第46講 会社経営者が亡くなったとき|自社株と事業承継の相続問題
第46講
会社経営者が亡くなったとき|自社株と事業承継の相続問題

会社経営者の相続が難しいのは、遺産の中に自社株が入ってくるからです。特に中小企業の非上場会社では、自社株は単なる財産ではなく、議決権・経営権そのものに近い意味を持ちます。中小企業庁も、後継者に自社株式を集中して承継させたいのに、相続紛争や遺留分の主張によって株式が分散すると、円滑な事業承継に大きなマイナスになると説明しています。
したがって、会社経営者の相続では、「誰がいくら相続するか」だけでは足りません。実際には、誰が会社を引き継ぐのかと、誰が株式を持つのかをできるだけ一致させる必要があります。中小企業庁も、親族内承継では自社株式や事業用資産を贈与・相続で移転する方法が一般的であり、資産の承継と経営の承継は密接に結び付いていると整理しています。
ここでまず問題になるのが、自社株の分散です。経営者が亡くなって複数の相続人に株式が散ると、議決権も散り、経営判断が不安定になります。中小企業庁の資料は、遺留分を侵害された相続人からの主張によって自社株式が分散し、円滑な事業承継にとって大きなマイナスになる場合があると明示しています。自社株は預金のように「何人かで分けて終わり」にしにくく、分けた瞬間に会社運営そのものが揺らぐことがあるのです。
次に問題になるのが、評価の難しさです。非上場株式には市場価格がないため、相続税評価も複雑です。国税庁は、「取引相場のない株式」の評価について、会社を大会社・中会社・小会社に区分し、原則として、大会社は類似業種比準方式、小会社は純資産価額方式、中会社はその併用で評価するとしています。つまり、自社株は「帳簿上これくらいだろう」という感覚では扱えず、会社規模や財務内容に応じた専門的評価が必要になります。
この評価の難しさは、遺産分割でも大きな火種になります。後継者側は「会社を守るために株を集中させたい」と考えやすく、他の相続人は「その株には経済価値がある以上、きちんと評価して調整してほしい」と考えやすいからです。しかも、自社株の価値が高いと、後継者が株式を取得したうえで他の相続人に代償金を払う負担も重くなります。非上場株式の評価が複雑であること自体が、この調整をさらに難しくしています。これは国税庁が非上場株式を別建てで詳細評価する仕組みを置いていることからも明らかです。
さらに、遺留分との衝突も大きな問題です。中小企業庁は、自社株を後継者に集中して承継させようとしても、他の相続人に遺留分があるため、そこから紛争や株式分散が生じ得ると説明しています。つまり、遺言で「全株式を長男に相続させる」と書いても、配偶者や他の子に遺留分があれば、原則として金銭請求の問題が残ります。現在の遺留分侵害額請求は金銭請求が原則ですが、それでも後継者側には資金負担が残るため、事業承継の設計としてはなお重い論点です。
そのため、自社株相続では、遺言だけでなく、生前対策まで含めて考える必要があります。中小企業庁は、民法の特例として、一定の場合に自社株式について遺留分算定の基礎財産に算入しない「除外合意」や、将来の株価上昇が遺留分に影響しない「固定合意」といった枠組みを紹介しています。少なくとも制度論として、自社株は通常の相続財産と同じ発想で放置せず、株式の集中承継を前提に早めの設計をするべきだ、という方向が示されています。
税務面では、法人版事業承継税制も重要です。国税庁は、円滑化法の認定を受けた非上場会社の株式等を後継者が相続や贈与で取得した場合、一定の要件のもとで相続税・贈与税の納税猶予や免除の制度があると説明しています。特例措置では、承継する株式に係る相続税等の100%が納税猶予の対象となり得る一方、特例承継計画の提出期限は2026年3月31日、適用対象となる相続等・贈与の期間は2027年12月31日までとされています。現在は2026年3月29日なので、特例承継計画の期限はかなり近い状態です。
もっとも、この税制は「使えば自動的に全部解決する」制度ではありません。国税庁も中小企業庁も、都道府県知事の認定や申告、継続要件など、複数の条件があることを前提に案内しています。したがって、自社株相続で税負担が重そうだからといって、後から慌てて調べるのではなく、相続前から事業承継税制の適用可能性を確認しておくことが重要です。
結局のところ、会社経営者の相続では、自社株は「財産」であると同時に「支配権」です。だから、普通の不動産相続以上に、株式を誰に集中させるか、他の相続人にどう調整するか、遺留分をどう考えるか、税負担をどう抑えるかを一体で考えなければなりません。自社株相続が難しいのは、評価が難しいからだけではなく、分け方を誤ると会社そのものが不安定になるからです。
第47講では、内縁・再婚・前妻の子がいる相続|家族関係が複雑な事案の基本を扱います。ここからは、法律上の家族関係と実際の家族感覚がずれやすい相続類型に入ります。
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