第20講 SNS・内部告発・風評被害にどう向き合うか

第20講 SNS・内部告発・風評被害にどう向き合うか

SNSで会社名が出された。退職者や従業員らしき人物が内部事情を書いている。取引先の間で妙な噂が回り始めた。こうした場面で会社が最初にやりがちなのは、全部をまとめて「風評被害だ」と扱うことです。もっとも、法的にはここを一括処理しない方が安全です。なぜなら、本当に違法な虚偽拡散と、公共性のある通報や批判と、単なる不満表明や評価投稿では、扱いがかなり違うからです。公益通報者保護法は、一定の法令違反について、不正の目的なく行われた通報を「公益通報」と定義していますし、刑法も名誉毀損について公共の利害・公益目的・真実性等に関する特例を置いています。つまり、会社に不都合な発信であっても、直ちに「潰してよい情報」とは限りません。

まず出発点として大事なのは、①公益通報の可能性があるもの、②真偽未確認の苦情・批判、③明らかな虚偽や誹謗中傷を分けて考えることです。公益通報者保護法のQ&Aでも、公益通報とは、労働者・退職者・役員が、役務提供先の不正行為を、不正の目的でなく、内部・行政機関等・その他外部へ通報するものだと整理されています。したがって、従業員や退職者の発信を見たとき、最初にやるべきことは「誰が漏らしたか探す」ことではなく、その内容が法令違反の申告なのか、単なる感情的投稿なのか、虚偽の事実摘示なのかを切り分けることです。

内部告発に近い事案では、会社はむしろ報復しないことが先です。公益通報者保護法は、公益通報をしたことを理由とする解雇の無効や不利益取扱いの禁止を定めており、消費者庁のQ&Aでも、内部公益通報対応体制には、不利益取扱い防止や範囲外共有防止の措置が含まれると説明されています。さらに、内部通報だけでなく、権限ある行政機関やその他外部への公益通報を行った者も保護対象に含み得ると整理されています。つまり、「外に言ったから懲戒」「社内で騒ぎにしたから降格」という発想は危ないということです。

この点は体制整備にも直結します。公益通報者保護法11条に関し、消費者庁は、常時使用する労働者が300人を超える事業者には内部公益通報対応体制の整備等が義務であり、300人以下の事業者には努力義務だと説明しています。また、内部公益通報受付窓口は部門横断的に受け付ける必要があり、ハラスメント相談窓口等と実質的に兼ねることもあり得るとされています。中小企業でも法的な義務の強弱はありますが、少なくとも、誰が受け、誰が調べ、誰が経営陣から独立して扱うのかを決めていない会社は、初動でつまずきやすいです。

では、SNS投稿や外部拡散が始まったとき、何から着手すべきか。第一は、証拠保全です。URL、アカウント名、投稿日時、スクリーンショット、拡散状況、コメント、削除前後の差分を押さえます。第二は、内容評価です。その投稿が、具体的事実の摘示なのか、意見・論評なのか、真実か不明か、法令違反の申告か、単なる悪口かを分けます。ここを飛ばして、いきなり「削除だ」「犯人探しだ」と動くと、後で逆に会社側の対応が不当視されることがあります。これは、民法上の不法行為と名誉回復の制度、刑法上の名誉毀損・信用毀損の構造、そして公益通報保護の枠組みが併存している以上、当然の整理です。

法的手段が問題になるのは、虚偽の事実で社会的評価を落とされた場合や、取引上の信用が傷つけられた場合です。民法709条は故意・過失による権利・法律上保護される利益侵害について損害賠償責任を定め、710条は名誉侵害など財産以外の損害についても賠償対象とし、723条は名誉回復に適当な処分を裁判所が命じ得るとしています。刑法も、230条で名誉毀損、233条で信用毀損及び業務妨害を定めています。したがって、虚偽の拡散、取引先への悪質な言い回し、営業妨害型の投稿は、民事・刑事の両面で検討対象になります。

