第14講 養育費はいくらになるのか|算定表の見方と増額・減額の考え方
第14講 養育費はいくらになるのか|算定表の見方と増額・減額の考え方

養育費は、離婚後に最も現実的に効いてくる問題の一つです。
感情的には親権や面会交流に意識が向きやすいのですが、実際の生活では、毎月いくらを、いつから、どのように支払うのかが極めて重要です。裁判所は、父母が離婚した場合でも、双方がその経済力に応じて子どもの養育費を分担すると案内しています。話合いがまとまらない場合は家庭裁判所に養育費請求調停・審判を申し立てることができ、調停が不成立になれば審判に移ります。
この回で押さえたいのは、養育費の額は感覚で決まるのではなく、まず算定表を使って大まかな目安を出し、そのうえで個別事情で調整していく、という流れです。裁判所は、養育費の調停・審判では目安として算定表が一般に参照され、個別事情も考慮して具体的な額が検討されると説明しています。
1 養育費は「子どもの生活費」を分担するもの
養育費は、離婚した元配偶者のためのお金ではなく、子どものための費用です。
裁判所は、子どもを扶養する義務は両親にあり、離婚後も双方がその経済力に応じて養育費を分担するとしています。したがって、支払う側にとっては「相手に渡す金」、受け取る側にとっては「自分の取り分」という発想ではなく、子どもの生活を支える分担金として考えるのが基本です。
この点は、2026年4月1日以降の改正説明でもより明確で、裁判所は「父母は、親権や婚姻関係の有無にかかわらず、子どもを扶養する責務を負う」と案内しています。もっとも、2026年3月28日現在で離婚する事案には、まだ従来の運用が前提です。
2 まずは算定表で「標準的な目安」を見る
養育費の額を考えるとき、裁判所実務でまず参照されるのが算定表です。
裁判所のQ&Aは、算定表を「両親双方の収入額と子の年齢・人数に応じ,標準的な養育費の額の目安を算出するもの」と説明し、現在用いられている算定表は平成30年度司法研究を踏まえた令和元年版だとしています。養育費の表は表1〜9です。
つまり、養育費は最初から完全自由に決めるのではなく、まず標準的なレンジを見て、そこから個別事情で上げ下げする、というのが基本です。
「うちは特別だから算定表は全く関係ない」というより、まず算定表に当て、その後に特別事情を論じる方が実務に合っています。
3 算定表の読み方
算定表は、縦軸が支払う側(義務者)、横軸が受け取る側(権利者)の年収です。
裁判所のQ&Aは、横軸が養育費をもらう側の年収、縦軸が支払う側の年収を示すと明記しています。そこに当事者双方の年収を当てはめると、標準的な月額のレンジが示されます。なお、表示される金額は子ども全員分の合計額です。
子どもの人数と年齢で表を選ぶ点も重要です。
裁判所は、養育費の算定表は表1〜9で、子の人数と年齢に対応した表を使うよう案内しています。したがって、子が1人か2人か、0〜14歳か15歳以上かで、使う表そのものが変わります。
4 給与所得者と自営業者では「年収」の見方が違う
算定表で意外に誤解が多いのが、年収の読み方です。
裁判所のQ&Aによれば、給与所得者は外側の目盛りに、源泉徴収票の**「支払金額」を当てはめます。これは税金や社会保険料が引かれる前の金額です。これに対し、自営業者は内側の目盛りに、確定申告書の「課税される所得金額」**へ、基礎控除や青色申告控除など、実際には支出されていない費用を加算した金額を当てはめるとされています。
この違いがあるため、会社員と自営業者を同じ感覚で比べるとずれます。
実務では、「手取り感覚」ではなく、裁判所資料に沿ってどの数字を年収欄に入れるかが重要です。
5 算定表は便利だが、絶対ではない
算定表は非常に便利ですが、あくまで標準的な目安です。
裁判所は、調停・審判においては算定表の額を参照しつつ、個別事情も考慮して具体的な養育費額が検討されることが一般的だとしています。つまり、算定表どおりで必ず決まるわけではありません。
ここでいう個別事情には、たとえば子どもの進学、医療費、父母双方の収入の大きな変動、再婚による扶養家族の変化などが入ってきます。裁判所は、事情変更の例として再婚や子どもの進学を挙げています。
6 増額が問題になりやすい場面
