第6講 DV・モラハラと離婚|身の安全を確保しながら進める方法

第6講 DV・モラハラと離婚|身の安全を確保しながら進める方法

DVやモラハラがある離婚では、普通の離婚事件と同じ発想で進めない方がよい場面が少なくありません。
財産分与や慰謝料の話ももちろん重要ですが、それより先に考えなければならないのは、安全に離れられるか、居場所を守れるか、相手に知られず相談や申立てができるかという点です。内閣府はDVを「配偶者や恋人など親密な関係にある、又はあった者から振るわれる暴力」という意味で用い、身体的暴力だけでなく、精神的・性的・経済的暴力も支援情報の中で整理しています。

第6講では、DV・モラハラがある事案で、離婚条件の前にまず何を優先するべきかを整理します。
結論からいえば、この場面では、①安全確保、②相談、③記録化、④必要に応じた保護命令、⑤その後に離婚協議・調停という順番を強く意識した方が安全です。警察庁は、DVを含むこうした事案は加害者の執着や支配意識が強く、重大事件に発展するおそれがあるため、早期対応が決め手であり、できる限り速やかに警察へ相談するよう案内しています。

1 モラハラは法律用語ではないが、軽い問題ではない

「モラハラ」という言葉は日常ではよく使われますが、法律にそのまま「モラハラ」という条文があるわけではありません。
もっとも、だからといって法的に弱いという意味ではありません。内閣府はDVの形態として、身体的暴力だけでなく、精神的暴力、性的暴力、経済的暴力を整理しており、「大声でどなる」「何を言っても無視する」「人前でばかにする」「生活費を渡さない」「働くことを制限する」「子どもに危害を加えると言って脅す」などを具体例として挙げています。実務上、「モラハラ」と呼ばれているものの多くは、この精神的暴力や経済的暴力の中に位置付けて考えることになります。

したがって、DV・モラハラ事案では、「殴られていないから弱い」「診断書がないと無理だ」と早くから諦める必要はありません。
もちろん、身体的暴力があれば分かりやすいのですが、継続的な威圧、人格否定、監視、経済的締め付け、子どもを使った脅しも、離婚原因、慰謝料、親権・監護、保護命令の前提事情として重要な意味を持ち得ます。内閣府も、DVには精神的・経済的・性的な形態があることを明確に示しています。

2 この場面で最優先なのは「説得」ではなく「安全」である

DVや強いモラハラがある相手に対して、「落ち着いて話せば分かるはずだ」と考えるのは危険なことがあります。
警察庁は、こうした事案は急展開して重大事件に発展するおそれが大きいとし、早めの相談を促しています。また、内閣府も、被害者が「逃げたら殺されるかもしれない」という恐怖から動けなくなることがあると説明しています。つまり、被害者がすぐに離れられないのは珍しいことではなく、まずはその危険認識を持つことが大切です。

そのため、いきなり離婚を切り出すこと、証拠が十分でない段階で真正面から責めること、逃げ先を決めないまま家を出ることは、場合によっては危険を高めます。
この種の事件では、相手の反応を読み違えないことが大切で、まずは安全に相談できる場所、安全に泊まれる場所、安全に連絡を取れる手段を確保する方が先です。配偶者暴力相談支援センターは、相談、カウンセリング、一時保護、施設利用の援助、保護命令制度の利用援助などを行うとされています。

3 相談先は一つに限られない

DV・モラハラの相談は、弁護士だけに限りません。
内閣府は、配偶者暴力相談支援センターがDV全般の相談窓口であり、相談機関の紹介、カウンセリング、緊急時の安全確保や一時保護、自立支援、保護命令制度利用の援助を行うと案内しています。また、全国共通短縮ダイヤル**#8008**で最寄りの配偶者暴力相談支援センターにつながるとしています。

