第13講 会社を二つに割らずに終われるか|和解・株式買取・退場設計の実務
第13講 会社を二つに割らずに終われるか|和解・株式買取・退場設計の実務

会社支配権紛争は、最後まで「勝つか負けるか」の戦いとして走ることもありますが、実務では、誰かが会社に残り、誰かが株式と引き換えに退場するという形で終わる方が、会社にとっても当事者にとっても傷が浅いことが少なくありません。会社法は、そのための素材をいくつも持っています。自己株式の取得という会社側の出口があり、譲渡制限株式の承認・不承認と会社又は指定買取人による買取りの流れがあり、相続で入ってきた者に対する売渡請求もあり、さらに一定の組織再編や定款変更の場面では反対株主の株式買取請求も用意されています。つまり、支配権紛争の終わらせ方は、和解のセンスだけでなく、どの条文を出口として使うかでかなり変わります。
まず、いちばん素直な終わり方は、相手方または第三者が株式を買い取って退場してもらう形です。もっとも、中小企業では多くが譲渡制限会社ですから、「売る」と言った瞬間に終わるわけではありません。会社法136条・137条は、譲渡制限株式について、株主または取得者から会社に承認の請求をする道を用意し、139条は原則として株主総会、取締役会設置会社では取締役会で承認・不承認を決める建て付けを置いています。さらに会社が承認しない場合には、140条以下で会社または指定買取人による買取りの流れが問題になります。つまり、退場設計の第一歩は「誰がいくらで買うか」だけではなく、そもそもその譲渡を会社がどう処理する会社なのかを定款と機関設計から確認することです。
ここで重要なのは、紛争を終わらせる場面では、法的には「会社に残る側」が必ずしも強者とは限らないということです。譲渡制限会社では、承認しないなら会社又は指定買取人が価格の問題まで引き受ける覚悟が必要になりますし、価格がまとまらなければ裁判所の価格決定へ進む余地があります。売る側も買う側も、「とにかく出ていけ」「安く引き取る」で済むわけではありません。退場設計とは、感情的に相手を追い出すことではなく、株式の帰属をどう動かし、その対価をどう処理するかの設計です。これは前記の譲渡制限株式の承認・買取りの制度構造から導かれます。
次に、会社そのものが買い取る、つまり自己株式取得で出口を作る方法があります。会社法155条は株式会社が自己株式を取得できる場面を列挙し、156条1項は、原則として株主総会で、取得する株式の種類・総数、取得価額の総額、取得期間などを決議する仕組みを置いています。上場会社向けの開示様式でも、自己株式取得について156条1項に基づく株主総会決議や、165条3項により読み替えて適用される156条1項に基づく取締役会決議の内容を記載する前提が明示されています。したがって、閉鎖会社の支配権紛争でも、「会社が相手方株式を引き取って終わらせる」という設計は可能ですが、それは社長の思いつきではなく、自己株式取得の法定手続として組み立てる必要があります。
ただし、自己株式取得は便利な魔法ではありません。自己株式取得による支払は会社財産から出ますから、会社法465条が前提にしているように、欠損・分配可能額の問題が直ちに絡みます。実際、開示様式でも自己株式取得の記載に際して465条に規定する欠損が生じた場合の支払額等を記載する前提が置かれています。要するに、会社が相手を追い出したいからといって、会社の資金で無理な高値買取りをしてよいわけではないのです。支配権紛争の和解で自己株式取得を使う場合には、会社の資金繰りと適法性を両方見る必要があります。
さらに、中小企業で実務上かなり強いのが、相続で入ってきた者をどう退場させるかという場面です。会社法174条は、定款の定めがある場合、譲渡制限株式を相続その他の一般承継で取得した者に対して、会社がその株式を会社に売り渡すことを請求できるとしています。176条は、その請求は相続等を知った日から1年以内でなければならないとし、177条は価格をまず協議で定め、請求日から20日以内であれば裁判所に価格決定の申立てができ、申立てがなければ請求は効力を失うと定めています。つまり、創業者死亡後の家族紛争では、「相続人になった以上当然に経営に口を出せる」という話ではなく、定款に仕掛けがあれば、会社が価格を払って外に出すルートが法律上用意されています。
この相続人売渡請求は、感情的にはかなり強い制度ですが、実務的にはむしろ「会社を割らないための最後の安全弁」として機能することがあります。共同相続のまま株式が割れ、権利行使者指定もまとまらず、経営だけが止まるよりは、価格の争いに切り替えて一人を残し、他を退出させる方が会社は生き残りやすいからです。もっとも、ここでも結局は価格が核心で、退場そのものより、いくらで退場するかが本当の争点になります。これは174条以下と177条の価格決定の構造からみて自然な帰結です。
もう一つ、やや大きめの再編場面では、反対株主の株式買取請求も出口になります。会社法116条は一定の定款変更等に反対する株主の株式買取請求を置き、117条で価格決定等を予定していますし、合併などの組織再編でも785条・786条が反対株主の株式買取請求と価格決定等を置いています。したがって、支配権紛争を組織再編や定款変更で片付ける場面では、「勝ち負け」よりも、反対株主に買い取りで出てもらう制度が表に出ます。中小企業で毎回これを使うわけではありませんが、退場設計の選択肢として知っているかどうかで、打てる構想は変わります。
実務で大事なのは、和解を「気持ちの問題」にしないことです。退場設計を本当に機能させるには、誰が買うのか、会社が買うのか第三者が買うのか、譲渡承認は要るのか、自己株式取得の手続に乗せるのか、価格をどう決めるのか、代金をいつ払うのか、代表権や口座・印章・登記をいつ引き継ぐのかまで一体で組む必要があります。ここが曖昧だと、「株だけ渡したが代金が出ない」「代金は決まったが登記や印章が動かない」「退場したはずの者が取引先に通知を打つ」といった二次紛争になります。これは条文の外の実務ですが、前記の会社法上の出口がいずれも価格・手続・期間を細かく置いていることからも、雑な和解では終わりにくいことが分かります。
したがって、この類型で最初に確認すべきものは、定款、株主名簿、譲渡制限条項、相続人売渡請求条項の有無、会社の資金余力、自己株式取得に乗せられるかどうか、価格算定の素材、登記と口座・印章の引継順序です。会社を割らずに終えるというのは、単に仲良くすることではありません。法律上使える出口を見つけて、そこに代金と権限移転の設計を流し込むことです。
第13講の結論を一言でいえば、会社支配権紛争のゴールは、必ずしも判決で白黒をつけることではありません。株式をどう引き取り、誰を残し、いくら払って、いつ権限を移すかを設計できれば、会社を二つに割らずに終える余地はあるということです。和解とは感情の融和ではなく、条文上の出口を使った退場設計です。