もっとも、ここで重要なのは、会社に不利益な発信だから直ちに違法とはいえないことです。刑法230条の2は、公共の利害に関する事実で、専ら公益を図る目的があり、真実性等の要件を満たす場合の特例を置いています。公益通報者保護法も、不正の目的なく、一定の法令違反に関する通報を保護する建て付けです。したがって、たとえば安全衛生違反、法令違反、重大なコンプライアンス違反に関する発信については、会社として「困る情報」かどうかではなく、保護される通報・表現なのかを先に吟味すべきです。ここを誤ると、削除要求や懲戒の方が違法リスクを帯びることがあります。

匿名投稿への対応も、感情ではなく手順で考える必要があります。現在の権利侵害対処法は、発信者情報の開示請求や発信者情報開示命令事件の仕組みを定めており、侵害関連通信に係る発信者情報の開示を請求できる旨を置いています。つまり、匿名アカウントだから打つ手が全くないわけではありませんが、権利侵害性の整理をした上で、削除と発信者特定を並行して検討するという順番になります。逆に、違法性の評価が甘いまま開示や責任追及に突っ込むと、コストだけが先行しやすいです。

削除対応については、裁判だけが入口ではありません。法務省は、法務局がインターネット上の誹謗中傷やプライバシー侵害について、削除依頼の方法に関する助言を行うこと、本人による削除依頼が困難な場合や依頼に応じない場合には、法務局がプロバイダ等に削除要請を行うことがあると案内しています。したがって、違法性が比較的はっきりしているのに相手先プラットフォーム対応が鈍い場面では、法務局相談を選択肢に入れる実益があります。

一方、会社側がやってはいけないのは、不十分な調査のまま大々的に反論して二次炎上を起こすことです。取引先や従業員向けに「全くの虚偽であり、投稿者は悪質だ」と断定発信した後で、実は内部統制の不備や一部真実が出てくると、信用回復どころか「隠蔽しようとした会社」という印象が強まります。特に内部告発型の案件では、会社が範囲外共有や通報者探索に走ること自体が、消費者庁の体制整備Q&Aが問題視する類型に近づきます。外向け広報と内向け調査を分けることが重要です。

実務的には、この類型で会社がまず取るべき動きはかなり明確です。
投稿・通報・噂を見つけたら、まず保存する。
次に、公益通報の可能性、真偽、権利侵害性を切り分ける。
そのうえで、社内調査、削除要請、広報対応、必要なら発信者情報開示や損害賠償請求を検討する。
この順番です。要するに、「潰す」か「放置する」かの二択ではなく、事実確認・保護・是正・権利行使を組み合わせるのが中小企業法務としての王道です。

結局のところ、SNS・内部告発・風評被害への対応でいちばん大事なのは、会社に不利益な情報を全部敵と見ないことです。真実の通報を叩けば、法的にもレピュテーション上も悪化します。他方で、虚偽の拡散を放置すれば、信用毀損や取引不安が広がります。だからこそ、会社としては、保護すべき通報と、止めるべき権利侵害を分けて扱う能力を持たなければなりません。ここを雑にすると、問題そのものより、対応のまずさで傷が深くなることが少なくありません。

まとめ

SNS投稿や内部告発、取引先間の噂は、一括して「風評被害」とは扱えません。公益通報者保護法は、一定の法令違反についての通報を保護し、解雇の無効や不利益取扱いの禁止、内部公益通報対応体制の整備を定めています。300人超の事業者には体制整備義務があり、300人以下は努力義務です。

一方、虚偽の事実による社会的評価の低下や取引信用の低下については、民法709条・710条・723条、刑法230条・233条などが問題になり得ます。ただし、公共性・公益目的・真実性等が問題となる場面もあり、会社に不利益というだけで違法とは限りません。

匿名投稿については、権利侵害対処法上、発信者情報の開示請求・開示命令の制度があり、削除については法務局への相談や削除要請のルートもあります。したがって、実務としては、保存→切り分け→調査→削除・開示・請求の検討という順番で進めるのが安全です。

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