第4講 離婚理由になるのはどんな場合か|不貞・DV・悪意の遺棄・性格不一致

第4講 離婚理由になるのはどんな場合か|不貞・DV・悪意の遺棄・性格不一致

離婚の相談では、「もう無理です」「気持ちは完全に離れています」「一緒に暮らせません」という言葉がよく出てきます。
もっとも、法律の世界では、「離婚したい理由」と「裁判で離婚が認められる理由」は、必ずしも同じではありません。特に、話し合いでまとまらず裁判まで進む場合には、民法上の離婚原因に当たるかどうかが問題になります。家庭裁判所・裁判所の離婚訴訟案内でも、訴状には民法770条1項のどの離婚事由に基づく請求なのかを明記するよう求められています。

つまり、離婚問題では、「つらい」「限界だ」という気持ち自体はもちろん重要なのですが、裁判の場面では、それをどのような事実で支えるのかが問われます。
第4講では、離婚理由として問題になりやすい 不貞、DV、悪意の遺棄、性格不一致 を中心に、法律上どのように整理されるのかを見ていきます。

1 裁判離婚では、民法770条1項の離婚事由が出発点になる

現時点、すなわち2026年3月28日現在の民法770条1項では、裁判上の離婚事由として、①配偶者に不貞な行為があったとき、②配偶者から悪意で遺棄されたとき、③配偶者の生死が3年以上明らかでないとき、④配偶者が強度の精神病にかかり回復の見込みがないとき、⑤その他婚姻を継続し難い重大な事由があるとき、という枠組みが置かれています。裁判所の訴状チェック表等でも、どの号に当たるかを明示する前提で運用されています。

もっとも、2026年4月1日施行の改正法では、子の養育に関する家族法制の見直しとあわせて、このうち旧4号の「強度の精神病」条項は削除される予定です。法務省の改正概要資料は、改正法が令和8年4月1日に施行されることを示しており、法制審議会関係資料でも、精神病離婚という独立事由が改正で削除に至る旨が説明されています。したがって、この第4講は2026年3月末時点の現行法を前提にしつつ、4月以降は条文構造が変わることも念頭に置いておく必要があります。

実務上いちばん重要なのは、結局のところ5号の**「婚姻を継続し難い重大な事由」**です。
不貞やDVのように典型的な事情がある事件でも、最終的には婚姻関係がどこまで破綻しているか、共同生活の回復可能性があるのか、別居がどの程度続いているかといった事情が重ねて見られることが少なくありません。最高裁判例でも、長期別居により夫婦としての共同生活の実体を欠き、その回復の見込みがない状態を「婚姻生活を継続し難い重大な事由」と評価しています。

2 不貞は典型的な離婚原因である

不貞行為は、民法770条1項1号に明記された、最も典型的な離婚原因の一つです。
ここでいう不貞は、一般に、配偶者以外の者と自由な意思に基づいて肉体関係を持つことを意味する方向で理解されています。したがって、単なる好意、親密なメッセージのやり取り、二人で会ったという事情だけでは、それだけで直ちに1号の不貞を基礎づけるとは限りませんが、肉体関係を推認させる事情が積み重なれば、離婚原因にも慰謝料請求にもつながり得ます。裁判所も、相手方の不貞行為が原因で離婚しようと考えている場合には、離婚調停の中で慰謝料を含めて話し合うことができると案内しています。

ここで大切なのは、不貞があったら自動的にすべてが決まるわけではないという点です。
不貞の有無そのものが争われることもありますし、不貞があっても、別居の時期、婚姻関係の実質、既に破綻していたかどうか、証拠の強さなどによって見通しは変わります。ですから、不貞の相談では、「怪しい」「たぶんそうだ」という感覚だけではなく、メッセージ、写真、宿泊記録、利用履歴など、どこまで具体的に裏づけられるかが極めて重要になります。

3 DVは明文の号ではなくても、離婚原因として非常に重要である

DVは、民法770条1項に「DV」という言葉で独立列挙されているわけではありません。
しかし、実務上は、暴力、脅迫、威圧、継続的な支配、著しい人格否定などは、5号の「婚姻を継続し難い重大な事由」に当たり得る重要な事情です。法制審議会の家族法制部会でも、5号に該当し得る具体例として、DV、浪費、家庭を顧みないこと、生活の不一致などが言及されています。

また、DVの場面では、離婚原因の有無だけではなく、まず安全確保が先に来ます。
内閣府はDV相談ナビやDV相談+を案内しており、警察もDVやストーカー等は早期の相談が重要だとしています。さらに、2026年4月1日施行の改正法関係資料でも、DVや虐待からの避難のために子とともに転居する必要がある場合には、父母相互の協力義務違反にはならないと整理されています。したがって、DV事件では「いきなり離婚を切り出すか」よりも、「安全に離れられるか」「記録を残せるか」の方が先に問題になります。

4 悪意の遺棄とは、単なる別居とは違う

民法770条1項2号の「悪意の遺棄」は、言葉だけ見ると少し分かりにくい離婚原因です。
これは一般に、夫婦として負う同居・協力・扶助の義務に反して、正当な理由なく相手を見捨てるような行為を指す方向で整理されます。法務省の資料でも、「悪意の遺棄」の意義が民法770条1項2号との関係で検討されています。