また、女性相談支援センターの全国共通短縮ダイヤル**#8778でも相談支援が案内されており、警察庁の被害者支援ポータルでも、女性相談支援センターがDV被害者に対し、心身の回復支援、自立支援、保護命令制度利用支援、保護施設利用支援を行うと紹介されています。緊急ではない警察相談は#9110**、事件・事故に関する緊急通報は110番と警察庁は案内しています。

つまり、DV事案では、
「弁護士に行く前に支援センター」
「支援センターと並行して警察」
「安全確保の後に弁護士」
という動き方も十分あり得ます。
特に、すぐに避難が必要かどうか、自宅に戻ってよいかどうか、子どもをどう連れて動くかは、支援機関との連携が役に立つことが多いです。配偶者暴力相談支援センターは、一時保護や施設利用の援助まで制度上予定されています。

4 記録は「きれいな証拠」より「継続した記録」が大切である

DVやモラハラでは、録音や診断書のような分かりやすい証拠があると強いのは確かです。
ただ、いつもそれが最初から揃うわけではありません。そこで重要なのが、継続的な記録です。いつ、どこで、何を言われたか、どのように脅されたか、何を壊されたか、生活費をいくら渡されなかったか、子どもの前でどういう言動があったかを、日付付きで残していくことに意味があります。内閣府が挙げる精神的・経済的DVの具体例とも照合しやすくなります。

たとえば、
LINEやメールの保存、
暴言の録音、
怪我や壊された物の写真、
通院記録、診断書、
生活費不払いを示す通帳や家計メモ、
学校や保育園への影響の記録、
こうしたものは単体では小さく見えても、積み上がると全体像を強く支えます。DVは身体的暴力だけではなく、精神的・経済的な形でも現れると公的機関自身が整理している以上、その実態を継続的に示すことが重要です。

5 子どもがいる場合は、親への暴力だけで見ない

DV事案で見落としてはいけないのが、子どもへの影響です。
内閣府は、DVと児童虐待の関係についても情報提供をしており、DVには身体的・精神的・性的・経済的暴力があると整理しています。警察庁の被害者支援ポータルでも、児童相談所が虐待等のこどもに関する相談に応じ、また少年相談窓口や学校の相談体制も案内されています。

さらに、2026年4月1日施行の改正法では、父母は婚姻関係の有無にかかわらず子どもを養育する責務を負い、子どもの人格を尊重し、その意見に耳を傾けること、父母は子どもの利益のため互いに人格を尊重し協力すべきことが明確化されます。また、DVや虐待のおそれがあり共同して親権を行うことが困難なときなどには、家庭裁判所は単独親権を定めることとされています。DVからの避難のために子どもと転居する必要がある場合は、こうした協力義務違反にはならないと法務省は説明しています。

このため、子どもがいるDV事案では、
「子どもの前で怒鳴る」
「子どもを使って脅す」
「子どもを連れ戻すと言う」
「面会交流を口実に接触してくる」
といった事情まで含めて整理する必要があります。
親への暴力だけでなく、子どもの生活と安全がどう脅かされているかも、非常に重要です。

6 保護命令は「かなり危ない場面」で使う制度である

DV事案では、保護命令が使えるかどうかが大きな分岐になります。
裁判所によれば、保護命令制度は、配偶者や生活の本拠を共にする交際相手からの身体に対する暴力等を防ぐため、裁判所が加害者に対して被害者へのつきまとい等を禁じる命令です。対象となるのは、配偶者、事実婚の相手、元配偶者、生活の本拠を共にする交際相手などで、一定の場合には関係解消後も申立てが可能です。

保護命令には、
申立人への接近禁止命令、
電話等禁止命令、
子への接近禁止命令、
子への電話等禁止命令、
親族等への接近禁止命令、
退去等命令、
の6種類があります。接近禁止命令は1年間、退去等命令は通常2か月間で、建物の所有者または賃借人が申立人のみの場合には申立てにより6か月間となります。保護命令に違反した場合、裁判所は2年以下の拘禁刑または200万円以下の罰金と説明しています。

