第30講 顧問弁護士は何をしてくれるのか|“問題が起きてから”では遅い理由

第30講 顧問弁護士は何をしてくれるのか|“問題が起きてから”では遅い理由

「弁護士は、裁判になってから頼むもの。」
中小企業では、まだこの感覚がかなり強く残っています。もっとも、日本弁護士連合会は、顧問弁護士を、契約した企業のために法律上のアドバイスやサポートを継続的に提供する弁護士だと説明しており、そのメリットとして、企業の事情に合わせた法務サービスを受けやすいことを挙げています。さらに日弁連は、2023年の決議で、中小企業向けには訴訟・調停だけでなく、紛争予防のための法的サービスがまだ十分に行き渡っていないことを課題として明示しています。つまり、顧問弁護士の本質は「争いが起きた後の代理人」だけではなく、争いが起きる前から会社に伴走する外部法務部門に近いものです。

実際、中小企業が弁護士に相談しやすいテーマは、裁判だけに限りません。日弁連の資料では、雇用問題、債権回収、契約内容の相談や契約書作成、社内規程の策定・法令遵守のルール整備、経営改善や資金繰り、事業承継などが挙げられています。つまり、顧問弁護士が関わる場面は、売掛金回収や紛争対応だけでなく、就業規則、ハラスメント対応、取引基本契約、経営権紛争、承継・M&Aまでかなり広いです。第1講から第29講までで扱ってきた論点の多くは、本来は「事件化してから」ではなく、「顧問として平時に点検しておく」ことで被害を小さくできる分野だといえます。

では、顧問弁護士は具体的に何をしてくれるのか。
いちばん基本なのは、契約・取引の入口で止めることです。契約書のチェック、発注書・請書だけで回している取引の危険箇所の洗い出し、解除条項や損害賠償条項の調整、保証や支払条件の設計などです。民法上、債務不履行があれば損害賠償や解除が問題になり、損害の範囲も通常損害・特別損害で整理されます。だからこそ、問題が起きてから条文を探すのではなく、契約段階で「どこが争点になりそうか」を先に潰すのが、顧問弁護士の重要な役割になります。

二つ目は、人事労務の火種を大きくしないことです。厚生労働省のハラスメント対策ページでは、相談窓口には内部窓口と外部窓口があり、外部窓口の例として弁護士事務所等が挙げられています。また、相談窓口には、相談者の秘密が守られることや不利益取扱いを受けないこと、どう対応するかを明確にしておく必要があるとされています。中小企業では、問題社員対応、ハラスメント相談、内部通報を、現場の上司や社長だけで抱え込むと、事実確認も手続も崩れやすいです。顧問弁護士がいると、**「処分する前に何を記録すべきか」「どこまで聞くべきか」「どの段階で会社として線を引くべきか」**を、比較的早い段階で整理できます。

三つ目は、内部通報やコンプライアンスの逃げ道を作ることです。消費者庁のQ&Aでは、外部の弁護士等を配置した内部公益通報受付窓口は必須ではないものの、組織の長その他幹部からの独立性を確保する方法の一環として設置することが考えられるとされています。また、外部弁護士に窓口業務を委託し、通報者を特定させる事項を扱う場合には、その弁護士等を「従事者」として定める必要があることも示されています。つまり顧問弁護士は、単に「相談されたら答える人」ではなく、社内で言いにくい問題を会社が受け止めるための制度設計にも関われます。

四つ目は、経営判断の速度を上げることです。日弁連の創業向け解説でも、早めに弁護士へ相談することで、修正コストが低いうちに軌道修正できるとされています。これは創業に限りません。新しい取引スキーム、役員構成の見直し、社内ルール変更、取引先トラブル、SNS炎上対応、価格転嫁交渉、M&Aの入口などは、いずれも「まずやってしまってから法律確認」だと傷が深くなりがちです。顧問弁護士がいる会社は、完全な答えを最初からもらうというより、危ない動きをする前に“これで進めてよいか”を一段挟める点に大きな意味があります。

五つ目は、会社の事情を知っていること自体が価値になる点です。日弁連は、顧問弁護士のメリットとして、契約した企業の事情に合わせて最も適した法務サービスを受けやすいことを挙げています。単発相談では、その都度、事業内容、取引構造、社内体制、過去の経緯、関係者図を一から説明しなければなりません。これに対し、顧問弁護士は、会社の規模、業界、意思決定の癖、取引先との力関係、社長の判断傾向を前提に助言できます。中小企業法務では、条文知識だけでなく、その会社で本当に回る助言かどうかが重要なので、この差はかなり大きいです。

もっとも、ここで誤解してはいけないのは、顧問契約を結べば何でも月額で全部やってくれるわけではないということです。日弁連の顧問料アンケート解説では、月額顧問料の範囲は業務内容によって意味が異なり、範囲内の業務や、範囲を超える場合の扱いについては、顧問契約書を作成して確認すべきだとされています。つまり、顧問弁護士を持つうえで大事なのは、「顧問か否か」の二択ではなく、どこまでが平時対応で、どこからが個別事件対応なのかを最初に明確にしておくことです。ここが曖昧だと、いざ大きな問題が起きたときに「そこまで入っていると思っていた」という食い違いが起きやすくなります。

では、なぜ「問題が起きてからでは遅い」のか。
理由は単純で、法律問題の多くは、起きた瞬間より、起きる前の設計と、起きた直後の初動で差がつくからです。契約トラブルなら証拠の残し方、労務問題なら注意指導と記録、ハラスメントなら窓口設計と事実確認、売掛金なら督促の順番と保全、事業承継なら株式集中と遺留分対策、M&AならDDと最終契約です。日弁連が「紛争予防のための法的サービス」がなお不十分だと指摘しているのは、裏返せば、予防段階で弁護士が入る意味が大きいからです。

結局のところ、顧問弁護士は、会社に代わって何でも判断する人ではありません。
会社が危ない判断をする前に止める人であり、
揉め方が大きくなる前に整理する人であり、
事件になったときも、会社の前提を知ったうえで動ける人です。

中小企業では、専任の法務担当を置けないことも少なくありません。だからこそ、顧問弁護士の価値は、「裁判になったら頼れる」こと以上に、法務部門を社外に持つことにあります。“問題が起きてから”では、どうしても防げないコストがあります。顧問弁護士の本当の役割は、そのコストを前段階で小さくすることにあります。

まとめ

顧問弁護士とは、契約した企業に対し、法律上のアドバイスやサポートを継続的に提供する弁護士です。日弁連は、そのメリットとして、企業の事情に合わせた法務サービスを受けやすいことを挙げています。

中小企業の法務ニーズは、雇用問題、債権回収、契約書、社内規程、経営改善、事業承継など広く、日弁連も、訴訟・調停以外の紛争予防型サービスがまだ十分に行き渡っていないことを課題としています。顧問弁護士は、契約・労務・通報体制・経営判断の初動に関わることで、問題を「事件化する前」に小さくできる可能性があります。

もっとも、顧問料の範囲は契約内容によって異なるため、どこまでが顧問業務で、どこからが別途対応になるのかは事前確認が必要です。したがって、顧問弁護士を持つ意味は、「何かあったら頼める」ことだけではなく、平時から社外法務部門を持ち、修正コストが低いうちに軌道修正できることにあります。

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