交通事故と医療過誤が重なったとき、請求先は一つではありません ――事故後の治療経過に疑問がある場合、医療機関の責任も問題となることがあります

交通事故の被害に遭ったあと、搬送先の病院で十分な検査や経過観察が行われず、症状が悪化したり、死亡や重い後遺障害に至ったりすることがあります。こうした事案では、「交通事故の問題だから加害者側にしか請求できない」と思われがちですが、実際にはそうとは限りません。交通事故の加害者側の責任だけでなく、診療に当たった医療機関側の責任も、あわせて問題となることがあります。民法709条は不法行為責任を、民法719条は共同不法行為者の責任を定めており、交通事故については自動車損害賠償保障法3条も重要な根拠になります。
この点について実務上非常に重要なのが、最高裁平成13年3月13日判決です。この判例は、交通事故とその後の医療過誤とが順次重なり、死亡などの不可分の一個の結果が生じ、その結果について双方に相当因果関係がある場合には、事故加害者側と医療機関側は共同不法行為者として、被害者に対し全損害について責任を負うと整理しました。被害者との関係で「事故側はここまで」「病院側はここまで」と先に切り分けて責任を軽くする発想は、原則として採られていません。
つまり、交通事故のあとに治療経過へ疑問がある場合、問題は単なる“治療ミスの有無”にとどまりません。最終的な死亡や後遺障害という重大な結果について、事故と医療の双方から責任追及できる可能性があるのです。これは被害者側にとって大きな意味があります。請求先が増えることで、十分な損害回復の可能性が広がり、相手方の一方が責任を争っても、他方を含めた全体像で事案を組み立てることができるからです。
もっとも、すべての事案で当然に医療機関の責任が認められるわけではありません。医療側の過失が認められるか、適切な診療がされていれば結果を回避できた高度の可能性があったか、事故による損害と医療過誤による損害とが本当に切り分けられないのか、といった点が丁寧に検討されます。逆にいえば、事故後の診療経過に不自然さがあるのに、交通事故だけの問題として処理してしまうと、見落としが生じることがあるということです。
この種の事案では、初動が重要です。カルテ、看護記録、検査画像、紹介状、診療情報提供書、救急搬送記録、死亡診断書などを早い段階で確認し、どの時点で何が判明していたのか、何をすべきだったのか、結果は避けられたのかを整理する必要があります。交通事故案件として進めるだけでは足りず、医療過誤の観点を入れて再構成したときに、初めて見えてくる争点も少なくありません。
当事務所では、交通事故事件と医療記録の検討を切り分けず、最終結果に対して誰がどのような法的責任を負うのかという視点から、請求構造全体を検討しています。
「事故後に病院へ運ばれたが、その後の対応に疑問がある」
「治療が適切なら、もっと違う結果になったのではないか」
「保険会社からの説明だけでは腑に落ちない」
そのような場合には、交通事故だけ、あるいは医療過誤だけと決めつけず、両者が競合する事案として検討することが重要です。
交通事故と医療過誤が重なる事案は、法的にも医学的にも難度が高く、請求の組み方ひとつで結果が変わり得ます。だからこそ、事故後の経過に少しでも疑問がある場合には、早い段階でご相談いただくことに意味があります。
「事故の問題」として終わらせてよいのか。
「医療機関の対応」まで含めて検討すべきではないか。
そうした視点から、事案の全体像を整理し、適切な請求の道筋をご提案します。