また、電話等禁止命令では、無言電話、連続した電話・メール・SNS送信、深夜早朝の送信、名誉を害する告知、性的羞恥心を害する告知、GPSによる位置情報取得等まで禁止対象に含まれます。現代のDVでは監視と執着が問題になりやすいので、この点は実務上かなり重要です。

7 保護命令を使う前に、事前相談の要件を意識する

保護命令は、思い立ったその日に何もなしで使えるわけではありません。
裁判所は、保護命令の申立て前に、相手方から暴力を受けた状況などについて、配偶者暴力相談支援センターまたは警察署にあらかじめ相談しておくよう案内しています。これらへの事前相談をしていない場合には、公証役場で宣誓供述書を作成してもらう必要があるとされています。

この点はかなり大事です。
DV事案では「いつか裁判所に言えばいい」と思いがちですが、保護命令を視野に入れるなら、早めに支援センターか警察に相談しておく方が後の選択肢が広がります。特に子への接近禁止命令や親族等への接近禁止命令を求めたい場合には、その必要性も相談段階で申述しておく必要があると裁判所は案内しています。

8 住所を知られたくないときは、書面の書き方自体に注意がいる

DV事案では、家を出られたとしても、住所が相手に知られてしまうと危険が続きます。
裁判所の保護命令Q&Aでも、申立書は相手方に見られるため、相手方に知られたくない住居所は申立書に記載せず、相手方に知られている住所や同居時住所を記載するよう案内しています。また、裁判所に提出する他の書類にも、知られたくない住居所やそれが分かる事項を書かないよう注意喚起しています。

これは保護命令に限らず、離婚調停や関連手続全体でも非常に重要な感覚です。
DV事案では、単に「何を請求するか」だけではなく、どの書面に何を書くか、どこまで相手に開示されるかまで考える必要があります。安全確保の視点が、最初から最後まで必要になります。

9 離婚は急いでもよいが、手順は雑にしない方がよい

DVやモラハラがあると、「とにかく今すぐ離婚したい」と思うのは自然です。
ただ、法的には、離婚届を先に出してしまうことが最善とは限りません。先に安全を確保し、別居を安定させ、婚姻費用や子どもの生活の見通しを立て、必要なら保護命令や警察相談を組み合わせた方が、結果として安定することが多いです。裁判所も、保護命令の申立てが受理されると、当日または速やかに申立人本人や代理人と面接し、その後の審理を進めると説明しています。状況が切迫しているときには、相手方の審尋期日等を経ずに発令されることもあるとされています。

つまり、DV事案では、離婚そのものより先に打つべき手があることがあります。
「離婚するかどうか」より、まず「今日安全か」「明日安全か」「来週も居場所を守れるか」を優先した方がよい事件が確実にあります。これは通常の離婚事件との大きな違いです。

10 まとめ

第6講のまとめです。
DV・モラハラがある離婚では、最優先は条件交渉ではなく安全確保です。DVは身体的暴力だけでなく、精神的・性的・経済的暴力も含めて理解されており、モラハラと呼ばれる問題の多くもこの中で整理できます。相談先としては、#8008の配偶者暴力相談支援センター、#8778の女性相談支援センター、緊急でない警察相談の**#9110**、緊急時の110番があり、支援機関は一時保護や保護命令利用援助も担っています。保護命令には接近禁止、電話等禁止、子や親族への接近禁止、退去等命令があり、事前に支援センターや警察への相談が求められる点、住所秘匿に配慮した書面作成が必要な点も重要です。

DV・モラハラ事案では、我慢強さが有利に働くとは限りません。
むしろ、早めに外へつなぎ、記録を残し、安全と生活を固めた人の方が、その後の離婚協議や調停を安定して進めやすいことが多いです。離婚を進めること自体より、安全に進めることを先に考える。これがこの場面の基本です。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

CAPTCHA