養育費の増額が問題になりやすいのは、子どもにかかる費用が当初想定より増えたときです。
裁判所は、一度決まった養育費でも、その後に事情の変更があった場合には額の変更を求める調停や審判を申し立てることができるとしています。例として、子どもの進学や、収入の変動、再婚などが示されています。
実務感覚としては、進学費用の増加、教育費の増大、医療費の増加、受け取る側の収入低下などは、増額方向の事情として主張されやすいです。
ただし、どこまで反映されるかは一律ではなく、結局は収入資料や子どもの費用資料を踏まえて判断されます。裁判所も、養育費がどのくらいかかっているのか、双方の収入がどのくらいかを把握して話合い・審判を進めるとしています。
7 減額が問題になりやすい場面
反対に、減額が問題になりやすいのは、支払う側の収入が大きく下がった場合や、扶養家族が増えた場合などです。
裁判所は、事情変更があれば増額だけでなく減額も求められると案内しており、公式の養育費手続ページでも、予定していなかった収入の変動、子どもの進学、再婚などの事情変更があった場合は増額や減額を求めることができるとしています。
ただし、単に「苦しいから払えない」と言うだけでは足りません。
減額を求めるなら、収入がどれだけ変わったのか、再婚や新たな扶養家族の増加がどう家計に影響するのかを、源泉徴収票、給与明細、確定申告書などで具体的に示す必要があります。裁判所も、申立ての標準的添付書類として、申立人の収入資料の提出を求めています。
8 話合いで決めてもよいが、記録は残した方がよい
養育費は、必ずしも裁判所で決めなければならないわけではありません。
裁判所のQ&Aでも、当事者同士で話し合って取り決め、それに従って支払われるなら、裁判所手続を利用しなくても問題はないとされています。
ただ、実務では、払われなくなったときの備えまで考えておく必要があります。
裁判所は、当事者間合意でも、公正証書や特定和解で金額や支払時期を具体的に定めておけば強制執行が可能だと案内していますし、調停で決めた場合には履行勧告や強制執行も視野に入ります。
9 払われないときはどうするか
養育費は、決めた後の回収も大事です。
裁判所は、調停・審判・人事訴訟で決まった養育費が支払われない場合、家庭裁判所に履行勧告を申し出ることができるとしています。履行勧告は費用がかからず、電話でも申し出られますが、支払を強制する制度ではありません。
そのため、相手がなお支払わない場合には、地方裁判所での強制執行が問題になります。
裁判所は、調停成立や確定審判で定められた養育費について、支払がなければ強制執行が可能だと案内しています。
10 2026年4月1日からの「法定養育費」は別に理解した方がよい
ここは時期的にかなり重要です。
裁判所の現行サイトには、2026年4月1日以降の新ルールとして、離婚または認知が同日以降の場合、まだ父母間で養育費の取決めをしていない段階でも、未成年の子を主として監護している父母は、他方に対して子1人当たり月額2万円の支払を請求できるとあります。これが法定養育費です。
ただし、裁判所は、法定養育費は暫定的・補充的なものであり、父母の協議や家庭裁判所手続で定める養育費額の基準や標準になるものではないと明記しています。
つまり、2026年4月1日以降に離婚する事案では、「とりあえず2万円」という仮の支えはあり得ますが、本来は収入や事情に応じた適正額を別途きちんと決めるべき、ということです。なお、2026年4月1日より前に離婚した場合には法定養育費は発生しません。
11 まとめ
第14講のまとめです。
養育費は、離婚後も両親がその経済力に応じて子どもの生活費を分担する制度です。額を決めるときは、まず裁判所実務で用いられている**算定表(表1〜9)を使い、子どもの人数・年齢と、双方の年収を当てはめて標準的な月額を見ます。算定表では、縦軸が支払う側、横軸が受け取る側で、給与所得者と自営業者では年収の見方が異なります。もっとも、算定表は絶対ではなく、進学、再婚、収入変動などの個別事情で増額・減額があり得ます。話合いがまとまらなければ調停・審判を使い、未払い時には履行勧告や強制執行が問題になります。さらに、2026年4月1日以降の離婚等については、暫定的・補充的な法定養育費(月額2万円/子1人)**の仕組みが導入されます。