第25講 業者間トラブルが訴訟になる前に|交渉・調停・訴訟の選び方

第25講 業者間トラブルが訴訟になる前に|交渉・調停・訴訟の選び方

業者間トラブルが起きたとき、現場ではすぐに「裁判しかないのではないか」という空気になりがちです。もっとも、実務では、争いがあることと、すぐ訴訟に進むべきことは同じではありません。裁判所も、民事訴訟は、裁判官が双方の言い分を聴き、証拠を調べ、最終的に判決で紛争を解決する手続だと説明する一方、訴訟の途中で話合いによって解決することもできるとしています。また、民事調停は、裁判のように勝ち負けを決めるのではなく、話合いによって解決を図る手続であり、売買や金銭貸借をめぐる紛争にも使えるとされています。つまり、業者間トラブルでは最初から「裁判か放置か」の二択ではなく、交渉、調停、訴訟をどう使い分けるかが重要です。

まず最初にやるべきことは、手段選びより前に、争点を分解することです。
代金未払の問題なのか。
契約不履行の問題なのか。
品質・仕様・検収の争いなのか。
継続取引の終了条件の問題なのか。
損害額は合意できているのか。
相手は争っているのか、それとも払えないだけなのか。
ここを分けないまま「強く出る」「裁判にする」と決めても、手段がかみ合いません。債務不履行があれば損害賠償請求が問題になり、強制履行を裁判所に求めることもできるのが民法の建て付けですが、そこへ行く前に、そもそも何を請求するのかを固めなければなりません。

その意味で、交渉が向いている場面はかなりあります。
たとえば、金額の大枠には争いがないが支払時期だけが問題になっている場合、品質ややり直し範囲の調整で済みそうな場合、継続取引を切らずに条件変更で着地できそうな場合です。交渉の強みは、判決のように白黒をつけるのではなく、納期延長、分割払い、在庫引取り、今後の単価見直し、守秘条項付き精算など、現場に合った解決が作りやすいことにあります。他方で、交渉は、相手が引き延ばしに入ると空転しやすく、後で「そんな話はしていない」と言われる危険もあります。だから、交渉で進めるにしても、契約書、発注書、請求書、納品書、メール、議事メモを時系列で整理し、提案内容と相手の回答を文書で残すことが重要です。これは法定手続の説明ではなく、後の調停・訴訟にもつながる実務上の基本です。

次に、調停が向いている場面があります。裁判所によれば、民事調停は、裁判所が間に入り、話合いによって解決を図る手続で、手続が簡単、費用が低額、秘密が守られる、比較的早く解決しやすいとされています。さらに、裁判所の案内では、通常、申立てからおおむね3か月以内に調停成立などで終了する例が多いとされています。業者間トラブルでいうと、完全に関係が切れているわけではないが、当事者同士では感情がこじれて話が進まない場合、金額だけでなく履行方法や今後の整理まで含めた着地を探したい場合に、調停はかなり使いやすい手段です。しかも、裁判所は民事調停について、非公開で行われると説明しており、外に知られたくない取引トラブルとも相性があります。

調停の大きな利点は、判決より柔らかく、交渉より前に進みやすいことです。
当事者だけでの交渉では、どうしても「譲ったら負け」という空気になりがちですが、裁判所が間に入ることで、双方とも着地点を作りやすくなります。しかも、裁判所は、民事調停には「判決と同じ効果」があると案内しています。したがって、単なる口約束で終わるのではなく、合意ができれば、その内容をきちんと形にして終われるのが強みです。他方で、調停はあくまで話合いなので、相手が最初から妥協する気がなければ不成立になります。相手が歩み寄る余地があるかどうかが、調停に向くかどうかの分かれ目です。

これに対して、訴訟が向いている場面は比較的はっきりしています。裁判所によれば、訴訟は、裁判官が双方の言い分を聴き、証拠を調べ、最終的に判決で解決を図る手続です。つまり、金額や責任の有無を法的に白黒つけたい場合、相手が請求自体を争っている場合、証拠の評価を裁判所に委ねる必要がある場合、あるいは判決や和解調書の形で強制執行につながる土台を作りたい場合には、訴訟が本筋になります。特に、相手が「そもそも契約違反ではない」「金額が違う」「品質に問題がある」などと正面から争っているなら、最終的には訴訟を避けにくいことが多いです。