重要なのは、別居=悪意の遺棄ではないということです。
たとえば、DVから避難するための別居や、婚姻関係が既に破綻していて冷静に距離を置くための別居は、それだけで直ちに「悪意の遺棄」とは言いにくいことがあります。反対に、生活費を一切渡さずに家を出る、病気の配偶者を放置する、扶養を尽くさず一方的に切り離すといった事情があれば、2号が問題となり得ます。離婚実務では、条文名よりも、何をしなかったのか、どこまで見捨てたのかという具体的な生活実態で考える方が分かりやすいです。

5 「性格不一致」は魔法の言葉ではない

離婚相談で最もよく聞く言葉の一つが「性格の不一致」です。
ただし、これは民法770条1項にそのまま書かれている離婚原因ではありません。条文上は、性格不一致という独立の号はなく、裁判で問題になるとすれば、最終的には5号の「婚姻を継続し難い重大な事由」に達しているかどうかの話になります。これは、770条1項の列挙内容そのものから導ける整理です。

したがって、「性格が合わない」と言うだけで当然に裁判離婚が認められるわけではありません。
実際には、価値観の対立が長期間続いた、会話が断絶している、別居が継続している、暴言や無関心が積み重なっている、共同生活の回復見込みがないといった具体的事情の積み重ねが必要になります。裁判例でも、「性格の不一致」を含む経過や長期の疎遠状態が、婚姻関係破綻の有無の中で検討されています。

言い換えると、性格不一致は出発点にはなっても、ゴールではありません。
裁判所が見ているのは、「仲が悪いか」ではなく、夫婦としての共同生活が法的に見てもう維持できない状態に至っているかです。ですから、性格不一致を理由に離婚を考える場合でも、別居の有無、生活実態、話合いの経過、子どもへの影響などを含めて整理する必要があります。

6 離婚理由は一つに限られない

実際の事件では、離婚理由が一つだけということはあまり多くありません。
不貞があり、その後に長期別居が続いている、DVやモラハラがあり、生活費も止められている、親族関係の不和や浪費が重なって婚姻生活が破綻している、といった具合に、複数の事情が重なって離婚事件になります。法制審議会の議論でも、5号の中にはDV、浪費、家庭を顧みないこと、性生活・生活の不一致、親族の不和など多様な事情が入り得ると整理されています。

そのため、相談の場面でも、「一番悪いのはどれですか」と一点に絞り過ぎない方がよいことがあります。
むしろ、いつから何が起きて、何が重なり、今どのような生活状態になっているのかを時系列で整理した方が、離婚原因の見通しも、慰謝料や親権・婚姻費用の見通しも立てやすくなります。裁判所の離婚訴訟案内でも、離婚原因に必要な範囲で事実関係を整理して記載するよう求めています。

7 話し合いで離婚する場合と、裁判で争う場合は景色が違う

ここで注意したいのは、離婚の大半は、最終的には協議や調停で決着するということです。
その場合には、厳密な意味で「裁判で770条1項に当たるか」まで争わずに、双方の合意で離婚が成立することがあります。つまり、現実には、「法的には微妙だが、もう一緒にやれないから条件を整えて離婚する」という解決も珍しくありません。法務省の実態調査でも、離婚には協議離婚のほか調停離婚・判決離婚等があることが前提にされています。

しかし、相手が離婚に応じない場合や、親権・財産分与・慰謝料で強く対立する場合には、やはり最終的には裁判で通る論理が重要になります。
したがって、離婚理由の整理は、「裁判になるかもしれない」という前提で一度は考えておいた方が安全です。話し合いで終わるにしても、法的な見通しがある側の方が、交渉でも安定しやすいからです。

8 結局、裁判所が見ているのは「婚姻の回復可能性」である

不貞、DV、悪意の遺棄、性格不一致といった言葉は分かりやすいのですが、裁判所が最終的に見ているのは、婚姻関係が本当に壊れていて、回復の見込みがあるのかないのかという点です。
最高裁判例も、夫婦としての共同生活の実体を欠き、その回復の見込みがない状態に至ったことを、770条1項5号の該当性判断で重視しています。

その意味では、離婚理由の議論は、過去の出来事の品評会ではありません。
何があったかを確かめるだけでなく、それによって現在の婚姻生活がどこまで壊れているのか、今後修復可能性があるのかを示すための議論です。別居の長さ、連絡の断絶、感情的対立、子どもを含む生活の分離、生活費の扱いなども、この文脈で意味を持ってきます。

9 まとめ

第4講のまとめとして押さえておきたいのは、次の点です。
まず、裁判離婚では、民法770条1項の離婚事由が出発点になること。次に、不貞は典型的な離婚原因であり、DVやモラハラは5号の重大事由として重要になり得ること。悪意の遺棄は単なる別居とは異なり、扶助義務を正当な理由なく放棄するような事情が問題になること。そして、性格不一致は独立の法定事由ではなく、具体的事情の積み重ねによって5号に達するかが問題になることです。なお、2026年4月1日からは改正法が施行され、旧4号の「強度の精神病」条項は削除されます。

離婚理由は、感情の強さだけで決まるものではありません。
しかし、反対に、条文の言葉だけで機械的に決まるものでもありません。実際には、日々の生活実態、別居の経過、証拠の有無、子どもの状況、相手との関係の変化などを総合して見ていくことになります。だからこそ、「何がつらいか」だけでなく、「何が起きたか」を記録し、整理しておくことが大切です。

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