭ほど、元気なうちの遺言作成が重要になります。内妻に残したい場合はなおさらで、遺言がないこと自体が致命傷になり得ます。

5 結局、守られるのは「実態」より「設計」である

相続実務で繰り返し見えるのは、関係の濃さそのものよりも、法的な設計をしていたかどうかが結果を分ける、ということです。内妻に財産を残したいなら、少なくとも遺言は強く検討すべきですし、再婚で前婚の子がいるなら、誰に何をどう残すのかを曖昧にしないことが重要です。法務局も、内縁配偶者に財産を託したいなら遺言の必要性が高いと案内しています。

「損する内妻、儲かる後妻」という言葉は、少し刺激的です。
しかし、相続の現場では、これは単なる煽り文句ではありません。法律婚か、内縁か。 その違いは、相続権、税負担、紛争時の立ち位置にまで及びます。長く一緒にいたことと、法律上守られることは、残念ながら同じではありません。だからこそ、家族の形が複雑であるほど、感情ではなく、法的な準備が必要になるのです。

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