第44講  後遺障害診断書を書いてもらう前に何を準備すべきか|抜け漏れ防止の実務

第44講
後遺障害診断書を書いてもらう前に何を準備すべきか|抜け漏れ防止の実務

後遺障害診断書は、後遺障害案件の中核資料です。ところが実際には、「症状が残っているから先生に書いてもらえばよい」と考えてしまい、十分な準備をしないまま作成に進んでしまうことがあります。これでは、症状そのものが軽いのではなく、資料の作り方が弱いために不利になるという、非常にもったいない結果を招きます。

まず準備すべきなのは、症状経過の整理です。事故直後に何が起き、どの部位にどのような痛み・しびれ・可動域制限・認知面の変化が生じ、その後どのように続いてきたのかを、時系列で把握しておく必要があります。ここで重要なのは、患者本人の頭の中で分かっているだけでは足りないということです。診療録、紹介状、検査結果、通院日、リハビリ内容などと対応づけて、医師に伝わる形に整える必要があります。

次に、現在残っている生活上の支障を具体化しておくことが大切です。長時間座れない、重い物を持てない、振り向けない、階段がつらい、集中力が続かない、怒りっぽくなった、仕事の段取りが落ちた、といった事情は、単なる愁訴としてではなく、「後遺障害が日常生活や就労にどう現れているか」という観点で整理すべきです。とくに高次脳機能障害や重度案件では、家族の観察内容も極めて重要になります。

さらに、検査結果の確認も欠かせません。MRI、CT、XP、神経学的検査、可動域測定、各種心理検査など、これまで何が実施され、何が実施されていないのかを把握しておく必要があります。診断書作成の直前になって「この検査をしておけばよかった」と気づくことは少なくありません。もちろん、案件によっては検査を増やしても意味が薄いこともありますが、少なくとも必要な検査の有無は事前に検討すべきです。

また、診断書に何を書いてもらうかを“誘導”するのではなく、“抜け漏れを防ぐ”という発想が重要です。医師は診療の専門家ですが、賠償実務の書類作成に常に習熟しているとは限りません。症状の部位、内容、残存状況、検査結果、予後、日常生活への影響など、必要事項が十分に反映されるよう、患者側で資料整理をしておくことには大きな意味があります。これは不当な働きかけではなく、記載の正確性を高めるための準備です。

一方で、やってはいけないのは、症状を盛って伝えること、実際にはない支障まで並べること、診療録と整合しない説明をすることです。後遺障害の案件は、提出資料同士の整合性が極めて重視されます。診断書だけ立派でも、通院経過や既存資料と噛み合わなければ、かえって信用性を損ねます。

後遺障害診断書は、単独で魔法の力を持つ書類ではありません。これまでの治療経過、検査、診療録、生活実態の集約点として意味を持ちます。だからこそ、書いてもらう前の準備が結果を大きく左右するのです。よい診断書は、偶然できるものではなく、経過の整理と資料の積み重ねの上に生まれます。

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