もっとも、訴訟は万能ではありません。
時間がかかり、提出書面や証拠整理も必要で、継続取引の関係がほぼ切れることもあります。他方で、裁判所自身が、訴訟の途中で和解による解決もできると説明しているとおり、訴訟は「最後まで判決を取る手続」に限りません。実務では、訴訟提起によって争点を固定し、裁判所の関与のもとで和解する、という使い方もかなりあります。ですから、訴訟を選ぶかどうかは、「和解の可能性がゼロかどうか」ではなく、話合いだけでは進まない段階に来ているかどうかで考える方が実務的です。

さらに、金銭請求が中心なら、支払督促も選択肢になります。裁判所によれば、支払督促は、金銭などの給付請求について、債権者の申立てにより発せられる手続で、書類審査 בלבדで進み、手数料は訴訟の半額です。そして、債務者が受け取ってから2週間以内に異議を出さなければ、仮執行宣言が付き、強制執行の申立てにつなげることができます。他方で、相手が異議を出すと通常訴訟へ移行します。したがって、相手があまり争ってこないと見込まれる売掛金回収には強いですが、最初から品質や契約内容で争う気配が濃い案件には、必ずしも最短ルートとは限りません。

では、どうやって選ぶのか。
実務では、次のように考えると整理しやすいです。
相手が請求そのものを認めているなら、まず交渉か支払督促。
相手との関係を残したい、あるいは条件調整の余地があるなら、交渉か調停。
相手が責任も金額も争い、証拠評価が必要なら、訴訟。
感情的対立が強く、当事者だけでは前に進まないが、判決より柔らかく終えたいなら、調停。
要するに、争点の重さ、関係維持の必要性、相手の争い方、欲しいゴールで選ぶべきで、手続の名前で選ぶべきではありません。これは裁判所が示す各手続の性質から導かれる実務上の整理です。

そのうえで、どの手段を選ぶにしても共通して重要なのは、証拠の束を先に作ることです。
契約書、注文書、見積書、メール、納品書、検収書、請求書、入金履歴、クレーム記録、解除通知、議事メモ。
これらが揃っていれば、交渉でも調停でも訴訟でも、こちらの立場をぶらさずに進められます。逆に、証拠がないまま強い手続に進むと、請求そのものが弱くなります。債務不履行に基づく損害賠償や強制履行を考えるなら、なおさらです。

結局のところ、業者間トラブルで大事なのは、
いきなり裁判を選ぶことではなく、
どの手段なら、自社にとっていちばん早く、いちばん実益のある形で終われるかを選ぶことです。

交渉で十分な事件に訴訟をぶつける必要はありません。
調停で柔らかく着地できる事件に、無理に勝敗をつける必要もありません。
逆に、訴訟でしか動かない事件を、だらだら交渉で引き延ばすのも得策ではありません。

中小企業法務では、勝つことだけでなく、回収できること、止血できること、関係を残せること、早く終われることも成果です。だからこそ、交渉・調停・訴訟は、感情で選ばず、目的で選ぶべきです。

まとめ

民事調停は、裁判所が間に入り、話合いで解決を図る手続で、売買や金銭貸借をめぐる紛争にも使えます。手続が簡単、費用が低額、非公開で進められ、比較的早く終わりやすく、成立すれば判決と同じ効果を持つと裁判所は案内しています。

民事訴訟は、裁判官が双方の主張と証拠を調べ、判決で解決する手続です。責任の有無や金額を法的に白黒つけたい事件、相手が請求を正面から争う事件に向いており、途中で和解することもできます。

支払督促は、金銭請求について書類審査 בלבדで進み、手数料が訴訟の半額で、相手が2週間以内に異議を出さなければ仮執行宣言を経て強制執行へ進めます。したがって、実務上は、関係維持や柔軟解決なら交渉・調停、白黒判断や争点固定なら訴訟、争いの薄い金銭回収なら支払督促という発想が基本になります。

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